第123話 神との交信




 話し合いの後、時田さんと石木さんの2人は現代世界に送り帰した。

 私はハイネリスの自室に戻る。


「ふう」


 椅子に座って、気持ちを落ち着ける。

 今日はまだ、やるべきことがあった。

 むしろこれからが本番だ。


 私はアイテムBOXから、ひとつのアイテムを取り出す。

 それは石板。

 アルター・ディスクと呼ばれる大帝国時代の遺産。

 大規模儀式で魔力収束に使われる祭具であり、適正さえあれば、なんと神との交信まで出来てしまうという逸品だ。


 私はあらためて、昨日からのことを思い出す。


 本当に怒涛だったけど――。

 ようやく、いろいろなことに一段落がついた。


 私はとんでもない力を手に入れた。


 それこそ世界制覇すらできてしまいそいなほどの、圧倒的な力だ。


 だけどそれは、そもそも私のものではない。

 私にガワをくれたファーエイルさんが、1万年以上の時をかけて作り上げてきたものだ。

 私はそれを継承したに過ぎない。

 だから一度、ちゃんと確認をしてみたいと思った。

 私は本当にこのままでいいのか。

 あるいは、やるべきことはやったのだから、自主返上とかをするべきなのか。


 そして、その上で――。


 光の化身とか。

 闇の化身とか。


 いったい、神様の世界で何が起きているのか。

 ファーエイルさんは、本当は私に何を求めているのか。

 それを聞きたかった。


「カメキチ、しばらく1人にさせて。大切な儀式をするから」

「了解です、マスター。別の部屋に控えていますね」

「うん。お願い」


 カメキチにも部屋から出ていってもらった。


「ふう」


 緊張する。


 アルター・ディスクの使い方は聞いていないけど、直感的にわかる。

 魔力を注ぎ込んで、念じるのだ。


 私は意識を集中して、闇の神ザーナスへの呼びかけを始めた。

 石板に闇の魔力を注ぐ。

 丁寧にゆっくりと、深く、深く……。


 やがて世界が変わった。


 真っ暗闇の中なのに、まわりを見渡すことのできる――。

 はるか遠くに小さな光のきらめく――。

 まるで宇宙空間のような世界に――。


 そして――。


「やあ、久しぶりだね」

「はい。久しぶりです」


 私とまったく同じ姿をした少女が現れてくれた。


「まず、言っておくと、ボクはボクのことを君に差し上げたのであって、貸したわけではないから返却は不要だよ。君は君として、どれだけでも好きにしてくれればいいさ」

「ファーエイルさんが残された遺産も、ですか?」

「もちろん。見つけてくれて、みんなもきっと喜んでいるよ」

「ありがとうございます」

「あと、君を使って何かをしようとか、世界に闇の勢力を広げようとか、そういうのもないから安心して。自然にそうなってしまうことについては許してほしいけどね。それはすでにボクではなくて君のしていることなんだし」

「あはは……。それは、そうですね……」


 言い返す言葉もありません。


「あとは、そうだね、よくルクシスの妄動を防いでくれたね。ありがとう」

「それは神託のこと、ですよね?」

「そ。ちょっと待っててね」


 ファーエイルさんの姿が消える。

 と思ったら――。


 どこかから――。


「ちょー! やめるのです! 離すのです! どこに連れて行く気なのですー!」

「いいから来てよ。キミのせいで、まるでボクの行為に意図があるみたいに心配されているんだから責任を取ってよね」


 なんていう騒ぎ声が聞こえて――。


 ポンっと、弾けるみたいにファーエイルさんが戻ってきた。

 脇に白服姿に白髪の幼女を抱えて。


「これがルクシスね。1000年前に一度消滅して、今は再生途中だからこんな姿だけど、これでも一応は光の神さ」

「一応ではないのです! 立派な神なのですううううう!」

「はいはい。もー。ギャーギャーうるさいなぁ」

「だいたいそもそもの原因は、おまえがコンナモノを世界に落とすからなのです! どこからどうみても闇の化身なのです! 放っておけば世界を闇に染められるのです! 対抗して叩き潰すのは当然なのです!」


 睨まれたり指を差されたわけではないので確実ではないけど……。

 コンナモノとは、きっと私のことだね。


「というわけでね。迷惑をかけたね」

「あはは……。いえー」

「だいたいさ、ほら、ルクシス、しっかりと自分の目で見てよ。たしかにこれはボクのガワだけどボクはそもそも闇だけの存在ではなかったよね?」

「イヤなのです! 誰が見るものか、です!」

「いいから見ろ!」


 ファーエイルさんが、そっぽを向いた幼女の頭をひねって、強引に私を見させた。

 幼女は輝く白い目で私を見ると――。


「……確かに、内包する魔力には、光も十分にあるのです」

「でしょ」

「でも表は闇なのです! 結局は闇の化身なのです! ぶっ壊すのです!」

「あーもう暴れるなー」


 ファーエイルさんは幼女を押さえつけると――。

 今度は私に向かって言った。


「まあ、確かにボクは、闇の女王と呼ばれていたし、実際、世界を支配するのには闇の力を使っていたし、今は闇の神だから闇なんだけどね。だからそのガワも初期状態では闇の化身だし、闇の力が最も使いやすいけど――。

 ファー、ちょっとユーザーインターフェースを開いてみてよ」


「はい。開きました」


 私は言われるままメニュー画面を出した。


「そこのステータスのさ、称号って項目があるよね。多分、今は、ロード・オブ・ダークネスってなってると思うけど」

「はい。なってます」


 闇の王。まさに闇の化身の称号だ。


「それ、タゲってみて」

「はい」


 すると、なんと、称号リストがポップアップした。


「なんでもいいから、無難そうなのを適当に選んでみて?」

「はい……」


 じゃあ、えっと……。

 あ、これにしよう。

 シャイニング・メイデン。


 ポチッと。


 次の瞬間だった。


 急に光の魔力が溢れて、私は驚いた。


「お。いいのを選んだね。ほら、見てみなよ、ルクシス。光の使徒だよ」

「ど、どういうことなのですか、これは!」

「だから言ったでしょ。ガワはガワだって。ガワっていうのは、中身次第で、どうとでも変化できるものなのさ」

「中身……ですか……」


 幼女ことルクシス様が、じーっと私を見つめる。


「闇なのです! 中身は結局、闇なのです!」

「あはは。そりゃーまーねー。ボクと相性の良い魂だったんだからさー」

「なら意味はないのです」

「意味はあるよね? 目の前の彼女がボクではなくて、あくまでボクとは別のニンゲンであることは証明できたでしょ?」

「それは……なのです」

「あと綺麗な魂でしょ。汚れが付いて見える? 外なる神の気配は?」

「それも……なのです」

「そもそもさ、ルクシス。キミ、力だけ押し込んだ制御不能の化け物を送り込んで、ファーが止めてくれなかったらどうなっていたと思うの? はぁ。まったく。どうして1000年前以上の失敗をしようとするのか――」

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