第107話 いきなりの決戦!
おはようございます。
時差的には、まだ、こんばんはですが……。
ファーです。
私は今、異世界の戦場、北方大陸と南方大陸を結ぶ中間地帯、深い海の上に多くの浮遊島がドーナツ状に広がる――。
キナーエ浮遊島帯域という場所に来ています。
いやあ、冷静ながらも驚きました。
なにしろ『テレポート』の魔法で上空に戻るや否や――。
強烈に敵対感知が反応するのです。
いや、うん。
覚悟はしていましたが……。
何が起きているかは、一目でわかりました。
夜の空が、真っ白な光に染め上げられていたのです。
そして――。
その中心には、光の魔力をたぎらせる、巨大な八本足の獣がいました。
その獣が光の化身なのでしょう。
獣は、自らの周囲に次から次へと小型の獣を呼び出し、眼下の浮遊島に送り込んでいました。
浮遊島ではあちこちで、人類連合と魔族軍とが戦っていた。
戦いは、どちらが優勢だったのか――。
それはよくわからないけど、ただ、光の獣の参入によって、ここから先は魔族軍が大いに劣勢となることは確実だろう。
さて、私はどうすべきか――。
迷うよりも先に、『ユーザーインターフェース』が自動的に開いたけど。
私の頼りになるスキル『自動反応』が、私の意思よりも早く動いたのだ。
もちろん『危機対応』はオンにしてありますので。
ユーザーインターフェースには、こうメッセージが現れた。
――領域展開を実行しますか?
――はい/いいえ
私は迷わず「はい」を選んだ。
うん。
領域展開が何かはわからないけど、自動反応様に任せておけば万全だ。
次の瞬間、私は心身に重い負荷を感じた。
体から闇の魔力が溢れて、光に染まっていた世界を押し返そうとする。
闇の領域を作るようだ。
私のチートなMPが、ものすごい勢いで減っていく。
最終的には90パーセントもの膨大なMPを作って、私は天頂の世界を二分した。
恐ろしい話だった。
そこまで使っても、まだ半分だけとは。
そして気がつけば――。
光の獣と完全に対峙していた。
空の状況からして、お互いの力は五分ということだろうか。
半分に割れた光と闇の空の中、私と獣は同時に距離を詰めて正面からぶつかる。
獣の巨大な口が、私を一呑みにしようとする。
相手は、まるでクジラのような巨体だ。
だけど私は怯まず、吸引してくる力にも負けることなく――。
するりと上に回って――。
伸ばした手刀で、獣の眉間を強く突いた。
私の手刀は獣の皮膚を破った。
手首までめりこませて、闇の魔力をさらにぶつけ――。
でもそれで、私は手刀を抜いて、獣から距離を取った。
獣は倒れていない。
眉間の損傷も、一瞬で修復されてしまった。
だけどダメージは与えられた。
闇の力に侵食された白い獣が、痛みに悶えるように咆哮を上げた。
その様子を見つつも、私は正直、少し動揺した。
自動反応による一撃で倒せなかったのは、これが初めてだ。
相手は相当な強敵。
それは当然だろうけど。
なにしろ相手は間違いなく光の化身と呼ばれる存在だ。
眼下の戦闘も気になるけど――。
気にしている様子はなさそうだ。
眼下の戦闘については、特に光の獣が最多数に群がっていた最前線には、魔人へと進化した石木さんに向かってもらった。
進化したばかりで大丈夫なのかとは思うけど――。
石木さんは万全だと言っていた。
かつて賢者と呼ばれた全盛期よりも、むしろ力が溢れるのを感じる、と。
眼下のことは、彼に任せるしかないだろう。
私の敵は眼前にいる、光をまといし巨大な八足の獣だ。
と言っても、戦い自体はスキルにお任せだ。
私は心を平静に保って、自動的に動いていく体に心を委ねればいい。
でも、うん……。
目の前で私を睨みつける、光の化身、力そのもののような存在には、どうしても射竦められるような恐怖を覚える。
平常心のスキルがなければ、とっくに私は恐慌している。
その頼りのスキルも全力全開で発動しているのがわかる。
余裕はなかった。
だけど私は自分から攻めた。
残り少ないMPを消費して、全身に闇の力をまとわせて――。
光の化身たる獣を手刀で引き裂きにかかる。
対する獣も全身を輝かせて、八足の爪で私を引き裂こうとすると同時に、大きな口と牙で私を噛み砕こうとする。
光の闇の化身の戦いは接近戦だった。
戦いは続いた。
戦況は私の優勢といって良かった。
私は確実に獣の皮膚を切り裂き、闇の力を与えていく。
だけど獣は巨大だった。
私の小さな手で与えられるダメージは少ない。
なので戦いは続いた。
そして――。
闇の力を使う度にMPは減っていき――。
ついには1000を割って――。
戦いの中、ユーザーインターフェースにメッセージが現れる。
――警告。活動限界が迫っています。
――緊急帰投しますか?
――はい/いいえ
それはまさに、私の敗北を告げる知らせだった。
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