第118話 夜の道を歩いて





 夕食の後、すぐに私たちは家から出た。

 ぞろぞろと夜の道を歩く。


 私と石木さんと――。

 時田さん。

 ウルミア、フレイン。

 リアナ、メルフィーナさん。


 計7名の大人数だ。


 ヒロは置いてきた。

 学校をサボらせて、1日付き合わせてしまった関係者ではあるけど――。

 さすがにこれ以上は巻き込めないのです。

 ヒロは一般人だし。


 今一緒にいるのは、特別な力を持っている非一般人ばかりだ。

 リアナは一般寄りだけど、それでも聖女のようだし。


「時田さんはどうしますか? これから私たちは異世界に戻りますけど」

「ぜひ同行させて下さい。言葉は通じなくて構いません」

「わかりました」


 まあ、いいだろう。今更だし。

 それに我が家を狙ってきたという魔術結社のことも聞きたい。

 正直、いつか来るかも知れないとは思っていたけど……。

 ついに来たとは。

 しかも明らかに敵対する形で。


「行きますね」


 人目のないことを確認して、私は『テレポート』の魔法を使おうとした。


「お待ち下さい、カナタさん」

「どうかしましたか、メルフィーナさん」

「わがままを言うようですが、明日までこの夢を見させてもらえませんか? どうしても行きたいところがあって……」

「ご要望があれば、明日、あらためて飛びましょうか?」

「いえ――。できればこのまま――」

「わかりました」


 気持ちは、なんとなくわかる。

 なので私は了承した。


 すぐに石木さんがスマートフォンでホテルを探してくれた。

 夜の当日にいきなりチェックインなんてできるのかな、と私は思ったけど、空室さえあれば大半は大丈夫らしい。

 石木さんは、うちから歩いていける場所にある駅近くのホテルを取ってくれた。


 ホテルまでは歩いていくことにした。

 せっかくだし、夜の景色も堪能させてあげよう。

 と、その前に。

 また襲われるといけないので、敵対反応を調べてみる。

 近場にはなかった。

 だけど、念の為に範囲を広げて――。

 せっかくなので最大にしてみる。

 なんと今の私は、本州を包むほどの範囲を索敵することができた。

 すると残念ながら反応があった。


『ごめん、みんな。ちょっと待ってて』


 私はファーの姿に戻って、服装も『常世の衣』に戻して――。


 転移。


 私は東京にある高級ホテルの一室に飛んだ。

 そこにいた、いかにも重鎮そうな魔術師3名を魔法で眠らせて――。

 1人ずつ1年分の記憶を消して――。

 東京郊外の河原に置いた。


 さらにいくつかの場所に飛んで、眠らせて、記憶を消して――。

 先程と同じ河原に置いた。


 合計10名。


 よし。


 これでようやく反応がなくなった。


『ただいまー』


 私はみんなのところに帰った。


『ねえ、ファー様。もしかして、また敵がいたの?』

『うん。実は今、広範囲を調べたらね、なんと10人もいたから、ささっと記憶を消して、河原に捨ててきたよー』


 私がそういうと、ウルミアはとっても自慢げに胸を張って、


『ほら。でしょ』


 と、リアナに言った。


 いったいどうしたのかと思ったら、昼間に来た敵にも同じ処置をしたらしい。

 でもそれはどうかと、リアナに非難されたのだそうだ。


『あはは。ごめんねー、確かにどうかとは思うけどさー。もう面倒だし、蘇るかも知れないけど記憶を消して放置でいいやってねー』


 ちなみに石木さんが言うには、現代世界の魔術師が私やウルミアの魔法を打ち破ることなど絶対に不可能らしい。

 つまり、記憶が戻る心配はないそうだ。


 一応、今の処置については時田さんにも伝えた。

 すると時田さんは大いに笑った。


「ははは! さすがは社長です! 私の苦慮など必要ありませんでしたか! ものの5分で穴倉に潜むムジナを一網打尽とは!」

「時田、こちらについて良かっただろう?」

「君など関係なく、私はそもそも彼女に付くつもりだったが?」

「はっ」


 そんな石木さんと時田さんの会話を聞いていると――。

 スッと私の横にリアナが並んできた。


『ねえ、ファー』

『どうしたの、リアナ?』

『あのね……。私のこと、怒ってる?』

『どうして?』

『だって、ファーの友達に酷いことをしてしまって――』


 それはウルミアたちのことか。


『戦争だったんだし、私に思うところはないよ』


 ウルミアたちもさっぱりしたものだしね。


『そっか……』

『ただ、これからは仲良くしてもらえると嬉しいな』

『わかってるわ! 今日一緒にいて、この子たちも悪い子ではないと思ったし! それにファーの作る新しい時代は、みんなで一緒なのよね! 私もそこに参加したいわ! 私、もう本当に戦争なんて二度とゴメンだし!』

『うん。お願い』

『ありがとう、ファー! 私にできることなら、なんでも言ってね! これでも私、見せかけだけでも聖女様になったんだから!』

『リアナなら、きっと本物にもなれると思うよー』


 私が気軽にポジティブ発言をすると――。


『まっさかーむりむりー。光の力よ、私に奇跡をー! 祝福をー! なーんて叫んだって、私には何にも起こらないんだしー!』


 そう笑うリアナの体には、気のせいか、いや、うん、気のせいではなくて、私の目にはほんのわずかながらも白い輝きを感じたけど――。

 メルフィーナさんと目が合うと、小さく微笑まれたので――。

 それはまだ言うべきことではないのだろう。

 リアナは、今はまだ蕾だけど――。

 しっかりとその身に、光の花を宿しているようだった。


『ファー様! そいつらとばかり話していないで、私たちとも話してよー!』

『その通り。カニカニ』


 その後はウルミアとフレインに挟まれて――。

 2人とおしゃべりしつつ、私たちは無事にホテルへと到着した。



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