第122話 作戦会議




 リアナを送って、ウルミアとフレインを送って――。

 私は、時田さんと石木さんと3人になった。


「さて。じゃあ、遅くなったけど時田さんから話を聞こうかな。と、その前に――」


 2人を連れて転移。


「おかえりなさいませ、マスター」

「うん。ただいまー」


 私は、超機動戦艦ハイネリスの最高管制室こと可愛らしい部屋に飛んだ。

 カメキチが出迎えてくれる。


「この2人はお客さんね。少し滞在させるから」

「了解しました」


「ファー様、ここは……? いつもの日本の部屋ではないようですが……」


 部屋を見回して石木さんが言う。


「カメキチ、この2人に、この船の外からの姿を見せてあげて」

「了解しました」


 すぐにモニターに、空に浮かぶ巨大戦艦外観が映った。


「こ、ここはまさか――! ハイネリスの船内なのですか!?」

「うん。そうだよー」


 さすがは石木さん、名前も知っているか。


「まさか、ここは陛下の私室では……」

「うん。そうだよー」

「よろしいのですか……? 下賤の私どもを入れるなど……」

「あはは。下賤ではないよねー」


 私が気楽に笑っていると――。

 その脇で、時田さんが石木さんにたずねる。


「空中に浮かぶ巨大戦艦……。異世界では、普通に存在するものなのかね?」

「かつての時代には普通だったが――。今ではロストテクノロジーだ。僕が聞いた限り、少なくとも大型艦は残っていない」

「――つまり、この船は特別なのだな」

「当然だ。しかもこのハイネリスは、当時ですら世界最強と呼ばれていた。今の世界で立ち向かえる者などあるはずもない絶対の力だ。それこそ、神の化身ですら打ち破るほどのな。さすがは陛下と言う他はない」


「まあ、まずは座ってよ」


 私は2人をソファーに招いた。

 座ると、脇に控えていたメイドがお茶と食べ物は必要かと聞いてきた。

 軽食をお願いしたら紅茶とサンドイッチが出てきた。


「じゃあ、時田さん、早速だけど、現代日本で私に害意を持っていた魔術師連中のことと、連中のその後を教えて?」

「はい。畏まりました」


 妙に恭しく頭を垂れた後、時田さんは語った。


「申し訳ありません。今回の出来事は私の戦略上の失敗でした」

「というと?」


 まず時田さんは、魔術世界において、ファーという謎の少女の実在を、徹底的に否定しようとしたそうだ。

 ネットを騒がせているファーという少女は虚構であり、ただの話題作り、再生数稼ぎの手段のひとつでしかないと。

 それは成功して、魔術世界で、ファーや異世界が注目されることは防げた。

 そもそも以前から異世界は否定されていて、異世界を信じる時田さんが異端者扱いされていたこともプラスに作用したそうだ。


 でも、だからこそ、別の部分が注目されてしまった。


 それは「魔石」の出どころだ。


 これから大量の魔石を扱って、会社を作る上で――。

 魔術世界への挨拶はしなくてはいけない。

 時田さんはその挨拶を、魔石の入手先を明かすことなく行った。


 それは間違ったことではない。

 むしろ当然のことで、自らの力の源泉を明かす企業や魔術師などいないだろう。

 しかも時田さんは、異端者ではあるものの、魔術世界でもその実力を認められた日本では有数の実力者だった。


 なので挨拶自体は、問題なくおわった。


 しかし、時田さんがもたらした魔石は、あまりにも強力すぎた。

 それこそ出回れば、魔術世界のパワーバランスが変わってしまうほどに。


 なので魔術師たちは――。

 時田さんに隠れて、魔石の入手先を調べたらしい。


 そして……。


 私にたどり着いたようだった……。


「申し訳ありません。不覚でした」

「困ったことではあるけど、時田さんがそこまで頭を下げることではないよ。そもそも身バレしたのって、ファーとの関連性とか、ネットオークションの履歴とか、あとはやっぱり会社を作ろうとしていたからですよね」


 時田さんが非合法でこっそり取引しようとしていたのを――。

 それは嫌だなぁと言って合法にしたのは私だ。


「それで彼らは、私を拉致して、強引に聞き出そうとしていたんですか?」

「はい。私はそれを察知し、実行部隊を拘束しようとしたのですが――。間に合わせることができずに申し訳ありませんでした」


 私に連絡もつかなかったという。

 まあ、うん。

 異世界にいたしね。


「でも、いきなり拉致なんて、酷い連中だね、日本の魔術師って」

「奴等は大半が金と選民意識に肥え太った豚です。奴等にとって普通の市民など、そのあたりの石ころと変わりはありません。蹴ろうが捨てようが、好きにする権利が自分たちにはあるのだと信じて疑ってなどおりません」

「うわぁ」


 でも、うん。悲しいけど、昨今のニュースを見るだけでも……。

 そういう類の上級様が実在することについては、なんとなく想像できてしまう。


「それで、現状は?」


 石木さんがたずねた。


「安心したまえ。キチンと処理をしておいた」

「具体的には?」

「しっかりと眠っていたのでな。全員の衣服と所持品を処分して下着姿にしたところで、川の水を魔術で持ち上げて、落として、起こしてやったとも」

「それは……」

「ははは! 傑作だろう? 陰の権力者たちが、揃って下着姿でお目覚めだ」

「うん! いいね、それっ!」


 私は笑って称えた。

 まさに最高の「ざまぁ」だ。


「……時田、君は堂々とそれを行ったのか?」

「一応、姿は隠したがね。とはいえ、当事者たちに1年分の記憶は無くとも、前後の状況を知る者はいるだろう。陛下の存在が明るみに出るよりは、私が矢面に立つべきだ。なので場合によっては匂わせていただくが」

「そうか。しかし、いつから君はそんな忠誠心を持つようになったんだい?」


 石木さんが皮肉でそう言うと――。

 ソファーから身を起こした時田さんが、片膝をついて私に頭を下げた。


「陛下。私は力を求めております。魔術での延命を重ねて多くの時代を生き、今尚、私は渇望を続けております。理想を、高みを。それがあると知りながら、それが見えぬ日々は、まさに砂漠を彷徨い歩くに等しいものでした。しかし今、私の目の前にそれはあります。どうか私を配下に加えていただくことはできませんでしょうか。石木と同じ高みに、私を連れて行ってほしいのです。私のすべてを代償として捧げます。どうか」

「僕と同じとは、何を言っているのか」

「君の変化に、私が気づかないとでも思ったのかね。――どうか、陛下。どうか」


 確かに石木さんは、人間から魔人になった。

 わかる人にはわかるか。


「それって、人間を辞めることになるけど、いいの?」

「はい。もちろんです」

「覚悟はあるの?」

「一切の迷いはございません。むしろ私は人間を辞めたくてたまらないのです」

「なら、まあ、いいよ」


 時田さんも、いろいろと私の力になってくれているしね。

 決意に揺るぎはなさそうだし。

 強くなってくれれば、こちらとしても楽ができる。

 というわけで、さくっと闇魔法『ダーク・リライト』を使用して、時田さんの属性を人間から魔人に変更してあげた。


「うおおおお! 私はついに、人間を超えたぁぁぁぁぁ!」


 溢れる魔人としての力を漲らせて叫び、時田さんは大いに感動してくれた。

 おめでとう。

 これからもよろしくお願いしますねっ!





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