第69話 任務完了!




 ポールウェポン・ランク『Ⅴ』スキル。

 武技『グリム・リーパー』。

 死神の名前を持つその武技は、相手のすべての防御特性を無効化し、3回連続の斬撃によって相手の命を刈り取る。

 この私、ファーが使える、今の最高の技だ。

 どうかなぁと思って試しに使ってみたけど……。

 まあ、うん。

 オーバーキルでした。

 あっさりすぎて、この武技は強いのか弱いのか、よくわからなかったです……。

 残念。


 巨大なオークを斬り裂いて、血肉を散らばらせておいて……。

 我ながら呑気なものではあるのですが……。

 なにしろ羽崎彼方の基準で考えれば、恐怖に打ち震えて正気度チェック失敗、一時的狂乱くらいにはなる場面だ。


 実は、実際、最初は怖くて震えてどうしようもなくて……。

 いつものスキル『自動反応』に頼っていたんだけどね……。

 だけど、襲われまくって斬り刻む内……。

 まあ、こんなものかぁ、という妙な割り切りが自分の中で生まれて……。

 そもそもダンジョンでは、とっくに大量に倒しているしね、私……。

 違いは死体が残るかどうかだけで……。


 中盤からは自分で斬りまくった。

 我ながら慣れるのは早かった。


 私は自分の手のひらを見つめる。

 うん。

 まったく震えてもいない。


 と。


 のんびりしている場合ではなかった。


 ヨランとラッズさんが、大ダメージを受けているのだった。

 ヨランは体を変色させて、すでに意識がない。

 ラッズさんは足が折れていた。


 私はすぐに『リムーブ・カースⅩ』と『ヒールⅩ』の魔法を、なんとなく呪文っぽい言葉をつぶやきつつかけてあげた。


 2人は全快した!

 よかった!


「大丈夫ですか? まだ痛みとかはありますか?」


 私はラッズさんに確認した。


「いや、大丈夫だ……。ありがとな、ファー。この礼は帰ったら必ずさせてもらうぜ」

「いいですよー、そういうのは。今回はチームなんだし」

「そうか。ありがとよ」

「あはは」


 頭を何度も下げられて、私は恐縮して笑った。


「な、なあ……。ファー……」


 ヨランが、おそるおそるの様子で私に声をかけてくる。


「うん。なぁに?」

「俺も、ありがとな。よく呪いなんて解けたな……」

「まあねー。私、すごいでしょー」


 えへん。


「おう。すげーな。降参だ」

「へー。素直だねー」

「あのな、さすがの俺も命を助けられちゃ負けくらい認めるぞ。おまえ、強いんだな。男爵様が認めて聖女様が友達にするだけはあるぜ」

「まあねー」


 ヨランに称賛されて、私は鼻高々で大いに上機嫌になった。

 ヨランが、そんな私をじっと見つめてくる。


「なに?」

「あ、いや。なんでも」


 すぐに顔は逸らされたけど。

 まあ、いいや。

 クラウスさんにゼンさん、それに彼等のパーティーメンバーが走ってきたし。


「すみません、すぐに駆けつけられずに。こちらもオークと戦っていまして。しかし、どうやら無事におわったようですね」

「ああ。ファーのおかげさ。オークの上位個体が出てな」

「そのようですね……」


 地面に転がっていた巨大オークの首を見て、クラウスさんは言った。


「――これは、ロード級ではないのか? 闇の魔術まで使ってくるSランクに届くこともある難敵のはずだが、よく勝てたな」

「ファーのおかげさ」


 ゼンさんの言葉に、ラッズさんは繰り返して答えた。


「ともかく無事でよかった」

「そっちはどうだ?」

「ああ、こちらもあらかた片付いた」

「ならこれで俺等の仕事はおわりか」

「うむ。あとは死体を解体して、耳と魔石を持ち帰るだけだな」

「だな。まあ、それが一番の難仕事なんだがよ」

「まったくだ」


 そういえばそうだった。


 ダンジョンの場合、倒せば魔物は消えて、魔石だけが残る。

 だけど野外では違う。

 魔物は倒しても消えない。

 魔石がほしければ、胸に刃を突き刺して、えぐり取る必要があるのだった。

 あと今回は、討伐の証明として耳も必要だった。


「ファー、当然だが、オーク・ロード、か、そいつの耳と魔石はおまえのもんだ。俺等は一切権利を主張しないからもらってくれ」


 ラッズさんが言う。

 他のメンバーもうなずいていた。


「えっと。なら、せっかくなので……」


 正直、死体をえぐるのは嫌だけど、レア個体の魔石はほしい。


 みんながそれぞれの作業を始める。


 オーク・ロードの体は、いくつかに分断されていた。

 私がやったものだ。


 魔石は、みぞおちのあたりにあるらしい。

 残念ながら、肉の中だった。


 私はおそるおそる、でも、しっかりと狙いを定めて――。

 ハルバードで死体を斬った。


 すると……。


 ぶしゃっと肉が溢れて――。


「ひゃああああああああっ!」


 私は尻持ちをついて倒れた。


「どうした!?」


 すぐにヨランが駆けてきた。


「に、に……が……」

「ににが?」

「肉が弾けてぇぇぇぇ! ぷしゃってしたぁぁぁぁ!」

「は? 何言ってんだよ、おまえ、今さら」

「そうだけどぉ! ぷしゃってしたのおおおお!」


 思い切り呆れた顔をされたけど――。

 怖いものは怖いのだ。

 まあ、うん。

 自分でもおかしな感覚ではあるけど。

 戦闘中には何も感じないのに、こうして平素に戻ると急に怖く感じるのは。

 彼方とファーの、心のバランスの問題なのだろうけど。


「さっさとやれよ」


 ヨランは手伝ってくれず、他のオークの魔石取りに戻ってしまった。


 私はおそるおそる――。


 怖いけど、魔石はほしいので――。


 頑張って取り出しました。


 オーク・ロードの魔石は、以前に手に入れたミノタウルスの魔石よりも大きかった。

 石の中で渦巻く光は黒かった。

 闇属性の魔石のようだ。


 現代日本に持ち帰って、時田さんに見せてみようかな……。

 小さな魔石で1億円なら、これはいったい、いくらになるのだろうか……。

 ごくり……。

 私、とても気になります……。


 以前は怖気づいて10万円にしちゃったけど……。


 1億円とか……。


 もらえるならほしいよね……。



 魔石の回収は、時間はかかったけど、問題なくおわった。


 私は、もしかしたらシータがいたりして、と思って――。


 みんなが魔石を回収する中、見張り役としてあたりの様子を見て回ったけど、残念ながらシータの姿はなかった。

 取り逃げは別の場所でするのだろう。


 かくして。


 生きたオークは村から消えて――。

 他の魔物が作業の途中に攻めてくることもなく――。

 村の解放は成し遂げられた。

 残念ながら、村に生存者はいなかったけど。


 オークの死体処理や村の清掃については、明日、避難していた村の住民と共に低ランクの冒険者たちが行うそうだ。

 腕に自信がない者には、そうした仕事もあるらしい。

 大変だろうけど頑張ってほしい。


 私たちは村を出て帰路についた。




※少しでも見てもらえるように、タイトルを長くしてみました!

 また変えるかもですが、その時はごめんなさい!

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