第65話 勇気ある態度!





「いや、逃げてどうするの私ぃぃぃぃぃ!」


 ログアウトした後、私は椅子の上でのけぞって――。

 転んだ。


「あいててて……」


 身を起こして、あらためて椅子に座る。


「ふう」


 気持ちを落ち着けて、おそるおそる、マウスの上にも手を置いた。

 そう――。

 逃げても、どうしようもない。

 下手をすれば、あることないこと書かれてしまうだけだ。

 それくらいなら、ちゃんと話をした方がいい。


 私は緊張しつつ、あらためてログインした。


 ファー・えいえいおー、あらためて大地に立つ。


 すると、すぐにテルが来た。

 ヨヨピーナさんだ。


『ごめんなさい! いきなりで驚かせちゃいましたよね! 悪意はないし、他言も絶対にしないので少しだけお願いします! 動画見てます!』

『何でしょうか?』


 私は仕方なく、そう返事を打った。


『ありがとうございます! ズバリ、お伺いしますが、ファーさんって魔法使いですか? 私の目の前からいきなり消えましたよね?』


 う。


 いきなりそこかぁ。


『はい。まあ』


 魔法使いなんて、どうせ信じないよね。

 一般的には、幻想だけの話なんだし。


『やっぱりですか! そうだと思いました! トラックの件も、なら、フェイクじゃなくて本当なんですよね!』


 と思ったら、ガッチリ信じた!?

 いや、これは。

 そういう演技なのだろうか!


『ネットでは否定していましたよね?』

『それは当然です。ご要望があれば、これからも全力で否定します』

『お願いします』

『わかりました! お任せ下さい! パラディンのヤツをボコボコにしてやります!』


 チャットしていると――。


 私が立っているマイ・ハウスのゲート前に、妖精族の小さな女の子が走ってきた。

 名前はライチ。

 ヨヨビーナではなかったけど、どうやら本人のようだ。

 手を振られた。


『見た目そのままの姿で驚きましたけど、動画とは違いますよね? これもまさか、魔法のひとつなんでしょうか?』

『あ、いえ。これは今、転生の薬で作り直して……』

『そうなんですね! 今後は動画でもファーさんとして?』

『いえ、それは、あの、そういうわけでもないのですけれども……。この姿は、登録者数が増えればいいかなぁと思いまして……』

『弱小ですもんね。登録者数を見た時にはびっくりしましたよ。そういえばチャンネルに異世界動画とかもありましたけど、まさかアレも本物とか?』

『はい、まあ……』

『本当ですか! 1000回後で見直します!』


 なんて元気な人なのか。

 リアルでも、そんな感じだったけど。

 私はタジタジです。


『ちなみにファーさんは、私のことはご存知ですか?』

『少しだけなら』


 さっき、サイトに行ったしね。

 ヨヨピーナ。

 チャンネル登録者数60万人の上級配信者だ。

 チャンネル名は『世界の真実を求めるチャンネル』

 日本のあちこちを巡って、心霊スポット等を見てくる配信者だった。

 怪談話とか、スピリチュアルな話もいろいろとしているようだ。


『それは嬉しいですね! 私、心霊とか魔術とか、そういうのが昔から大好きで、憧れていて、今でも探していたんです! もしかしたら、どこかに本当があるんじゃないかって! 目の前で見られて本当に光栄でした!』

『どうも』


 他に言いようもなく、私は短く返事をした。


『ゲームも好きで、このゲームもかなりやっているんですよ!』


 それは見ればわかる。

 彼女のキャラ、妖精族のライチはハイエンド装備で身を固めている。

 ライトプレイヤーでは不可能な領域だ。


 ちなみに私は……。

 恥ずかしながら、ライトプレイヤーの領域です。

 ひとりでコツコツ配信をしながら遊んでいるだけなので、ハイエンド装備を入手するコンテンツには無縁なのです。


『ファーさん、フレンド登録、お願いしてもいいですか?』

『はい』


 了承すると、すぐ通知が届いた。

 了承する。

 ファーとライチはフレンド関係になった。


『ありがとうございます! 嬉しいです! 光栄です! これからはファーさんのことは師匠と呼ばせて下さい!』

『それはご遠慮します』

『そうですか……』


 ショボーンな顔文字を添えて、ガッカリされてしまった。


『私のことは本当に秘密でお願いします』

『命に賭けて口外しません! いやでも突撃してみるものですね! 正直、そうかも知れないとは思いましたが、まさか本当にご本人だとは! 私は今この奇跡の出会いに感動して頭がどうにかなりそうなほど嬉しいです!』

『あれ、もしかして、確証があったわけではなかったんですか?』

『もちろんですよ! こういうのは総当たりが原則です!』


「ああああああああ! そうだったのかぁ!」


 私はリアルでうめいて、また椅子から転げ落ちた。

 やってしまったかぁ!

 否定すれば、それでおわったのかぁ!


 …………。

 ……。


 まあ、うん。

 今更それを嘆いても仕方がない。

 すでに私は認めて、フレンドになってしまったのだから。

 フレンドを解除する度胸は、私にはないのです。


 この後、ヨヨピーナさんからはレイド攻略に誘われたけど、それは断った。

 代わりに今度、魔法のお話をすることにはなった。

 わざわざもう一度、私の町まで来てくれるそうだ。

 日程までは決めなかったけど……。

 とはいえ、いつもやっているMMORPGでフレンド登録してしまった以上、いつでも気楽に連絡は取れるわけで……。

 もはや私に逃げ場はないのです。

 私はあきらめた!


 ただ、うん。


 とっても前向きに考えるとするならば!


 ヨヨピーナさんは、それなりに名の知れた配信者!

 コラボでゲームすれば、私のところにも人は来ることだろう!

 全力で協力すると言ってくれたし!

 それについては、素晴らしいことなのです!


 まあ、うん。


 いろいろと怖すぎるので、やめておこうとは思っていますけれども……。


 この日は結局、配信せず、私は静かにログアウトした。



「ふううううう……」


 ようやく解放されて、私は大きく息をついた。

 疲れた。

 本気でヒヤヒヤした。


 なんか、うん……。


 あっさり身バレしてきて、ちょっとヤバい気がする……。


 私、何ひとつ、成功していないのにね……。


 どうしてこうなったのか……。


「まあ、いいや。もう寝よ」


 難しいことは、明日、また考えることにした。

 明日は夜明けから仕事だけど。

 スマホのアラームは、バッチリセットした。

 絶対に寝坊はできない。

 異世界。

 冒険者。

 頑張らねばなのです!

 明日はいよいよ、オークに占拠された村の解放作戦だしねっ!


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