第84話 冴えたお姉ちゃんのナイスなアイデア





 夕食の時、ヒロは元気がなかった。


「はぁ……」

「どうしたの、ヒロ? 学校で何かあった?」

「あ、ううん。なんでも」

「ならいいけど……」


 無意識だと思うけど、ため息なんてついて、お母さんを心配させていた。


 今夜のメニューは中華。

 酢豚に餃子に玉子スープと実に豪華だった。

 少なくとも食事でため息はない。


 そもそもヒロは、今日、ものすごくいいことがあった。

 なにしろ動画が伸びた。

 なんと……。

 夕食の時間までに、ファーへのインタビュー動画は50万再生を超えていた。

 すごすぎる。

 パラディン北川とかが思いっきり宣伝したのも効いているようだ。


 なのにため息とは。


 まあ、うん。

 想像はつくけど。

 きっと、そのパラディンに詰められたのだろう……。


 内容によっては、パラディンは許さん。


 私は密かに怒りを貯めつつも、だけどさすがにお父さんとお母さんの前では話題に出せず、静かに食事を進めた。


 食事の後、ヒロにこっそりと話しかけた。


「……ねえ、ヒロ。あとでいい?」

「うん。そっち行くね」

「わかった」


 というわけで、私の部屋でヒロと2人、おしゃべりをした。


「動画、すごい伸びてたね。大儲けできるよ」


 私は最初に笑いかけた。


「収益化はしないけどね」


 ヒロが肩をすくめる。


「え。しないの? なんで? もったいないよー!」

「だって、そんなのファーさんに失礼でしょ」

「それはないから安心して」


 私が言うのだから間違いはない。


「でも、やっぱりやめておくわ。これは気持ちの問題だから」

「そっかー」


 なんてもったいない。

 と私は心から思ったのですが、さすがはヒロとも言うべきなのだろう。

 まだ若いのに、実に倫理観がある。


「それで、ため息の理由はやっぱりパラディン?」

「お姉ちゃん、ネットは見た?」

「うん。見たよ。吠えてたね」

「……すっごいメッセが来た」

「あはは。だよねー。それでヤツからは、なんて言われたの?」

「これなんだけどね……」


 ヒロがスマホを見せてくれた。

 画面には……。


「うわぁ」


 一目見て、私は驚いた。

 そこにあったのは、ずらりと並んだ「裏切り者」文字。

 あと、着信履歴。


「大変だったね」


 私は素直にヒロに同情した。


「私が悪いんだけどね……。後援会を作ったのに、パラディンさんにだけ連絡しなかったのは本当のことだし……。どうしてこうなるって考えつかなかったんだろうね、私。目先のことに浮かれていたのかな……。本当に失敗したよ……」


 ああああああ……。

 ヒロの目から涙がこぼれ始めたぁ……。


 パラディンめ、許さん。

 許さんぞ。


「大丈夫。お姉ちゃんに任せといて」

「お姉ちゃん――バカナタに何ができるっていうのよ。ただの無職のくせに」


 ヒロは悪態をつくけど、実に弱々しい。

 相当にまいっているようだ。


「いいからいいから! ね。こう見えて私、ほら、ファーとも友達だし。すぐに相談して2人でなんとかするから!」

「ファーさんに迷惑はかけられないよ」

「迷惑なら、今、ヒロがかけられているでしょ」

「でも、悪いのは私だし……。怖いけど、あとで謝るから……」

「いいから任せて! せっかくの楽しい時間を黒歴史にされるなんて駄目だから!」

「でも……」

「とりあえず、謝るとしても明日! 少し熱は冷ましてからの方がいいよね!」

「それは――。そうかもだけど――」

「よし、決まりね。そうとなれば早速動くから、ヒロは部屋に戻ってて。いい? 明日の朝まで私の部屋のドアは開けたら駄目だよ? 秘密の作戦だから」

「なんだか昔話みたいだね」

「そーそー、それ。ドアを開けたらおわっちゃうからね。いいね? 約束」


 私が力強く言うと――。

 ヒロは、しばらくの間迷って――。

 でも――。


「わかった」


 と、言ってくれた。


 よし。


 ヒロを部屋に返して、1人になったところで――。

 私は作戦を即座に実行に移す。

 ふふふ。

 平常心のある私は、一味違うのだ。

 とっくに名案は思いついていた。


「さあ……。やるか……」


 上手く行くといいけど。

 いや、ヒロのためにも上手くやるしかない。

 私は祈った。


 危機対応さん、出番です……。

 どうかどうか、妹の最大のピンチをお救い下さい……。


 そう。


 まさに神頼み。


 しかしこれこそが、冷静な私が冷静に思いついた名案なのであった。

 自動的になってしまう怖さはあるけど……。

 ダンジョン巡りの中で、判明している。

 スキル『自動対応』は、私の現在のステータスに異存していない。

 格闘スキルが0でも素手で敵を切り裂き、魔王だろうが不滅だろうがダンジョンボスだろうが一撃で仕留める。

 おそらく、ファーエイルさんの力そのものなのだろう。

 そして……。

 その効果は戦闘だけではない。

 助けることもできる。

 実際、トラックを止めたりもしている。


 発動、お願いします――。


 ついでにできれば、私をお金持ちにして下さい、お願いします――。

 貧乏もまた人生の危機なんです……。


 願っていると、『ユーザーインターフェース』にシステムメッセージが現れる。


 ――実行には必要項目の習得及び発動が必要になります。

 ――許可しますか?


 ――はい/いいえ


 やった。

 どうやら上手くいくようだ。

 もちろん、私は迷わずに「はい」を選択した。


 すると自動的にカーソルが動いた。

 私は、土魔法『サーチ・パーソン』を習得して、そのまま実行する。

 地脈を経由して特定の個人を探す魔法だ。

 その魔法によって、私はパラディンの現在地を特定した。

 東京の繁華街だった。

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