第70話 報告、完了。そして、告白
午後の遅い時間。
私たちは無事に宿場町へと戻った。
まずはギルドへの報告を行う。
宿場町にある宿のひとつが冒険者ギルドの作戦本部になっていて、そこにヨードル支部のギルドマスターが来ていたので、彼に。
報告は問題なくおわった。
ただ、うん。
オーク・ロードの出現には驚かれたけど。
「……そのような上位個体が、まさか人里に現れるとはな。落ち着いたら、近辺の調査はしておくべきだな。その時にはまた頼むかの知れないが、よろしく頼む」
「おうっ! 任せとけっ! ただし報酬は弾めよっ!」
ラッズさんが勇ましく言った。
「ああ、当然だ。――ファー殿も、推薦に違わぬ実力だったようで、さすがだな」
「あはは。ど、どうもです」
報酬はその場でもらえた。
なんと金貨20枚!
いや、うん。
まさか、そんなにもらえるとは思わなくて、驚いて手が震えました。
ただそれはパーティー単位での報酬で――。
ラッズさんたちは、人数で割ることになる。
私は反感を買うかと思って、みんなに分配しようとしたけど――。
それは断られた。
私は1人で1パーティー分の活躍は十分にしたと、ラッズさんたちには言われた。
ギルドマスターもそう評価してくれたようだ。
正直、うん……。
そんなに高い評価をされたのなんて、生まれて初めてで……。
とてもとても嬉しかったです。
とてとてでした。
なのでありがたく、金貨はいただきました。
私、大金持ちです。
さらに加えて、この場で魔石も買い取ってくれるという。
ラッズさんたちは手に入れた魔石をすべて売却していた。
かなりの金額になったようだ。
私の手に入れたオーク・ロードの魔石は特に欲しがられたけど……。
強制ではないと言われたので……。
申し訳ないけど、売るのはやめて所持させていただいた。
だって、うん。
異世界でのお金は、もう十分に手に入れた。
できれば、この魔石は現代世界で売りたい。
報告を済ませて宿場町の外れのベースキャンプ地に戻ると、すでに空は赤い。
すっかり夕方になっていた。
キャンプ地では、冒険者ギルドの作業員が夕食の準備を進めてくれていた。
その中にはシータの姿もあった。
ふむう。
心を入れ替えて、真面目に働くことにしたのかな。
それならそれで良いことだ。
シータが鉱山送りにされるところは、さすがに見たくないしね。
私はうんうんと、その様子を見て、大いに満足してうなずいた。
「さて、これで4パーティー合同での任務は完了だ。ラッズ殿、クラウス殿、ファー殿、今回は世話になった。縁があればまた会おう」
ゼンさんが言った。
「おうっ!」
「皆さんとの仕事は、とてもやりやすかったです。またご一緒したいものですね」
「あ、ありがとうございましたっ!」
ラッズさん、クラウスさんに続いて、私もお礼を言った。
相変わらず、ちょっとどもってしまったけど。
リーダー同士で握手を交わす。
その後で私はラッズさんにたずねた。
「ちなみに明日からは自由行動なんですよね? 各自で魔物を倒すっていう」
「ああ、そうだな」
「なら明日からは、それなりでもいいんですよね?」
「せっかくの買い取り5割増し期間なのに、それなりじゃもったいないぞ。まあ、おまえは金に執着とかないか。森があれば力もりもりだもんな」
え。なにそれ。ギャグ?
ラッズさんのつまらないダジャレに私は唖然としたけど――。
みんなは「わはは」と笑った。
ちなみにお金への執着なんて、私は思いっきりあります。
お金、大好きです。
言わなかったけど。
「ファーは、今夜も森で過ごすのか?」
「はい。少しキャンプ地を散歩してからにしようと思いますけど」
ラッズさんに聞かれて、私は答えた。
シータにも声をかけたいしね。
「な、なあ……。なあ! おい、ファー!」
お別れしようとすると――。
それまで静かだったヨランが私に声をかけてきた。
「うん。どうしたの?」
なんだろう。
妙にヨランはテンパっている気がする。
私がキョトンとしていると――。
ヨランが天を仰いで叫んだ。
「俺はおまえに惚れたぁぁぁぁぁ! 好きだぁぁぁぁ! 俺の女になってくれぇぇぇぇ!」
え。
え。
え……?
私が最初に思ったこと。
それは――。
なに、それ。
という、極めてシンプルな疑問だった。
だって、うん。
それって、告白だよね。
それはわかる。
だけど、いきなり私にしてきたことがまるでわからない。
「あの……。なんで?」
私はたずねた。
「なんでって……。惚れたからだって言ったろ!」
「と言われても……」
「俺は本気だぁぁぁぁぁぁぁ! ファー、頼むぅぅぅぅ! 好きだぁぁぁぁ!」
必死に目を閉じて、握手を求められた。
いや、うん……。
冗談だよね?
からかっているんだよね?
バツゲームか何か?
と私は思ったけど、ヨランに私をからかっている様子はない。
本気なのだろうか。
本気なのかも知れない。
私は、でも。
誰かとつきあうなんて考えたこともないので……。
無理だけど……。
私は自分が生きるのに必死で、それ以外に目を向ける余裕なんてないし。
現状、恋愛は物語だけでお腹一杯だ。
「ファー、すまねぇなぁ。とりあえず、返事はしてやってくれや」
ラッズさんが言う。
なので仕方なく私は言った。
「ごめんね」
と。
「それって、駄目ってことか……?」
ヨランが顔を上げる。
「うん」
私がうなずくと――。
「男なら潔く諦めろ。しつこくして、くだらない揉め事にすんじゃねーぞ」
ラッズさんがヨランの肩をポンと叩いて言った。
「あ、いえ、くだらなくはないけど……。ありがと、ね。でも、ごめんね。私、そういうのに興味とか全然なくて……」
「なんだよバカ野郎! 惚れてやったのによおおおおおお!」
ヨランは走っていってしまった……。
「すまん」
ラッズさんが私に頭を下げる。
「あ、いえ……。こちらこそ、すみません……。あの、ヨランには、友達ならいいから、と伝えておいてもらえますか?」
「ああ、わかった。すまねぇな、気を使ってもらって」
「あはは……」
これでラッズさんたちとはお別れとなった。
クラウスさん、ゼンさんたちとも、「青春だねえ」とからかわれつつお別れとなった。
私は1人になる。
すると……。
あ。
シータがこちらを見て、ニヤニヤとしていた。
今の騒ぎを聞かれていたようだ……。
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