第115話 宣言!




 こんにちは、ファーです。

 私は今、可愛らしい部屋の中で大きなモニターごしにキナーエの朝日を見ながら、超機動戦艦を指揮しています。

 胸元には、立体映像のコントロールパネルが浮かんでいて、パネルを操作すればいろいろできるそうですが――。

 脇には、艦とリンクしたAI端末である機械の亀の、カメキチさんがいるので――。

 カメキチさんに頼めば、ほとんどのことは代行してもらえます。

 楽なのです。


 とりあえず私は、ハイネリスを上空に浮かせた。

 キナーエで戦う人間にも魔族にも、しっかりと見えるように。

 間違いなく、凄まじい威圧を与えることができるだろう。

 かつてこの世界を席巻した大帝国のロストテクノロジーの粋を集めた巨大戦艦だし。


 何をするかは決まっている。

 ともかく、戦いをやめさせるのだ。


「カメキチさん、インペリアル・ナイトを出撃させて」

「了解です、マスター」


 インペリアル・ナイトは、ハイネリスに格納されていたミスリル・ゴーレムの名称だ。

 その数は1000。

 どれほどの強さがあるのかはわからないので、とりあえず全機出してみた。

 目的は、光の化身の召喚した光の獣の討伐。

 人間と魔族には手を出さない。

 さあ、果たして、どれほどの戦果を上げてくれるかな。

 私はモニターで様子を窺う。

 モニターの映像は、AIが適切に場面を変えて映し出してくれる。

 うむ。

 30分とかけずに討伐に成功して、全機帰還してきた。

 完勝でした。

 すごいね。


 みんな、いきなりのことに、戦いの手を止めて、ハイネリスを見上げている。

 まさに今こそ時代劇的に言えば印籠のチャンスだ。


「あーあー。みなさん、こんにちは」


 私の声はハイネリスを通じて、キナーエにいる人たちにはしっかりと聞こえているはずだ。

 私は全員に語りかける。


「私は今、みなさんが見上げている巨大な鉄の砦――超機動戦艦ハイネリスの中から、みなさんにこの声を届けています。私はファー――」


 名前はどうしようか。

 少し考えて、わかる人には勝手にわかってもらえるように――。


「ファーエイル・ザーナス」


 と、名乗った。


「ただいまから、このキナーエ浮遊島帯域は、私のものとなります。みなさんの誰のものでもなくなります。なのでただちに、速やかに、この領域から出ていってください。出ていかない場合は強制的に排出します」


 そう。


 私は完全でカンペキな名案を思いついていたのだ。


 それは、北方大陸と南方大陸の中間に位置して戦争の現場になっている、たくさんの浮遊島が輪を描いて存在するこの幻想的な帯域を――。

 立入禁止にしてしまうことだ。

 そうすれば、必然的に大きな戦いは起きない、起こせない。


 魔族には転移魔法があるので、それは人間側にとっての不利とはなるけど――。

 それでも戦争はない方がいい。

 魔族については、後でオハナシをするつもりだ。


「1時間を差し上げます。さあ、早く、出ていって下さいね」


 果たして言うことを聞いてくれるか。


 私はドキドキしつつ――。

 ということは、スキル「平常心」が働いているのでないけど――。


 静かにみんなの様子を窺った。


 そこに警報が鳴る。


「マスター、眼下で急激に光の魔力が強まっています」

「みたいだね」


 モニターで海を移すと、そのようだった。


「でも無の領域って、魔力が効かないんだよね?」

「ハイネリスの起動に合わせて、その封印は解除されたようです。それによって、光の化身もまた活動を再開したのでしょう」

「そっかぁ。相手もさすがにタフだねえ」


 海が割れた。

 ハイネリスにも匹敵する、光り輝いた天使のような何かが現れて――。

 ハイネリスの正面に浮かんだ。

 光の化身の、第2形態といったところだろうか。


 甲高い音波のような波紋を広げて、天使が槍を掲げる。

 その槍に朝の光が吸い込まれていく。


「カメキチ、主砲発射」

「了解しました」


 ハイネリスにはたくさんの兵器が搭載されている。

 主砲スペクトラル・パニッシャーは、その中でも最強の威力を誇っている。

 全属性の魔力を凝縮させた無属性の一撃。

 万が一の時のために、すでに準備して、収束させてあった。


 それを放つ。


 全属性を含んだ波動の濁流が、次の瞬間には巨大な天使を呑み込んで――。

 分解して、消し去った。


「いいね。よかった」


 やっぱり事前の準備は大切だね。

 私は油断せず周囲の様子を確認したけど、さらに何かが現れることはなかった。

 どうやら無事に、今度こそは勝利できたようだ。


 私はあらためて、マイクで人間と魔族に伝えた。


「えー。繰り返します。この一帯は私の領土となりました。みなさんは早く出ていって下さい。そうしないと大変なことになりますよ」


 光の化身が復活したのは、逆に幸いだった。

 主砲の一撃を目の当たりにした人々は、恐慌状態に陥って、我先にと逃げ出してくれた。


 魔族の中には、逃げずに万歳しているヒトたちもいたけど……。

 その中には石木さんの姿もあった。

 となりにいるのは、アンタンタラスさんだった。

 無事に合流できたようだ。

 あとで拾いに行こう。


「万歳しているヒトたちも、早く退却するように。命令です」


 石木さんたちは、すぐに従ってくれた。


 こうして――。


 苛烈に続いていた人類連合軍と魔族軍の戦いは、私の勝利で終結したのだった。



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