第88話 我が家にて


 いったい、なんだろうか、この状況は。

 夕方。

 まだお母さんは帰ってきていない。


 そんな我が家のリビングで。


 私は今、ヒロ、パラディン北川、時田さん、そして石木さん。


 この5人で、寛いだ時間を過ごしている。


 実際には、寛いではいないけど……。

 男3人がお互いを意識して、明らかにピリピリしているけど……。


「質問、いいでしょうか?」


 ヒロがおそるおそる手を上げる。

 ヒロは、ソファーに座る男3人の方を見ていたけど――。


「どうぞ」


 私が代表してうなずいた。


「……パラディンさんと石木さんは、お姉ちゃんとは知り合いだったのですか?」


 あーそれはねー。

 確かに。

 かにかに。

 まさに、カニさんな質問だ。


「ええ。そうですよ。僕はずっと以前からお姉様のことを尊敬し、お慕いし、忠誠を誓ってきました」


 石木さんが恥ずかしげもなく堂々と言った。


「俺は昨日だな! 時間なんて関係ない、運命の出会いをしたのさ!」


 パラディンはそう言った。


 まあ、うん。


 2人とも、ちゃんとはぐらかすところははぐらかしているね。

 素晴らしいことだ。


「それって、やっぱりネットゲームですか?」


 ヒロが質問する。


 私はヒロに気づかれないように、小さくうなずいた。

 すると2人はそれに合わせて、その通りだと言った。

 ふむ。

 石木さんはともかく、パラディンもちゃんとそういうことができるヤツなんだね。

 ほんの1ミリだけ見直したよ。


「ネットゲームってすごいんですね。それなら私もやろうかな」

「ヒロが来るなら歓迎するよー」

「ありがとう、お姉ちゃん」


 私はヒロに微笑みかけてから、今度はソファーの男たち――。

 石木さんとパラディンに冷たい目を向けて――。


「ところで2人はもう用もないよね? 落ち着いたなら帰れば?」

「え」

「え」


 なぜか2人に心底驚かれた。


「え、じゃなくてね? 用はもうないよねってこと」

「そ、それは……。確かにそうですが……」

「じゃ、またな、石木! 俺は今夜、ここで夕食をごちそうになるからよ!」


「え」


 と、この「え」は私です。

 私はヒロに目を向けた。


「ここに来る前に、お願いされちゃって。私の家族にも謝るって」


 なんとヒロが許可したようだ。


「おうよ! 俺は礼儀正しい男だし、今後のこともあるからな!」

「今後のことって……?」


 嫌な予感を覚えて私がたずねると――。


「これからはちょくちょく、遊びにこさせてもらいます」

「図々しい。よくも堂々と言えるね、そんなこと」


 私は心底呆れた。


「な、ヒロ!」

「はい……。私はいいですけど……」


 ところがヒロが同意する!


「ヒロ、何を言っているの。駄目に決まっています」

「当然です」


 私が言うと、それには石木さんが同調した。

 ところが続けてこう言った。


「お姉様、安心して下さい。来るというなら僕が毎日でも来ます」

「いや来ないでね?」

「そ、そんな! なぜですか!」

「邪魔だからです」


「わはははは! イケメンもかたなしだな、おい! ここは俺に任せて――」

「パラディンもいらないからね?」


 素性を明かしたのは失敗だったか。

 彼等の行動力と積極性を、どうやら私は低く考えすぎていたようだ。

 いっそ、『マインド・コントロール』で記憶を消すか。


「じゃ、じゃあよ、たまにでいいぜ……。です……」

「そうですね。たまにで……」


 ただ、まあ、大人しくはなったので、そのままにしておくことにした。

 頭の中をいじるなんて最大限にするべきではないしね。


 そんなこんなの内――。


 お母さんが仕事から帰ってきた。


 お母さんは、家の前に高級車が止まっていることに驚いて――。

 玄関から大きな声を出した。


「カナタ! ヒロ! 誰か来ているのかしら!?」

「うんー! お客さんだよー!」


 私は答えた。


「そうなのね……。珍しいわね……。誰かしら」


 お母さんがリビングのドアを開ける。

 すると3人が、ソファーから立ち上がってお辞儀をした。


「……どなたかしら?」


 お母さんは首を傾げた。

 そりゃ、うん。

 だよね。


 説明するのには時間がかかりました。



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