第127話 オトモダチ





「何を言っているのぉ。ジルたちはオトモダチなのお」

「そうよそうよ!」

「カニカニ」


「んー。ホントにぃ?」


「本当なのぉ。ほらあ、これを見るのお」

「見てよ見てよ!」

「カニカニ」


 お友達会のお知らせでウルミアの魔王城に行くと、吸血鬼の魔王ジルゼイダとその腹心のアンタンタラスさんも来ていた。


 で、うん。


 すっかり平和を取り戻した魔王城の客室で、ちょっとイジケてしまった私に……。

 ジルとウルミアが優しくしてくれるのでした。

 あとフレインもカニカニしてくれるのでした。


 そんな3人の額には、そそくさとアンタンタラスさんが準備した、

 オトモダチ

 とマジックで書かれたハチマキが締められていた。


「……うん。……確かに、オトモダチだね」


 そう書いてあるし。


「なのお」

「そうよそうよ!」

「カニカニ」


 気のせいか半分眠りながらジルがしゃべっているだけだど……。

 まあ、いいか。


「みんなー!」


 私は3人に抱きついた!


 オトモダチ!


 ということもありつつ……。


 3人は、オトモダチパーティーの紹介状を受け取ってくれたのでした。

 よかった!


 ちなみにパーティーの開催日は、年明けの10日とした。


 まだかなり先だけど、大陸の南北からヒトを呼ぶのだとすれば、それくらいの時間の余裕は必要だろうと言うことで。

 私もじっくり、どんなパーティーにするかを考えていこうと思います。


「もちろん、アンタンタラスさんもね。はい、招待状」

「ありがとうございます。喜んで参加させていただきます」

「他の魔王さんたちも、もし来てくれるようなら歓迎しますのでよければお誘いをお願いします」

「畏まりました。首に縄をかけてでも、必ずや全員、連れて参ります」

「あ、ううん。強制はやめてね。来たい人だけでお願い」

「畏まりました」


 アンタンタラスさんはあくまで恭しい。

 私は、うん。

 最初の印象があるから――。

 ダンジョンで死霊の群れを召喚しようとしていた時の、ね……。

 どうしてもその態度に違和感を覚えてしまうです。


 ただ、まあ、さすがに、あの時みたいにお願い、とは言えない。


 くはははは!


 とか高笑いするテンションは、普段のものではないよね。

 さすがに変だ。


「あと、アンタンタラスさん、今夜は空いていますか? 実はイキシオイレスが向こうの世界から来るので、できれば今後のことを相談してほしいんですが」


 実は今日はこれもお願いに来た。

 急のことだけど石木さんから希望があったのだ。

 アンタンタラスと、異世界での今後の活動についてを相談させてほしい、と。

 私としても、ぜひお願いしたいところだった。

 なにしろ私には、どうしていいのか、まるでわからないしねっ!

 白紙の子ですしおすし!


「それは願ってもありません。こちらからもお願いいたします。イキシオイレスには話すべきことが私にも多くあります故」


 幸いにもアンタンタラスさんは了承してくれた。


「ありがとうございます。では、夕方になったらハイネリスにご招待しますね」

「おお! それは本当ですか! 名高き陛下の旗艦に再び搭乗させていただけるとは! このアンタンタラス、光栄の極みです」


 本当に名誉なことなのか、深々と一礼された。


「いいなーいいなー」

「羨ましいのお」

「カニカニ」

「よかったら3人も来る?」


 誘ってみると、3人は即座に来ると言ってくれた。

 嬉しい。


「じゃあ、私たちは、みんなでゲームとかしよう!」


 難しい話は、大人たちに任せておいてね。

 まあ、うん。

 ウルミアたちも子供なのは見た目だけで実は100歳とからしいので……。

 それは言わないけど……。

 私は、とにかく遊べればいいのです。


 この後は、ウルミアの魔王城を見せてもらった。

 勇者パーティーに襲撃された傷跡は、すでに癒えていた。

 みんなも元気そうで本当によかった。


「ねえ、ファー様。そういえば、あいつらはどうすればいいの?」


 見学の中でウルミアに言われた。


「あいつらって?」

「捕虜にしたニンゲンども。とりあえず投獄しているけど」

「あー」


 完全に忘れていた。

 勇者パーティーを捕虜にしたんだった。


「会わせてもらってもいい?」

「いいけど……」


 うなずきつつも、ウルミアは少し渋る。


「ファー様、捕虜に会うなら厳しい態度でお願いしたい。あいつらは殺されず、拷問も尋問もされていないので、捕虜の分際でツケあがっている」

「うん。わかった」


 フレインの言葉に異存はない。

 そもそも情け容赦なく非戦闘員を殺して回った連中だ。

 それに、そうか。

 死なないように捕虜にしておいて、と私は言ったよね。

 なので手出しせず、その通りにしてくれていたのか。


 私はスキル「平常心」をオンにした。

 このスキルさえあれば、私は冷静に物事を判断できる。

 物怖じもしない。


 すうっと――。


 不安や迷いが消えるのがわかる。


 ちなみに性格スキルには「豪胆」を初めとして、他にも種類がある。

 中には「覇王」「大皇帝」といった、つけたらどうなるのこれ、という想像するだけで恐ろしいものもある。

 いつか機会があれば使うかも知れないけど……。

 今のところは、お試しでもつけていない。

 覇王とか、下手につけたら、大変なことになりそうだしね。

 気づいたら世界征服していそうだ。


「ジルとアンはどうする? 一緒に来る? 不快かも知れないけど」


 ウルミアが言う。


「行くのお。ねえ、アン」

「ええ。そうですね。勇者パーティーには興味があります」

「なのお」


「手出しは無用でお願いね。私が話すから」


 私は一応、伝えておいた。


「畏まりました」

「なのお」


「ねえ、アンタンタラスさん。今さらだけど、私に反感とかはなかったの?」


 いきなり殺しちゃったし。

 言いたいことがあれば、言ってくれていいけど……。

 私がそう言うと……。


「私は1500年前より陛下の忠実なる臣です。反感など一片たりとも存在いたしません。あとどうぞ私に敬称はおやめ下さい」

「わかった。じゃあ、今後ともよろしくね、賢者アンタンタラス」

「それは――。今でも私を賢者とお認めに……?」

「今の世ではイキシオイレスと2人だけだけどね。あらためて、差し上げるよ。正式に賢者と名乗ることを許します」

「ありがたき幸せ――。ありがたき幸せにございます――」

「よかったのお。アンは報われたのねえ」


 ジルがしみじみと言う。


「あはは。大げさだなぁ」


 私は笑ったけど――。

 アンタンタラスは感極まっていた。


 ちょっと気軽すぎただろうか……。


 私は思ったけど、でも、訂正はしなかった。


 双璧の賢者。

 いいよね。


 これからは頼りにさせてもらおう。

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