第124話 エピローグ 神なき時代の神
いきなり愚痴みたいに、世界の伝説が語られようとしていた。
1000年前の出来事――。
それは『大崩壊』と呼ばれる、一夜にして世界が滅びかけた大事件だった。
大崩壊によって、世界に満ちていた魔素は大きく失われ、世界中で天変地異が発生して、それまでの繁栄はすべてが過去となった。
とんでもない出来事だ。
なぜ、そんなことが起きたのか。
その原因は不明。
当時から生きるアンタンタラスさんや石木さんもわからないと言っていた。
一部では、当時の絶対皇帝だったファーエイルさんが、闇の神として生まれ変わるためにすべてを生贄にしたとも言われているけど――。
それはあくまでも推測。
真相については、誰にもわからないことだった。
まあ、うん。
本人なら、さすがに知っているのか。
今、それを語ろうとしているのは、まさに本人なのだった。
「もっとも、悪いのは前の闇の神だったんだけどね。あいつ、こともあろうか外なる神とつるんでこの世界を喰らい尽くそうとしてね。それをこいつが正面から迎え打とうとして、そのせいで喰らわれる以前に世界が崩壊しかけてね――」
「こいつとは何なのです! 新米神のくせに生意気なのです!」
「残念だけど、年齢で言うならボクは1万歳以上だからね? ルクシスなんて最初からやりなおしで今はただの1000歳児でしょ? 子供が何を偉そうに言っているのさ」
「きぃぃぃ! 生意気なのですぅぅぅ!」
「あーはいはい」
「そもそもの原因は、おまえが闇の力を強くしすぎたからなのです!」
「ボクはそれなりにバランスを取っていたでしょ? 光の大神殿だって作っていたし。キミの使徒があまりに弱すぎたのが悪いのさ」
「光の使徒は十分に立派だったのです! おまえがチートのチートのチートすぎたのがすべての原因だと言っているのです!」
「相手が強すぎるのが悪いって、それ、情けないよ? そもそもボクが強くなければ、世界は消えていたでしょ」
「つまり、えっと……。世界が崩壊するレベルの戦い――。外の神様と元の闇の神様と、光の神様との最終戦争みたいものを、ファーエイルさんが間に入って、防いで……。世界はなんとか助かりましたということなのでしょうか?」
2人のううん、2柱というのかな、の神様のじゃれ合いを見ながら、私は推測したことを口に出して聞いてみた。
「まあ、そんな感じ。おかげで世界は半壊しちゃってさ。ボクは、この世界の崩壊を防ぐためにも新しい闇の神になるしかなくてね。神は神で楽しいからいいんだけどね。1万年以上生きてヒトの姿でいるのにも飽きていたし」
ファーエイルさんは肩をすくめつつ答えてくれた。
「ちなみに、どんな風に防いだんですか?」
「ごめん。それは禁則事項なんだ。なにしろ神を殺す方法になるから」
なるほど、それは言えないか。
「それでね、ファー。ボクたちは実は、そんなこともあって、この世界への直接的な干渉を禁止されていたんだ」
「禁止……。ですか……」
「そ。創造神にね」
「……そういう神様もいるんですね」
「この世界だけでなく、すべての宇宙を作り給うた存在さ」
「すごいんですね……」
神様以上の神様、ということなのか。
「普段は楽師に囲まれて寝ているだけの穏やかな方なんだけどね。でも、こいつがこともあろうに光の化身を降ろしちゃったでしょ。そのせいでさ」
「だからこいつとは誰のことなのですか! 本当に生意気なのです!」
「こいつが破壊精霊みたいな化身を降ろしたせいで、この世界の神は連帯責任で1000年間の謹慎処分を受けちゃってね。あ、でも安心して。魔法や加護は従来通りだから。ボクたちとの交信が不可能になって神官は騒ぐかも知れないけど、それだけだから」
「私、異世界の文化や習慣はわかっていないんですけど、それって、それだけというには大変なことのような気もするんですけど……」
「そこはファーが頑張ってね」
「えっと。そことは、いったい、どこなんでしょうか」
会話の流れからして、人生を頑張れ、というのは違う気がした。
私のその嫌な予感は……。
的中した。
「神なき時代の神として、ね」
「え」
なんだろう、それは。
謎だ。
謎すぎる。
「おまえが闇の化身でないことはわかったのです。だからやむなしなのです。いいですか、新しいファーエイル。外なる神にこの世界の力を奪われてはならないのです。ルクシスたちの謹慎が解けるまでの間、おまえが守り切るのです」
「たった1000年のことだから、よろしくね」
「なのです。たった1000年で謹慎は解けるのです。ルクシスも、あと1000年もあれば力を取り戻すのです。1000年経てば万全なのです」
「いや、あの、私、ただの人間なので、1000年も生きられない……」
私がいたって当然のことを言うと――。
あはは、と2人に笑われた。
私もすぐに気づいた。
あー、はい。
このガワは、1万年以上を元気にしているんだっけ。
1000年なんて、あるいは、大した年月ではないのかも知れないね。
いや、うん。
大した年月だけどね。
と、私が「平常心」で冷静にツッコミを入れていると――。
「さて、そろそろ時間の限界かな。これ以上キミがここにいると、閉じていく境界に挟み込まれてしまうかも知れない」
「最後に言っておくのです! ほんの少しだけ迷惑をかけたのです!」
2人の姿が消えていく。
「あの、外なる神っていったい、どういう存在なんですか!?」
私は最後に叫んでたずねた。
それだけは聞いておかねばと思ったのだ。
「這い寄る混沌。闇をさまようもの。気をつけてね、ヤツは闇に近いから。ボクも実はヤツには殺されていてね――。だけど、慌てる必要はないから――。その時が来れば、キミなら自然と違和感に気づいて、きっと――」
ファーエイルさんの言葉は、最後まで聞くことができなかった。
2人の姿が星の光の中に溶けて消えた。
私は呼びかけたけど、もう返事はなかった。
私は1人になった。
交信の時間は、おわったのだ。
「ありがとう、ファーエイルさん。私に新しい扉を開いてくれて」
もう聞こえていないかもだけど、私は最後に伝えた。
それは私の本音だ。
私の世界はずっと閉じていた。
毎日、部屋の中で、小さな明かりだけを頼りに生きてきた。
夢も希望も、あるにはあったけど……。
動画配信で人気者になるっていう……。
でもそれは小さな明かりの下で見つめるだけのものだった。
はかなくて弱くて……。
消えるだけのものだと、自分でもわかっていた……。
だから私は願っていた。
誰か私を、変えてくれないかな、と。
なんて他力本願!
でもそれが私なのだった。
今でもそれは、たいして変わっていないのだけれど……。
なにしろ、うん。
日本での会社のことも、異世界での政治のことも、基本的にはヒトに丸投げだ。
でも、たったひとつ変わったのは――。
「ただいま、カメキチ」
「おかえりなさいませ、マスター」
「戻ったばかりだけど、ちょっとだけ散歩してくるね」
「はい。行ってらっしゃいませ、マスター」
私は転移魔法で、ハイネリスから外の世界に出た。
世界は青い。
天頂には、まぶしい太陽があった。
そう。
私は今、太陽の下にいる。
それはどこまでも輝いて、どこまでも続いた、広い広い世界だった。
「神なき時代の神、か……」
なんだか大変な役割を押し付けられてしまった気もするけど……。
「うん。まあ、テキトーに頑張ろうかな。えいえい、おー!」
私は青い空の中で――。
輝く太陽に向かって、元気に拳を振り上げた。
☆
おわりました。これにて第1部完です。
ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました。
お話自体は、明日からも普通に第2部として続きますが、
まずはともかく一区切りです。
挫けることなく、ちゃんとここまで書けて、本当によかったです。
評価や感想、ギフトありがとうございました!
実にやる気へと繋がりました!
よかったら今後とも、応援いただければ嬉しく思います。
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