第83話 とんでもないことが起きた
もしも私が平常心を持っていなかったら、間違いなく、それは、
「ふぁぁぁぁぁぁぁ!?」
と、声を大に叫んでいた出来事だった。
まあ、はい。
私はファーですが。
何と言えば、ヒロのアップロードした動画の再生数だ。
ヒロは3日で編集をおえて――。
水曜日の朝、日曜日に撮影したファーのイメージビデオのような動画をアップロードして、そのまま学校に行った。
それについては朝食の時にヒロからサラリと伝えられた。
それは、うん。
サラリとしたことだったので……。
へえ、ついにできたんだねえ、と、私はたいして気にも止めていなかったけど。
午後になって、何気なく検索して、見つけて――。
ヒロが作った新規のチャンネルにアップロードされたその動画が……。
なんと。
ななんと……。
たった半日で10万再生を越えて――。
登録者数が5000人になっているのを見て――。
あやうく弾けそうになる心を平常心で抑えて――。
「ふう」
と、小さく息をついたのでした。
ヒロのアカウントは開設からわずか半日で、収益化の条件を満たしていた。
申請すれば、報酬が得られるわけだ。
それは、私が1年をかけても成し遂げられなかった……。
遠い目標の到達だった……。
「そうかぁ……。私って、まだ注目されているんだね……」
さすがは私だ。
今回アップされた動画は5分程度の挨拶編だった。
ヒロがインタビューして、私が答えている。
ヒロの声も普通に入っちゃってるけど、大丈夫なのだろうか。
そこだけは心配だ。
姿は見えていないので平気だとは思うけど……。
この後、おそらく、モデル編、飛行編、と動画はアップされていくのだろう。
ウケるのだろうか。
わらないけど、話題性だけで再生数は伸びる気もする。
「今からでも私もやろうかな」
ファーとして顔出し配信すれば、私のチャンネルも大いに跳ねるはずだ。
この勢いに乗れば、確実に……。
とは思ったけど、それだとヒロの邪魔になる。
やるとしても、ヒロの動画投稿が一通りおわってからでいいだろう。
しかし、邪魔と言えば……。
いちはやく私のインタビュー動画を発見したパラディン北川が、「聞いてないよー! 聞いてないよー! どういうことだよー! なんでこの俺様を差し置いて、天使様が笑顔で質問に答えているんだよー!」とSNSで吠えていた。
そういえば完全に存在を消し去っていたけど、ヤツもまた天使様後援会の一員というかヤツが迷惑なことに発起人だった。
ヒロのスマホには、きっとパラディン北川からのウザいことこの上ないメッセージが山のように届いていることだろう。
ヒロがインタビュアーであることは、声から明白だろうし。
ヒロが困っているようなら助けよう。
パラディン北川になら、『魔眼』や『威圧』――。
ううん、禁断の闇の力『支配』ですら、私は躊躇なく使える自信がある。
まあ、でも、それは本当にヒロが困っていたらだ。
今のところパラディンにも少しは理性があるのか、SNS上でヒロの名前は出していない。
ヒロが上手に受け流すのなら、それでいいしね。
「さあ、私は私の仕事をしよう」
私の仕事とは、すなわち、異世界動画の編集だ。
最近の私は異世界巡りを頑張っている。
人との交流はまったくしていないけど、町に入ったりダンジョンに入ったりして、転移先を増やして回っている。
その時に、たくさんの景色を撮影した。
異世界については、今のところ、人間世界ばかりを回っている。
魔族の方にも行かねばなのだけれど……。
特に私が殺したアンタンタラスさんのところには、謝罪と質問に行かねばならない。
とは思いつつ……。
殺してごめんなさい、なんて謝るのは、またもや煽りになってしまうよね……。
一斉討伐の時にやらかしたので、さすがにわかる……。
なので、どう会話していいのかわからず、先延ばしにしている。
まあ、うん。
いずれは、行こう。いずれは!
ともかく。
この日は夕方まで動画編集を頑張って――。
『私が見てきた異世界の景色』の、第2話を完成させることができた。
動画は完成してすぐにアップした。
たくさんの人が見てくれるといいけど……。
ちなみに第1話は地道に伸びていた。
なんと気づけば3000再生を越えていた。
ずっと70人台で停滞していたチャンネルの登録者数も、この数日で一気に伸びて100人の大台を越えた。
どちらも私にとっては快挙であり新記録だった。
やる気も出るというものだった。
2話、3話とアップしていけば、さらに火が付くかも知れない。
なんといっても映像は本物。
その凄さは、わかる人には、わかってもらえるはずだ。
とはいえ……。
時田さんに石木さんと交流してわかったけど、わかられすぎても面倒なことになる。
綺麗でリアルな合成動画?
くらいで思われていても否定はしないでおこう。
なんてことをPCの前で考えていると……。
ピロン。
と、PCに入れてあったメッセンジャーアプリにメッセージが届いた。
「なんだろ」
いつもなら好きな配信者のライブ開始通知だけど……。
それには早すぎる時間な気もする。
開けてみるとヨヨピーナさんからだった。
――動画投稿お疲れ様です! すごい景色ですね! これって合成じゃなくて本当に異世界の景色なんですよね!? 感動しました! よければ私の方で宣伝させて下さい! 少しは再生数を伸ばせると思いますので! もちろん秘密に触れる部分は完璧にぼやかします! そのあたりはうまくやるのでお任せください!
とのことだった。
「宣伝かぁ。ありがたいけど、どうしようかなぁ」
さらにはもうひとつメッセージが来たので開けてみると――。
今度は石木さんからで――。
――動画のアップありがとうございました! 見覚えのある山があって、仕事中なのに思わず泣いてしまいました!
とのことだった。
「自然の景色は、1000年経っても変わらないんだねえ。すごいことだ」
時田さんからはメールが来ていた。
相変わらずの丁寧な口調で、私のアップした異世界動画は、本当に異世界の景色なのか、と質問をしてきていた。
私は3人にパパっと返信する。
ヨヨピーナさんの宣伝については、「お願いします」
石木さんには、「そうですね」
時田さんには、「本物です。魔石もいくつか取ってきたのでお譲りしたいのですが、ご都合の合う日はありますか?」
「よし。これでいいだろう」
ヨヨピーナさんにお願いするのは少し迷ったけど……。再生数と登録者数はほしいし、お願いしてしまうことにした。
時田さんらからはすぐに返事が来た。
明日でどうですか、と。
いいですよ、というわけで、明日の昼、時田さんと会うことになった。
「魔石はいくつ売ろうかなぁ」
最初はひとつだけの予定だったけど……。
少し変更して、いくつか売ることを私は決めていた。
だって、うん。
やっぱりお金がほしいのです。
お金は石木さんからもらえば――とは思わなくもないけど……。
いくらでもくれると言うし……。
やはり、タダでもらうのは気が引ける。
リスクがあろうとも取引の方がいいと私は決めた。
3つ、いや、5つ。
それで50万円になれば、私は当分、殿様暮らしができることだろう……!
時田さんからは大げさに感謝された。
ヨヨピーナさんからも感謝のメッセージをもらった。
感謝するのはこっちなんだけどね。
石木さんからは、今日の夕食についてをなぜか熱く語られたけど、これについてはスルーでいいよね返信はしなかった。
そんなこんなで、あっという間に時間は過ぎて――。
今夜も夕食の時間となった。
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