第54話 武器を探して
私は町の中で1人になる。
さて、どうしようか。
まだ夕食で帰るには、かなり早い時間だ。
「あ、そうだ」
今、この北の城郭都市ヨードルには、魔物退治の特需が起きている。
大勢の冒険者が集まって、作戦の開始に備えていた。
武具も集まっていることだろう。
「よし! 武器を見に行こう!」
私はポールウェポンを装備したいのだった。
広場に行くと、露店にも武器が並んでいた。
武器の店はどこも賑わっていた。
なので私も、ちらりちらりと、脇から目立たずに品を見ることができた。
剣に弓に槍に……。
長柄の武器もあったけど、これだと思えるものはなかった。
幸いにもお金はある。
値段は高くても、カッコいいヤツがいいよね。
主人公が持っているようなヤツ。
というわけで……。
私は自分に『フライ』と『インビジブル』の魔法をかけて――。
低空を飛び回って――。
外壁に近い町の隅に一軒の武器屋を見つけて、私は魔法を解いて着地した。
武具屋なのは、店先に甲冑が飾ってあったのでわかった。
お店の看板には「武具屋マリス」ともあったし。
ただ、ドアは閉まっていた。
人の出入りもなかった。
営業中の看板は出ているので、やっているはずだけど。
ドアを開ける勇気がなくて、私がお店の前で挙動不審にしていると……。
「あのお、どうしたっすか?」
「ひゃあ!」
うしろからポンと肩を叩かれて、私は驚いて飛び跳ねた。
「そんなに驚かなくても……。って。貴女、魔族?」
「え。あ、ううん! 冒険者ですけど!」
私はあわてて冒険者カードを見せた。
「ごめんっす。エルフなんすね。このあたりだとエルフなんて滅多にいないんすよ。驚いちゃって申し訳なかったっす」
「わかってもらえればいいです。よく言われるので」
私は嘘を付きました。
リアナに嘘はよくないとか言っておいて、自分はこれです、ごめんなさい。
でも、うん……。
言えない真実もあるよね、絶対……。
というか変身魔法をかけておけばよかった。
とは思ったけど、驚いた拍子に解けて、多分、事態は悪化しているか。
「それで、うちに御用っすか?」
聞けばなんと、眼の前の女性は、この武器屋さんの店員だという。
頭にバンダナを巻いた猫族の獣人さんだった。
「実は、武器がほしくて……」
「お客さん!? 久しぶりっす! どうぞどうぞー!」
「ちょ。あ」
背中を押されて、私は店内に入った。
というか、押し込まれた。
店内は地味だった。
奥にカウンターがあって、棚にいろいろな種類の武器が置かれていた。
「それで、何をお探しっすか?」
「えっとぉ……。私の背丈よりも大きな長い柄の先に、斧と槍の複合のような刃のついた武器を探しているんですけど……」
「ハルバード?」
「あ、それです」
ハルバードは、ゲームでも定番のポールウェポンの名称だ。
「傭兵さん? 戦争にでも行くんすっか? そもそもお客さんでは扱えないっすよ?」
「大丈夫です。私、こう見えて力持ちなんです」
むん、と、力こぶを作って私は笑った。
「えー」
思いっきり疑われた。
「えっと、ダメなら私、帰りますね。お邪魔しました」
うん。
他の店に行こう。
「待って待って! ダメなんて言ってないっすよ! 待ってて下さいっす! 今、師匠を奥から呼んで来ますので!」
しばらくするとカウンター奥のドアからドワーフの男性がぼやきながら現れた。
「ったく。どこのエルフだ。ハルバードがほしいとか。って、おい」
「こんにちは」
目が合ったので私はお辞儀した。
一瞬、驚かれたけど、ドワーフさんは意外にも冷静だった。
「なるほどな。わかった」
「えっと……。売ってもらえますか?」
「金はあるんだろうな」
「はい」
私は今、こちらの異世界の方がお金持ちなのだ。
「珍しいっすね。師匠がお客さんにお金から入るなんて」
「バカ野郎! 金はただの確認だ!
――アンタ、どこから来たのか知らねぇが、只者じゃねぇな。
ちょっと待ってろ」
店員の女の子に怒鳴ってから私にそう言うと、ドワーフさんはまたカウンターの奥に引っ込んでしまった。
しばらくすると、おお……!
ハルバードの実物を肩に担いで持ってきてくれた!
「軽く振ってみろ。言っとくが、店の中だ。広く振りすぎるよな」
「……はい」
私は緊張しつつハルバードを受け取った。
生まれて初めての、本物の武器だ。
手に持った感覚は、最初はずっしりと重くてそのままよろけそうになったけど、少し力を込めたら平気になった。
むしろ軽いくらいだ。
よし……!
私にはスキル『ポールウェポンV』がある。
ハルバードは実に手に馴染んだ。
壁に当てないように、思うまま、軽く振ってみよう。
半月状に振ってみた。
ビュン!
パリン!
ガタガタガッシャーン!
「ひゃああああっすううう!」
「ぬう……!」
うわあああああ!
私も驚いた!
軽く振っただけなのに、風圧で店内が半壊したぁぁぁ!
店員の女の子はひっくり返ったぁぁ!
「す、すみませんー! 弁償しますのでー!」
「いや、いい。軽く振ってみろと言ったのは俺の方だ。しかし驚いた。一目見て只者でないことは理解したつもりだったが、予想以上に凄まじい達人が来たものだ」
「達人ってレベルっすか、これ……。もしかして、噂に聞く神聖国の勇者様っすか?」
よかった、店員さんも無事のようですぐに立ち上がった。
「いえ、違います。私、最近、森から出てきたばかりのエルフで……。あはは」
笑っていると……。
あ。
ハルバードの柄が折れてしまった……。
さすがはファーのランク『Ⅴ』、伊達ではないようだ。
「あの、これ……。私にハルバードは無理でしょうか?」
「それはてめぇ、俺には無理ってことか?」
「あ、いえ、そういうわけでは……」
「金はいくらまで出せる?」
「これ全部までなら……」
私は、侯爵様からもらった金貨の全額をカウンターに置いた。
「金貨で29枚か。上等だ」
「上等って、師匠! 魔石錬成でもするつもりっすか!?」
「フンっ! するに決まってるだろうが! 久しぶりに腕が鳴るぜ。雑魚用の武器なんざ、もう飽き飽きしていたんだよ、俺は」
なんだか、すごく上等な武器を作ってもらえそうだ。
「おい、エルフ。この金は前払いでいいのか?」
「はい。平気です」
「ならもらっとくぜ」
「……師匠も師匠っすけど、お客さんもお客さんっすね。初対面なのに、いきなりそんな大きな取引をして本当にいいんっすか?」
危機感知は反応していない。
それに、このドワーフさんからは職人の本気を感じる。
信用できそうだ。
「てめぇは運がいいぜ。ちょっと待ってろ」
ドワーフさんが再び奥に引っ込んで、今度は木箱を持ってくる。
蓋を開けて、中を見せてくれた。
中に入っているのは、テニスボール大の黄色い魔石だった。
「これはよ、メーゼ近郊のダンジョンから取れたミノタウルスの魔石でな。市場になんて滅多に流れてこねぇレアな逸品よ」
「ま、盗品っすけどねー」
「バカ野郎! 本人は貰い物だっつてただろうが! これは貰い物なんだよ!」
「誰かが売りに来たんですか?」
「まあな。つい昨日なんだが、こいつと同じ猫人の娘がな」
「商隊がワイバーンに襲われたところを助けて、その御礼だそうっすよー」
「その子の名前は?」
「シータとか言ってたっすけど、どうせ偽名っすねー」
シータという名前には聞き覚えがある。
猫の子というのも同じだ。
「なんにしても、こいつは間違いなく本物だ。これを使って、てめぇの武器は作る」
「ちなみにたったの金貨1枚で買い叩いたっすよ。酷い話っすよね」
「フン! それでいいと言ったのは向こうだ!」
2人の話を聞きながら、私は笑った。
どうやらシータは、無事に逞しく生きているようだ。
よかった。
とはいえシータ、魔物掃討作戦でも取り逃げをする気なのだろうか……。
そのために来たのかな……。
捕まれば、今度こそ鉱山送りだと思うけど……。
まあ、でも、金貨が手に入ったのなら、さすがに無理はしないか。
金貨って、1枚でも庶民には大金のようだし。
ともかく私はハルバードを注文した。
受け取りは明日になった。
いや1日では無理でしょ、と最初に私は思ったけど、今回は普通の鍛冶ではなく魔術による特別な手段で作るのだそうだ。
なので1日で十分に完成可能らしい。
受け取りを楽しみにしておこう!
「ああ、そうそう。俺はマリス、こいつは弟子のミミ。よろしくな」
「私はファーと言います。よろしくお願いします」
かくして私は全財産をはたいて、念願のハルバードを注文したのでした。
店から出て、大いに満足して私は背伸びをした。
そして、思った。
うむ。
冷静に考えて、全額、使ってしまってよかったのだろうか。
おかげで所持金は0に戻ってしまったけど……。
もはや肉串の1本も買えない……。
「まあ、いいか。今はリアナのおかげで、お腹もいっぱいだしねーっ!」
あーでも、リアナかぁ。
大丈夫なのかなぁ。
やっぱり心配になってきたよ……。
私はちょっとだけ、様子を見に行くことにした。
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