第128話 勇者パーティーの末路





 地下牢に降りると、私たちの足音が聞こえたのか、捕虜が騒ぎ出した。


「おい! 酒持って来いや、酒! テメェらの酒なんぞ不味くて吐きそうだが、ここでは特別に飲んでやるからよ!」

「クソどもが! 人間様が怖くて指一本出せないなら、さっさと出しやがれ!」

「そうよ! 解放しなさい! 私たちにこんな扱いをして、タダで済むと思っているの!」

「1000倍返しされるだけですよ。いい加減に諦めなさい」


 元気なのはもちろん勇者パーティーの面々だった。

 なるほど。

 これは酷い。

 というか、よく牢屋の中で、これだけ吠えることができるものだ。

 まあ、うん。

 食事と環境が与えられている証拠か。


 彼らに面会する前に、私はいくつかのことをフレインに確認した。


「連中は、戦争の結末は知らないんだよね?」

「もちろん教えていない」

「なら、もしかして、勝ったと思っているのかも知れないね。というか、勝ったからこそ自分たちに手出しできないでいると思っているのか」

「多分、そう」

「ごめんね。私が優しい指示なんて出したばかりに苦労させて。勇者の様子はどう?」

「そっちは、ファー様の魔法で大人しい。平気」


 それはよかった。

 とはいえ、まずは勇者の様子から確かめることにした。

 勇者は念の為、最奥の牢に入れてあるとのことで、そちらに向かう。


 途中で勇者パーティーたちの前を通った。

 彼らは、1人ずつ個別に入れられていた。

 通路には明かりがあって、鉄格子ごしとはいえお互いの様子は確認できるし、会話もできる状態になっていた。

 捕虜としては十分に高待遇だ。


 ギャーギャー騒いでいた彼らだけど……。


 私たちが通りかかると、さすがに黙った。


 通り過ぎた後でウルミアが言う。


「さすがはファー様ね。あのうるさい連中が、一瞬で静かになったわ」

「あはは。そうなのかなぁ」


 威圧とかは使っていないから、私が原因ではない気もするけど。

 フレインが睨んでいたしね。


 勇者アレスと再会する。


 威勢と自信に満ちていた彼は、もうどこにもいない。


 私たちの姿を見ると、


「ひいいいいいいい!」


 と悲鳴を上げて、部屋の隅に逃げて、背中を向いて恐怖に震えた。

 演技には見えない。

 私の闇魔法は、恐ろしいほどに効いているようだ。

 その惨めな姿を見ると、いくらか申し訳ない気持ちにはなるけど、同時に無力化できていることはよかったと思う。

 でなければ、殺すしかないのだし。


「ねえ、ウルミア。勇者たちの処分は、任せてもらってもいい?」

「もちろんお任せするわ」


 魔族と人族の間にも捕虜交換や身代金の支払い等はあるようなので、勇者パーティーは良い素材になるのだろうけど――。

 今回は、私が活用させてもらおう。


 怯える勇者を眠らせて、風魔法『インビジブル・ハンド』――見えない手で持ち上げた。


 次にパーティーメンバーのところに戻って、こちらも全員を眠らせる。

 彼らと会話はしない。

 会話の必要は、残念ながらまったく感じなかった。


「こいつらは人間の国で解放するね。メルフィーナさんたちをオトモダチパーティーに誘う手土産にさせてもらうよ」


 反対されるかな……。

 と思ったけど、ウルミアもジルも文句は言ってこなかった。


「陛下はオトモダチパーティーを、どの程度の規模にするおつもりなのでしょうか?」


 アンタンタラスさんが質問してくる。


「んー。そうだねー。できれば、盛大にパーっとやりたいかなー。人間側からも、来たいのなら国王とかも来てくれて構わないし。メルフィーナさんにはそうやって伝えるつもりだよ。よかったら声をかけて下さい、って」


 魔族側から魔王が出るなら、人間側から国王が出てもいいよね。

 バランスも取れるし、話もきっと弾むだろう。


「果たして来るのでしょうか……?」

「どうだろ。強制するつもりはないから、ゼロかも知れないね。私と仲良くしたくない人と私も仲良くするつもりはないから、それならそれでいいし。敵は敵、友達は友達。だよね」

「――それは、選別でしょうか?」

「あはは。選ぶのは向こうだよー。私じゃないよー」


 さて。


 人間の国に行く前に、もうひと仕事頑張ろう。

 私は勇者パーティーの面々に、『マインド・コントロール』の魔法を使った。

 全員、温厚な良い子にする。

 加えて、戦いは怖い、剣は怖い、魔法は怖い……。

 という気持ちを全員に植え付ける。

 破られてしまうかもだけど、やらないよりはいいだろう。

 そのまま解放して復讐の鬼になられるのは困る。


 あと、1年分の記憶を消した。


 私に関わることは、何も覚えていてくれなくていいしね。

 彼らとは完全に他人。

 もう関わることもないのだし。

 今回の戦争のことも忘れて、平和に生きてもらおう。

 もっとも、まわりがそんなことはさせないのかも知れないけど……。

 そこはもう知らない。


「よし。これでいいかな。

 じゃあ、行ってくるね。みんなは、また夕方に」


 勇者パーティーの全員を『インビジブル・ハンド』で持ち上げて――。

 私は転移魔法を使った。

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