第109話 海の中で私は
私は光の獣と共に、無の領域を目指して斜めに落下する。
光の獣は悶えたけど、私を振りほどくことも、空へと上がることもできなかった。
私たちはすぐに浮遊島を離れて――。
無の領域と呼ばれる、中央の海域の上へと移った。
それでも最初は飛べていたけど、浮遊島よりも高度が下がったところで――。
なるほど、これか。
急に力が抜けるのを感じた。
『フライ』の魔法効果が、強制的に解除されてしまったのだ。
光の獣も同様だった。
私と同じように、浮遊していた魔力を失って――。
吸い込まれるように海へと向かって――。
そのまま、大きな波しぶきを立てて、私たちは海面を割った。
そして、泡を残して沈んでいく。
光の獣は、海に沈んでいく中、一気にその光を失って――。
私よりも先に消えていった。
どうやら私、勝つには勝ったようだ。
ああ、でも、私も消えるのかなぁ。
苦しいのは嫌だなあ……。
私、どうして勢いだけでこんなことしちゃったんだろ……。
私は沈みながら、自分の行いに後悔したりもしたけど……。
まあ、うん。
私、頑張ったよね。
死ぬ前に一度だけでも頑張れてよかったよ。
逃げずに戦った。
私は戦えた。
その満足感はあった。
本望、というやつだろうか……。
これでおわりでも――。
悔いはない的な――。
だって、さ。
私はずっと、ただの闇の子だった。
ただの闇でしかなかった私が――。
こうして勇敢に、光り輝く敵に立ち向かって、戦って、死ねるなんて――。
それは最高だよね、きっと。
光りとか、輝きとか、優等生とか、なんとか。
それだけが正義ではないって――。
少しは示せた気がする。
そう思えた。
それでも、まあ、うん……。
光の化身を討伐してしまって、本当によかったのかどうかは謎だけど……。
とりあえずは、よかったと思うことにしておこう。
私は頑張った。
私は、頑張ったのだ。
自分なりに。
精一杯。
それは、すごいことなのだ。
私の革命なのだ。
だから、後悔はなかった。
ただ――。
不思議なことに、いつまで経っても苦しくなることはなかった。
私は沈んでいく。
海の底に引き寄せられながらも、私は意識を保っている。
私は『ユーザーインターフェース』を開いた。
スキル『平常心』をオンにする。
そうしてから、私は自分の現状を観察した。
まず、スキルは機能している。
ちゃんと効果を発揮して、私の心は冷静さを取り戻した。
手足を動かすこともできた。
消える様子はない。
溺れる様子もない。
どうやら今の私は、実際のところ、それほど絶望的ではないようだ。
泳いで海面に上がることも、普通にできそうだった。
生還できるのだ。
ただ私は、なんとなく海底が気になった。
海の底の景色は、まったく見えていないけど……。
なんとなく、ファーエイルとしての私が、海の底に懐かしさを感じている。
恐怖はない。
この海のあった場所には、かつて大帝都があったという。
海の底には、当時の遺跡があるのだろうか。
その遺跡が私を呼んでいるような錯覚さえ、私は覚えていた。
どうしようか……。
上の様子も気になるけど……。
なにしろ浮遊島では、人間と魔族がぶつかり合っている。
空を二分した先程の戦いに慄いて、お互いに退却してくれているといいけど。
まあ、うん。
とはいえ、さすがに戦争の面倒までは見れない。
光の化身は倒した。
私の役割は、それでおわりだ。
私は頑張った。
私は、海の底へと行ってみることを決めた。
私は海の中をどんどん潜っていく。
潜るにつれ、不思議な錯覚は強くなった。
いや、うん。
それは錯覚ではないのだろう。
私は確かに、海の底からの呼び声を聞いていた。
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