第61話 作戦会議



 私、異世界で冒険者の仲間に入れてもらえました!

 正直、とても嬉しいです。


 というわけで……。


 私は意気揚々と会議のテーブルに加わらせてもらって、まずは明日のスケジュールをゼンさんから聞きました。


「明日は、朝の鐘の時刻に北門に集合。参加者全員で隊列を組んで、ベースキャンプ地となる宿場町にまで移動する」

「はい! わかりました!」


 朝の鐘の時刻については、いろいろと話を聞いて判明している。

 午前8時くらいのようだ。


 私的には、かなりの早起きになりそうだけど……。

 アラームを3つはセットして、頑張って起きよう。

 何しろ冒険者としての初仕事なのだ。

 遅刻は許されない。


「その後はチームごとでの行動となる。ファー殿は俺達とだ。こう見えて俺達は、この地域で最も優れている。当然、最も難しい仕事を請け負う」

「具体的にはどんな仕事になるんですか……?」


 私が緊張してたずねると、ラッズさんが気楽な様子で答えてくれた。


「安心しろ。ただの豚退治さ」

「豚?」


 私はわからなくて首を傾げた後――、


「あ、オークですか?」


 ゲーム知識で、不意に気づいた。


「そ。山裾にあるキネルって村が、オークの集団に占拠されちまったらしい。俺等の仕事は、その村の解放さ。オークなんて雑魚だし、楽勝だな」


 そう言って、ラッズさんはお気楽に笑った。


「雑魚と言っても数は多いそうですよ。ざっと100はいるとの報告がありました。油断と慢心には気をつけるべきでしょう」


 クラウスさんが、こちらは冷静な表情で言葉をつなげる。


「わーってるよ、んなことは。俺は歴戦だぜ、これでもよ」

「ならいいですが」

「はぁ!? 疑ってるのか、てめぇ!」

「喧嘩はよせ」


 ヒートアップするラッズさんを軽く手で制して、ゼンさんが説明を続ける。


「村へと続く道は南にひとつ、村の北には山、西には川、東には森。どう攻めるのが効率的かを検討していたところだった。俺達としては、単純に南からの力攻めで良いのではないかと、まとまりかけていたが――。ファー殿はどう思う?」

「火攻めとか?」


 戦略ゲームなら定番だよね。


「村は残すことが前提だ。キネルでは、他では難しい薬草の栽培が行われている。なくなれば俺達の冒険者活動にも支障が出る」

「捕まっている人とかは、いるんですか?」

「村人はヒュドラ騒動の時に避難している。――残った者もいたそうだが、生存者の確認はできなかったそうだ」

「そっかぁ……」

「ま、オークだしな。とっくに食われてるだろうさ」


 ラッズさんがぶっきらぼうに言う。


「――あいつらは人間も好物ですからね。本当に、なぜ残ったのか」

「それは言ってやるな、クラウス」

「わかっていますよ。残った者の気持ちも理解することはできます。私も後悔してないと言えばそれは嘘になりますし」

「……そうだな」


 クラウスさんには故郷を捨てた過去があるのか。

 ゼンさんとの会話から私はそう推察したけど、たずねることはしなかった。


「魔物も魔族も、滅ぼしてやりますよ」


 クラウスさんは言った。


 魔族……。


 私が思い出すのは、ウルミアとフレインのことだけど……。

 2人ともいい子だった。

 それどころか友達になってしまった。

 とはいえ、今回の騒動を引き起こしたのは、まさにその2人だった。


 ヒュドラが暴れたせいで――。

 魔物が暴発して――。

 近隣の村に被害が出て、死者も発生しているのだ――。


 私は、うん。


 ヒュドラことぬーちゃんとも、仲良くなってしまったよね、そういえば……。

 倒すことなく、おうちに返してあげたよ……。


「ファーにもあるのか? そういう過去?」

「え。あ」


 ぼんやりしていると、ラッズさんに声をかけられて――。


「私は、その……。あの、その……」


 私はキョドった!


「ラッズ、何の事情もなく、エルフが1人でこんな地方に来るはずはないでしょう」

「あー。それはそうか。悪かったな、不躾でよ」


 クラウスさんにたしなめられて、ラッズさんが頭を下げてくる。


「あ、いえ。そんな……」


 私はキョドりつつも恐縮した。

 するとゼンさんが、いかつい顔をわずかに緩めて言った。


「ファー殿は本当にヒトに慣れていないようだ。素顔は恐ろしいほどに冷徹で王者の風格さえ感じさせてくれるが、しゃべると崩れる」

「あはは。そ、そうですね……。すみません……。私、慣れてなくて……」


 許してはもらえたけど、失礼な態度も取ってしまったようだし。

 ネットごしならお気楽なのに、面と向かっては難しいです……。


 この後は――。


 気を取り直して、真面目に作戦会議をした。


 結果は――。


 私という戦力を得たこともあって――。


 陽動等の小細工はせず、一気に街道を駆けて村に突撃して、そのまま手当たり次第にオークを打ち倒すということになった。

 脳筋だぁ……。

 と私は心の中で大いに思いましたとも。


「決行は昼の前後でいいだろう。ベースキャンプで一泊して朝に出れば、ちょうど良い時刻になるだろうしな」

「だな。オークは夜目が利くし、攻めるなら昼だな」

「私にも異存はありません」

「ファー殿はどうかな?」

「あ、はい……。私もいいですけど……。というか、一泊するんですか?」

「一泊ではなく、数日は滞在することになると思うぞ。村を解放した後は、街道沿いの調査を念入りに行う予定だからな」


 ゼンさんに言われて、私は驚愕した。

 日帰りじゃないのかぁぁぁぁ!

 まあ、うん。

 考えてみれば、当然なのかも知れないけど……。

 しかし、それは困る。

 大いに困る。

 いきなり長期旅行なんて、私みたいな子に許されるはずはないのです……。

 というか、ネットに何日も触れないでいたら……。

 私、発狂するかも知れません!


 ただ幸いにも、それはどうにかなりそうだった。


 一斉討伐に参加する冒険者は、夜はベースキャンプで過ごすことになるようだけど、共に夜の時間を過ごすのはパーティー単位。

 私は1人。

 エルフなので森でゆっくりしたいという主張は通りそうだった。

 なので、うん。

 夜は家に帰ってネットができそうだ!

 よかった!

 私は安心して、初めての仕事に挑む決意をしたのだった。



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