第53話 家出の子
リアナの告白を聞いて、私は本気で驚いた。
「嘘だったんだ!? まさかの!?」
「ええ。そうよ。私、とにかく外に出たかったの。だから適当なことを言ってダンジョンに行ったりしていたのよ」
「よくバレなかったね、そんなの……」
「最初の1回だけは本当に偶然だったんだけど、あとはザルタスたちが優秀でね。なんだかんだ敵を見つけては退治して、お嬢様の言う通りでしたってね」
「あはは」
「もー! 笑い事なんだけどね!」
「だよねー」
他にどんな反応をしろというのか。
というわけで。
なんとリアナには『未来視』のギフトなんてないとのことでした。
「未来視のギフトっていうのは、まったく知らなかったんだけど、光の神の恩恵なんだって。
だから、私を聖女に推すのはどうかって話も内密に出ていたのよ。
聖女っていうのは、光の神ルクシスに光の加護を与えられた特別な存在なの。
すでに認められている私なら、光の加護すら得ることができるかも知れないってね」
聖女は超レアで存在で、今は1人しか存在していない。
しかもその1人は、ミシェイラ神聖国という国のトップに立っている。
その話は以前にウルミアとフレインから聞いた。
「で今回、ヒュドラの攻撃を防いで、追い返して、兵士たちを一気に回復して、なんかピカピカしていたからもはや光の加護すらあるのではないか、と」
私は補足してみた。
「そ。まさに、身から出たサビというヤツよね」
リアナはうなだれて肯定した。
「あはは」
再び笑ったら今度は睨まれた。
ごめんなさい。
「私もね、ほんの少しだけは思ったりもしたのよ? だって光っているし、もしかして本当に私は選ばれてしまった? とか、ね」
「でも逃げたんだ?」
「だって前提として『未来視』が嘘なのよ? それに何の力も感じないし。なのに今日、お父様が迎えに来て、そのまま一緒に王都に行くっていうのよ? 私が聖女になったかも知れないことを国王陛下にご報告するとか……。もうね、私、冒険者になるしかないと思って。すべてを投げ捨てて屋敷から出てきたの」
「……それはなんか、ごめんね」
さすがに私のせいだよね。
「ううん。ファーは助けてくれただけでしょ。ファーがいなかったら、そもそも私もこの町も壊滅していたわけだし」
「ねえ、リアナ。まずはお父さんに正直に言ったら?」
「でも、もう、王都にも早馬が出ているのよ? 今さらお父様に打ち明けたって、国王陛下の耳に入るから手遅れよ。噂も広まっちゃってるし……」
どうしたものか。
「とりあえず、私のことは言ってくれていいからさ」
「いいの? ファーだって目立ちたくないのよね?」
「まあ、それはね」
そうなんだけど。
結論のつかないまま食事はおわって、私たちは冒険者ギルドに向かった。
ギルドはレストランから近くて、すぐに到着した。
ギルドの中は混み合っていた。
本当に各地から大勢が来ているようだ。
即席のパーティーを作ろうと、声をかけている人も多かった。
「リアナって回復魔術は使えるよね?」
「ええ。得意よ」
「なら冒険者としての需要は高いんだねえ」
回復魔術の使い手は特に人気のようだ。
誰かいないかといくつも声が出ていた。
「ふふー。でしょー。私ならすぐに一流になれちゃうと思わない?」
「騙されたりしなければね」
「う。と、とにかくファーは冒険者にしてあげるわ! 来て!」
私はリアナに連れられてカウンターに行った。
リアナの顔は受付嬢さんに知られていて、奥の個室へと通されて、そこで私は冒険者の登録をすることができた。
私のことは、素性を思いっきり疑われたけど……。
冒険者になろうとするエルフは珍しいようで……。
どこの森から来たエルフなのか、とか……。
師は誰なのか、とか……。
そこはリアナが取りなしてくれた。
私は冒険者カードを手に入れた!
しかもリアナのおかげで、冒険者ランク「D」からのスタートとなった。
リアナが押し込んで……。
ギルドマスターがアステール家の保証ならばと承認してくれた。
私は見ているだけでした!
Dランクであれば、大陸各地のダンジョンに普通に入ることができて、各地ギルドで普通に依頼を受けることもできる。
魔石の買い取りもしてもらえる。
一人前の証だった。
すなわち、異世界で正式にお金稼ぎができるようになったわけだ。
普通はGランクから初めて、地道に信用を得ていく必要があるそうなんだけどね……。
登録を済ませて、私たちは外の通りに戻った。
「ありがとう、リアナ。助かったよ」
正直、リアナの口利きがなければ登録自体が無理でした。
私1人だったら、素性を聞かれてアワアワした挙げ句に逃げていたと思います。
「任せてっ! これでも私、地位と権力には自信があるのよね。だいたいのことなら、この私の名前で通らせてみせるわ!」
「あはは。頼もしいねー」
いや、ホントに。
「さて、ファーに少しは借りも返せたし、私はあきらめて帰ろうかな」
「いいの、帰って?」
「ファーと遊べてスッキリしたしね。それに悲しいけど、やっぱり無理よね。地位と権力とお金のない私が独り立ちするなんてさ」
「あはは……。確かに、うん。それはそうかもだね……」
「よね。わかる。というか、わかった」
リアナはさらにため息をついた。
「私のことは話してくれていいからね? 確かに私は目立ちたくないけど、私のことを隠すために嘘は重ねないでね? 嘘なんて重ねるほどに最悪な結果になるんだしさ……。ひとつだけならまだ白紙にできるよ、きっと」
「わかった。ありがとう」
「こちらこそ」
求められて、私はリアナと握手を交わした。
「私、これから王都に行くから、しばらくメーゼには戻れないけど……。そうね。夏になったらぜひメーゼに来て。一緒にダンジョンに行ったりしましょう」
「わかった。夏になったら行くね」
「約束ねっ!」
勝ち気な笑顔に戻ったリアナが、ギュと私の手を握った。
「ちなみにどんな言い訳をするつもりなの?」
「そうねえ……。ファーのことを言ってもいいなら、ファーの忠告も聞くことにして、あきらめて全部正直に言うわ」
「うん。それがいいかも。私は、それがいいと思うよ」
「はぁぁぁぁ……。胃が痛くなるけど……」
「あはは」
「ま、自業自得よね。あきらめるわ」
「頑張って」
「ええ。夏にはファーと気持ちよく冒険したいしねっ! またね、ファー!」
なんなら説明を手伝ってあげてもよかったけど……。
私がそれを言い出すより先に――。
髪とスカートを翻して、リアナは元気よく走っていってしまった。
「うん。また」
私は手を振って見送る。
無事に解決して、リアナにはため息なんてつかなくていい生活に戻ってほしいものだ。
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