第74話 1人作戦会議
夜。
夕食とお風呂をおえて、私は部屋で1人になる。
冷静な心で今後の方針を考える。
「まずは目的を明確にしよう。私の目的は、動画チャンネルの収益化ではあるけど、さらに突き詰めればお金稼ぎだよね。私は現代日本でお金がほしい。お金がなければ何にもできない。お金があれば何でもできる。私の目的はお金だ」
では、どう稼ぐか。
手立てはある。
手に入れた大量の魔石を時田さんに売り払うのだ。
時田さんは、億円の単位で買い取る用意があると言っていた。
その取引を成功させれば、私はそれだけで地味に一生を過ごすことができるだけのお金を手に入れることができる。
私は、派手に生きるつもりはまったくない。
地味に堅実に生きられればいい。
つまりは、時田さんとの一度の取引だけで一生安泰となるわけだ。
正直、時田さんを完全に信用することはできない。
そもそも、どこの誰かも知らないし。
警察関係者と言っていたけど、それすら真偽はわからない。
私に調べる手立てはない。
さらには、ウルミアとフレインが、時田さんには狂気があると言い切っていた。
気軽に取引するには危険すぎる相手だ。
ただ、残念ながら、私には他に取引できる相手がいない。
異世界の魔石を買ってくれるお金持ちなんて……。
「いや、待てよ」
そんなことはないのかも知れない。
「石木セリオ、と……」
キーボードを叩いて、私は検索サイトにその名前を入れた。
すると、ずらりと大量に検索結果が画面に現れた。
石木セリオは今をトキメキ人気のモデルだ。
私とは別のショート動画サイトで大人気を誇っていて、収益化だけでなくて、企業からの案件もすごく多いようだ。
いくつか商売もしていて、そちらでも大成功している。
お金は、有り余っていることだろう。
そして、魔術師でもある。
石木セリオは確実に魔法――魔術を使っていた。
そして、さらに――。
これは真偽を確かめた情報ではないけど――。
以前に私が魔石をオークションサイトに出した時、石木セリオからの入札があった。
その入札は、出品者である私がキャンセルしてしまったけど――。
あるいは本人だったのかも知れない。
石木セリオは魔術師であるとするなら、十分に有り得る話だ。
となれば――。
彼もまた魔石の販売相手の候補となる。
石木セリオは、命がけでヒロたちのことを守っていた。
性格も善良そうだし。
時田さんよりも、低いリスクで取引できる気もする。
「いや、うん……。と言っても、時田さんを差し置いて石木さんと取引しては、時田さんを怒らせることになるか」
それは、どう考えても得策ではない。
「大人しく時田さんに売る方が無難か。とはいえ、石木さんとも話はしたいね。魔石のこととか魔術師のこととか知りたいし」
時田さんに売るのは、その後の方がいいだろう。
石木さんとの話の内容によっては、残念だけど中止も有り得るけど。
その場合は、また知恵を絞ろう。
「でも問題は、話ができるかどうか」
連絡はできる。
SNSにダイレクトメッセージを送ればいい。
ただし、石木さんから返事の来る確率は、ほとんどないだろう。
なにしろ相手は人気者だ。
対して私は、ただの地味な一般人。
ファー名義で送ったところで、本人とは思われないだろうし。
それでも手はあるけど……。
そう。
妹のヒロに頼めばいい。
ヒロは、パラディン北川の『天使様後援会』の一員。
なぜかそういうことになってしまった。
そして石木さんも同じく、その謎の後援会に参加している。プライベートで通じる直通の連絡先は交換していることだろう。
ただ、どう頼むか。
それにも手はある。
簡単だ。
私が石木さんの大ファンで、どうしても言葉を交わしたと頼み込むのだ。
「……ファーと会わせるかわりに、ね」
言って、私は苦笑する。
それならば、ヒロは連絡くらいは取ってくれることだろう。
「あーでも、それだと駄目か。ファーではなくて、羽崎彼方として話すことになるのか」
残念。
「それならアレか。ヒロと会う時に、石木さんにも来てもらうか」
ヒロは嫌がるかも知れないけど……。
それがファーからの条件だと言えば受けてくれるだろう。
石木さんは仕事をキャンセルしてでも来るはずだ。魔術師として、自分を助けた存在のことは知りたいに違いないだろうし。
ただ、その場合……。
まさかヒロの前で話すことはできないので……。
ヒロと一通り遊んでから、こっそり、2人だけであらためて会うことになるのか……。
まあ、うん。
それは別に私としては構わない。
羽崎彼方としてではなく、天使様ことファー様としてなら、むしろ私の方が主導して会話を進めることはできるだろう。
今の私の思考を進めているスキル『平常心』さえあればね。
「よし。そうしよう」
私は立ち上がると、そのままヒロの部屋に向かった。
トントントン。
「ねえ、ヒロ。ちょっといいかな? 日曜日のことなんだけど」
『うん。わかった。入って』
ヒロから返事をもらって、部屋に入る。
考えてみると――。
ヒロの部屋に入るのなんて、かなり久しぶりな気がする。
平常心のおかげで普通に入っちゃったけど。
床に座って話をする。
ヒロの部屋はキチンと整理整頓されていて、掃除も行き届いている。
私の部屋とは大違いだ。
私は早速、本題に入る。
「日曜日なんだけどね、駅前の噴水のところでいい?」
「駅前って、うちの?」
「うん。そう。午前10時でいいかな?」
「わかった。私はいいけど……。ファーさんは大丈夫なの?」
「うん。平気」
「よかった」
「当日、私は行かないから、あとはヒロがお願いね」
「お願いって……。どうすればいいの?」
「ヒロのしたいことをお願いすればいいよ。ファーさんは優しいから、なんでも願いを叶えてくれると思うよ」
「と言われても困るけど……」
ヒロが困惑した表情を浮かべる。
「空を自由に飛びたいな、とか。ね」
私は笑って言った。
「……それってドラえもん?」
「そそ」
「……できるんだ?」
「できるよ」
空を飛ぶなんて、ファーには大したことではない。
すでに私はかなり飛んでいる。
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