第59話 決闘しちゃう?
私は冒険者ギルドに入った。
たのもー!
と、実際には声は出してないけれど、そんな気持ちで堂々と。
ローブは着ていない。
銀色の髪とドレス姿は思いっきり見せていた。
しかも片手には、身の丈を超える黒柄のハルバードを持っている。
さあ、注目されちゃうかなー。
目立つよねー、私。
喧嘩とか売られちゃうかなー。
私はドキドキしつつ、誰かが絡んでくるのを待ったのだけど……。
うん。
はい。
誰も来ないどころか、注目すらされませんでした。
私が現れても冒険者ギルドのホールは普通に騒がしいままでした。
みんな、熱心に会話している。
どうやら明日の一斉討伐の打ち合わせを、各チームごとにしているようだ。
まさに、うん。
小娘に構っている暇はない。
でした。
…………。
……。
私は1人、いくらか恥ずかしい気持ちにかられながらも……。
誰にも気にされることなく……。
受付カウンターに向かった。
カウンターには、昨日、リアナと登録した時と同じお姉さんがいた。
話は早かった。
「ファー様、お待ちしておりました。男爵から話は伺っております。ちょうど良いタイミングで来てくれました。こちらにどうぞ」
案内されたのは、ホールにあるテーブルのひとつだった。
いかにも熟練の冒険者3人が、テーブルに広げた地図を見つつ、あれやこれやと討論しているところだった。
「皆さん、少しよろしいですか?」
受付のお姉さんが声をかけると、こちらに目を向けてくる。
そうしてから、お姉さんが、まずは私に3人のことを紹介してくれる。
彼らは、水都メーゼを中心にアステール侯爵領で活動するBランク冒険者パーティーのリーダーたちだった。
この町ヨードルでも実績豊富で、今までもたくさんの魔物を討伐して、冒険者ギルドからの信頼も厚い方々のようだ。
お姉さんに紹介されると、彼らは席から立って自分でも私に挨拶をしてくれた。
「『黄金の鎖』のラッズだ! よろしく頼むなっ!」
「あ、どうも……」
「『サイレンス』のクラウスと言います。話によれば、ファーさんは剣も魔術も英雄級の腕前だとか。頼りにさせていただきます」
「あ、いえー。私なんてそれほどでもー。あはは……」
「『嵐の斧』のゼンだ。見ての通りのおっさんだが、力には自信がある。今回は頼む」
「あ、えっと……」
3人と握手をして、私は思った。
うん。
はい。
なんだか気のせいか、一緒に戦う雰囲気のような……。
どういうことだろうか。
不安になってお姉さんの方を見ると――。
お姉さんはニッコリと笑って言った。
「じゃあ、あとはお願いしますね」
と。
お姉さんは去っていった……。
私は何故か、1人、その場に取り残された……。
「ファー殿も自己紹介をお願いできるか?」
「あ、えっと。は、はい」
ゼンさんに言われて、私はしどろもどろながらも、
「ファーと言います。昨日、冒険者になったばかりの新人なので、何がどうなっているのかわからないのですが……」
なんとか頑張って、本当のことを言った。
「ちょっと待って下さい。ファーさんは、男爵からの要請に応じてこの町に来た熟練の冒険者と聞いていましたが」
心底驚いた顔でクラウスさんには言われたけど――。
私は正直に伝えた。
「あ、いえ、本当に熟練ではないです……。初心者なので……」
テーブルに沈黙が降りた。
しばらくして、ラッズさんが口を開く。
「まさか人違いか?」
「あ、いえ……。男爵様から頼まれたのは本当ですけど……」
「だが、初心者なのだろう?」
「はい」
再びテーブルには、沈黙が降りた。
「意味がわかりませんね。もしかして我々をからかっているのですか?」
「そんなことはありませんけど!」
クラウスさんに睨まれて、私は慌てて首を振った。
ゼンさんが言う。
「鉄の長物を軽々と持っているくらいだ。見た目に反して力があることは確か。それにエルフの価値観は俺等にはわからん。そもそも時間の流れが違う」
「それは、そうですね。エルフであれば昨日が10年前の可能性もありますか」
「と言っても、初心者とか言ってるんだぜ? どうするよ?」
「それは決まっている」
ラッズさんに問われて力強く答え、ゼンさんが私に目を向けた。
その目は、やけに好戦的で……。
な、なんだろう……。
私が怖気づいていると……。
「ファー殿、腕前を見せてもらおう」
ゼンさんが言った。
「それはいいですね」
「だなっ! 確かに、見てみりゃすぐにわかるか!」
クラウスさんとラッズさんがすぐに話に乗る。
「えええ!? 私とですかぁ!?」
私はひたすら驚いた。
だって、うん。
いきなり、みなさんと対決とか。
「いえ、あのっ! 私、確かにギルドに入った時は、よーし、冒険者の実力とやら、見せてもらおうか! なんて思ってもいたんですけど! でもそれは悪党みたいなヤツをぶちのめす的な話であって! 皆さんのように真面目にちゃんとやっている方を蹂躙してバカにしたいわけではないのでえええええ!」
私はテンパってしまって、必死に言い訳した。
なんの言い訳なのか。
自分でもよくわからないのは、テンパってしまっているのだから仕方がない。
必死に言って……。
私はちらりと、おそるおそる、3人に目を向けた。
わかってくれた、かな……?
目が合うと――。
ラッズさんが大きな声で盛大に笑った。
「わははははは! いいね! それ、おもしれぇわ! 確かに俺等はよ、地方の都市から離れたことのない冒険者だからよ! いくら実績を積んでもBランク止まりで、英雄なんて呼ばれることもない身だからよ! 男爵から英雄級なんて称されるテメェから見ればただの雑魚なのかもしれねぇよな!」
「ふふ。そうですね……。心配するつもりが、逆に心配されていましたか」
「まさか初心者とは俺達のことか? 俺も長いこと冒険者をやってきたが、ここまで見下されたのは初めてだ」
あ、あれ……。
何やら様子がおかしい。
笑いを止めたラッズさんも、クラウスさんも、ゼンさんも……。
ものすごく威圧的で、真顔なのですが……。
私が困惑していると、受付のお姉さんが戻ってきた。
「はいはい、皆さん。ホールでの喧嘩はご法度ですよ」
「お姉さん……!」
私は助けを求めて振り返った!
するとお姉さんがとんでもないことを言った!
「よかったですね、ファーさん。力試しを受けてもらえて。入った時から、ファーさんはやる気満々でしたものね」
「え。あ」
「ふふ。ちゃんと見ていましたよ」
えええええ……。
それって、私の空回りのことぉぉぉぉぉ!?
見られてたのかぁあああああ!
「でも、挑発行為はよくないですよ。チンピラではないのですから」
ちがいますよおおお!
挑発なんて、した覚えはありませんからー!
という私の叫びは、心だけのもので……。
まごまごする内、戦うことは決まって、私は練習場に連れて行かれたのだった。
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