第51話 実験台
「ほら、有り金を全部出しな。たっぷり持ってるんだろ?」
人気のない路地裏で予想通りに始まった。
恐喝だ……。
リアナは最初、自分が何をされているのかわからなかったようで、
「どうして? 一括管理なの?」
と、キョトンとした顔でたずねたけど……。
チンピラたちに大笑いされた。
「そうそう! その通り、だから早く出しな! 俺等がちゃーんと面白可笑しく管理してやるからよ!」
「どうせ逃げ場もねぇしな!」
「ま、授業料だわな。今回は金だけで許してやるから安心しろ」
「どういうこと……? 私、授業なんて必要ないわよ? 確かに冒険は素人だけど実践経験だってあるんだから」
リアナは、まだわからないようだ。
「へえ。どこでだ?」
「先日のヒュドラ戦よ。みんなはいなかったのよね?」
「俺等は今日来たばかりだからな」
「なら知らないか。こう見えて私は――」
「あーもう、うるせぇ!」
「きゃっ」
ああああああ!
チンピラの1人がリアナの肩を乱暴に押した。
リアナがよろめく。
「おっと。大丈夫かー?」
それを別のチンピラが受け止めて、同時に腰のポーチから小袋を抜き取る。すぐに中身を確かめて歓喜の声を上げる。
「うお。すっげ。全部金貨じゃねーか! 何十枚もあるぞ」
「ちょっと! 返してよ! それは私の大切な冒険の資金なんだからー!」
「勉強の時間はおしまいだよ。おうちに帰りな」
「アンタたち、もしかして泥棒!? 私を騙したのね! 私にこんなことをしてタダで済むと思っているの!? 私を誰だと――!」
「バカだなぁ、お嬢ちゃん。考えてもみな? そんなお嬢ちゃんが家出して、男連中とつるんでいましたなんて醜聞、外に出せると思うか?」
「そもそも俺たちは、優しさでお嬢ちゃんをおうちに返してやるんだぜ」
「感謝されこそすれ、責められる謂れはどこにもねぇよなあ」
「そうそう。俺たちは親切だからな」
「だから言ったろ、勉強って」
「とにかく返してよ! この泥棒! きゃっ!」
「おっと。悪いな」
ああ、掴みかかったところを軽くいなされて、リアナは転んでしまった。
またチンピラたちに笑われる。
「じゃあ、俺等はこれで行くから、おうちに帰れよ」
「勉強ごくろうさん」
チンピラたちが見を返して――。
こちらに来る。
私は、どうすべきか……。
なんて迷っていると……。
路地を曲がって戻ってきた彼らと、思いっきり目が合ってしまった!
「ああ? なんだテメェ」
思いっきり睨まれたぁぁぁぁぁぁ!
私は心の中で悲鳴を上げた!
こわああああ!
正直、睨まれただけですくみあがって倒れるよ、羽崎彼方なら!
だけど私は我慢した!
だって怯えたりしたら、完全に調子に乗られてしまう。
そうすれば、状況は悪化するに決まっている。
それはわかる。
私は強いのだ。
怯える必要はないのだ。
今は町中なので、危機対応のスキルはオフにしてある。
オンにするべきか……。
そうすれば間違いなく即座に制圧できる。
こいつらは、ダンジョンで倒したミノタウルスや魔人以上の敵には、とても見えない。
つまりは雑魚なのだ。
少なくとも、ファーからすれば。
そう思うと私にも余裕はできた。
私は気合で頑張って、最大限に冷たく余裕の殺意をぶつけてやった。
おまえらなんて、指先ひとつでダウンさ、的な……。
あ、そうだ。
せっかくだし、新しく取得したスキルを使ってみようかな。
と、いろいろ考えていると……。
「……おい。行くぞ」
「ああ……。そうだな……。まあ、いいか」
「チッ」
あれ。
なぜかチンピラたちが顔を逸らして通り過ぎようとする。
どうしたんだろう。
ファーの恐怖の大魔王的な雰囲気に怖気づいてくれたのも知れないけど。
「待って」
私は引き止めた。
だって、うん。
新しいスキルの実験台になってもらわないとだしね。
「ああ、なんだよ……?」
「悪いが、アンタに用はねぇぞ」
男たちが振り向く。
1人と視線が合ったので、まずは『魔眼』を使ってみる。
とりあえず、麻痺しろと念じてみた。
すると男は、一瞬、恐怖におののいた表情を浮かべて、そのまま石みたいに固まって動かなくなった。
うむ。
魔眼は成功のようだ。
では、次。
「な、なあ、待ってくれ! 俺らはアンタのことなんて誰にも言わねえから!」
「ちゃんと立ち去ろうとしただろ!? 忘れるからよ!」
やっぱりこれはアレか。
殺意に怖気づいてくれていたのかな。
そんな感じだった。
さすがは私というかファー、恐怖の大魔王だけのことはある。
ただ、うん。
それはとりあえず横に置いて、私は実験を続けた。
『威圧』のスキルを使う。
すると私の全身から闇の波動が迸った。
それは一瞬のことだったけど……。
男たちは目を剥いて、口から泡を出して、バタンと倒れて動かなくなった。
効果は抜群のようだ。
ただ、『魔眼』で麻痺させた男はそのまま硬直していた。
『魔眼』と『威圧』の効果は重複しないようだ。
覚えておこう。
「これは返してもらうね。友達のだから」
私はリアナのお金を取り戻した。
で、そのまま行こうとしたけど、多分平気だとは思うけど……。
実験程度のことで人に死なれるのも嫌なので……。
気を取り直して、仕方なく『ヒール』をかけてあげた。
部位欠損どころか装備ごと治す、最上級の回復魔法だ。
ただ、なるほど。
男たちは一瞬で古傷まで癒えて、装備も治って綺麗な子になったけど……。
『魔眼』と『威圧』の効果は解けなかった。
これらは別の解除魔法が必要のようだ。とても勉強になった。
「しばらくすれば治ると思うから、少し我慢してて。あと、私のことを誰かに言ったらどうなるかはわかるよね? 逃げられると思わないでね?」
麻痺している1人に、念の為、脅しをかけてしまいました。
ごめんなさい。
麻痺しているので返事はもらえなかったけど。
路地を進んでいくと、今度はリアナと会った。
リアナはすでに立ち上がっていた。
「はい。これ」
私はリアナにお金を返した。
「ありがとね、ファー。声が聞こえたから、そっちに行こうと思ったんだけど……。二度も助けられちゃったわね」
「ホントだよ。いったい、どうしたの?」
「冒険者になりにギルドに行ったらパーティーに誘われて騙されたの」
「冒険者って……。リアナは侯爵家のお嬢様だよね?」
「ええ。そうね」
「何かあったの? 内容によっては、力を貸してあげられると思うけど……」
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