第96話 勇者との対決






 最上階についた。


 上った先は磨かれた石のホールで、奥にあった重厚な扉は破壊されていた。


 そして――。


 扉の先は、満天の夜空に似たドーム状の空間につながっていた。

 まさに『神託の間』といった雰囲気がある。


 中には6人の人間がいた。


 鉄鎧を着た重戦士が3人。

 革鎧の軽戦士が1名。

 ローブ姿の魔術師が1名。

 法衣姿の神官が1名。


 なるほど奇襲をかけてくるだけあって、全員、相当な実力者に見えた。

 身につけている武具も、すべて特別なもののようだ。

 武具も含めた全身から光の力を感じる。


「おっと。最後にまたお客さんのようだ」


 そう言って最初に振り向くのは軽戦士の男だった。

 他の面々もすぐに反応した。


「おっ。美少女じゃねーか。せっかくだし、お土産に連れて帰るか?」

「油断しないで! 銀色の髪に金色の目、あれこそメルフィーナ様が光神ルクシスからの神託で告げられた闇の化身かも知れないわ!」


「闇の化身ねぇ……。ま、やってみりゃわかるさ」


 剣を肩に乗せて、青い鎧姿の青年がこちらに歩いてくる。

 聞かなくてもわかる。

 彼が勇者様という存在だろう。


「俺はアレス。光の神に認められ、光の加護を授かった選ばれし勇者さ。今回は、悪いがこの神具をいただきに来たのさ。用も済んだし、ちょうど帰還するところだったんだが――。おまえらも運がなかったな」


 そういう彼の手には、お盆サイズの石版があった。


「その神具を奪って、何をするつもりなの?」


 私はたずねた。


 するとアレスは普通に教えてくれた。


「奪還した古代神殿で儀式をするのさ。聖女様の命すらかかった危険な儀式らしいが、魔族の神器があれば安全にやれるって話でな。わざわざ取りに来たのよ。もっともそこまでしなくても、魔族なんて光の加護を受けた俺らだけで十分だったけどな。魔王城の連中も手応えがなさすぎて全部が罠かと思ったぜ。――で、おまえは誰だ? まさか闇の化身か?」

「まあ、そうだね」

「ははははは! おい、聞いたか!? 本人だってよ!」


 アレスが笑うと、その仲間たちも笑った。


「アレス! 任務は達成したのだから、もういいでしょ! 帰還の宝珠を使って!」


 神官の少女だけは真顔だったけど――。

 彼女の願いは却下された。


「持ってな」


 アレスが大切な宝具を神官の少女に投げ渡す。

 そして、剣を構えた。


「本人だって言うなら、ここで絶対に消すべきだ。本物なら、それですべて解決だろ。まだ聖女様の祝福は十分に残っているしな。聖女様に最高の朗報を持ち帰ろうぜ」


 剣がまばゆいほどに白く輝く。

 聖剣だ。


「石木さんは下がってて」

「しかし――」

「私にとっては大した力じゃないけど、多分、普通の人間には危険だよ」

「いえ、はい――。わかりました――」


 私もハルバードを構えた。

 白い光に対抗して、私はハルバードに闇の魔力を込めた。

 漆黒の刃が、さらに深みを増す。


 次の瞬間だった。


「大した力じゃねぇだとぉ……。言ってくれるじゃねぇかよおおおおおお!」


 怒号と共に勇者アレスが剣を振るってきた。

 戦いが始まる。

 正面からの打ち合いだ。


 私はすぐに、彼が私のスキル『Ⅴ』以上の力を持っていると理解した。

 打ち合うほど押されるのを感じる。

 ただ、とはいえ、一気に崩されるほどではなかった。


「なかなかやるじゃねえか! 口だけじゃなかったようだな! でも残念だがわかったぜ! 俺の方が確実に上だ!」


 アレスが私から距離を取って、剣を構え直す。


「必殺、シャイニング・スラッシュ! まっぷたつにしてやるぜ!」


 わざわざ宣言してくる。


 さて、どうするか。


 正直、高まる力を見ても、深刻な危機感はない。

 食らったところで私は平気だろう。

 ただ、ハルバードで受け止めれば、せっかく高いお金を出して作ってもらったハルバードが破壊されてしまう可能性が高い。


 私は武器をしまった。


「はぁ!? なんだよ、あきらめたのかよ。捕虜にでもなりてぇのか? だが残念だったな! 俺は危険の芽はキッチリ摘む方でな。テメェは、ここで消えろ!」


 アレスが剣を振るった。


 剣から発生した光の刃が私に迫る。


 ここで私は――。

 最近、オフにしたままになっていたスキルをオンにした。


 スキル『自動対応』の『危機対応』――。


 それが私を、自動的な私へと変える。


 私は光の刃を握り潰した。


「おい、待てよ! 手で潰すって、なんだそ――」


 次に、驚く勇者の胸を貫いて殺した。

 私の手刀の前に、青い鎧はなんの防御力も発揮することはできなかった。


 私は残る仲間たちに顔を向けた。


「ひ……」


 神官の少女が目を見開いて崩れ落ちる。

 魔族のヒトたちを虐殺してここまで来たとは思えない――。

 それは情けない姿だった。


 いったい、私に何を見たのか――。

 まあ、うん。

 自動対応中は怖いって、いつも言われているか。


 私はすでに理解しているけど――。

 『自動反応』中の私は、かつてのファーエイルさんである私だ。

 レベルもスキルもステータスも関係なく、なので、すべてを軽々と打ち破れる。


 いったい、かつての私は、どれだけ強かったんだろうねえ。

 まあ、うん。

 神様になるくらいか。

 そりゃ、敵対すれば、恐ろしさも感じるというものだ。


 他の勇者の仲間たちも動けないでいた。

 どうやら戦意を喪失したようだ。


 それを確認して、『危機対応』は動作を停止した。


 私は、今まで『Ⅴ』で使ってきた『スリープ・クラウド』のランクを、念の為に最大の『Ⅹ』にまで上げて――。

 それから発動させた。


 勇者の仲間たちは全員熟睡した。

 さすがにランク『Ⅹ』なら問題はないようだ。


「ふう」


 戦いはおわった。


 私の勝利だ。


「石木さん、もういいよ。こっちに来て、こいつらを裸にするのを手伝って。武器と防具とアイテムをすべて回収しよう」

「はい――」


 私は殺した勇者から真っ先に聖剣をいただいた。

 聖剣は拒絶反応を示さず、私の手にも馴染んだ。

 普通に使えてしまえそうだ。


 さらに腰のポーチから様々なアイテムを回収する。


 その中には、恐らくこれが帰還の宝珠だろうというものもあった。

 これを使えば、即座に敵の中枢に行けるのだ。


 敵は勇者の帰還を待っている。


 なので時間には、まだ猶予があるだろう。


 まずはこいつらを無力化して、それから魔王城のヒトたちを救って――。


 飛ぶのはそれからだ。


 正直、勇者パーティーのメンバーは、全員、殺した方が楽だ。

 殺しておけば暴れられる心配はない。

 必要なら蘇生すればいいし。


 でも、そう考えて、私はその考えを捨てた。


 だって、うん……。


 どんどん自分が、ただの『羽崎彼方』から離れて……。

 まさに伝説の大魔王へと変貌していくのを感じずにはいられなかった……。

 から……。

 それは、ちょっと怖い。


 うん。


 ちょっとだけ、というのが、また怖いところなんだけどね。

 意外と自分では受け入れてしまってもいる。

 なので平然と勇者たちを剥いでいくのです。


 勇者たちは、さすが選ばれし奇襲部隊だけあって、それはもう豪華で貴重で素晴らしい魔道具をいくつも所持していた。

 それらを売るだけで、人生を何十周もできそうだ。


 もちろん円盤も回収してアイテムBOXに入れた。

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