第50話 城郭都市ヨードルに行く




 朝、起きる。

 最初にやることは、スリープ状態のPCの起動。

 自分の動画チャンネルを確認する。

 うむ。

 私の異世界景色動画は、予約した通り朝に公開されていました。

 まだアップされたばかりなので反応はないですが……。

 果たして今日……。

 どんな評価を受けるのか……。

 夕方を楽しみにしておこう。


「んー!」


 気を取り直して背伸びをする。

 時刻は午前10時。

 今日もよく寝た私は無職の健康優良児です。


 早速、シャツと短パンからドレスに着替えて異世界に――。

 と。

 思ったのだけど――。


「そういえば」


 私はユーザーインターフェースを起動した。

 装備欄を開く。

 昨日、いろいろ見ている時に発見したのだけど、なんと私の中には、自動的に着ているものを切り替える機能もあったのだ。

 ドレスは、すでにアイテムBOXの中に入っていて装備欄から選択可能だった。

 選択すると――。

 パッと。

 次の瞬間、私はドレス姿に切り替わった!


 ちなみにドレスには「常夜の衣」という名前が付いていた。

 情報を見ると、特殊効果てんこもりのレアな逸品だった。

 洗浄の能力もあって、使うと私ごと綺麗になった。

 すごいね。

 何もかもがすごすぎて、なるほどーと普通に受け入れてしまう私ですが。


「さあ、いきますかー!」


 お金はあるので、今日は異世界で何か食べようと思う。

 なのでこのまますぐに出発だ。


「と、スマホだけは持っていかないとねー」


 充電はバッチリだ。

 私はスマホをアイテムBOXに入れた。


「あー。そうだなー。残りの3万円で、モバイルバッテリーとマイクロSDカードをポチるのもいいよねー。録画用に」


 そんなことを言いつつも転移する。

 まあ、うん。

 今のところは本体に録画できる分だけでも十分だしね。



 私は北の城郭都市、ヨードルの上空に出た。


 見下ろすと、ヒュドラ戦での傷跡はまだ痛々しく残っていた。

 外壁の一部が崩れたままだ。

 ただ、生活自体は、すでに戻っている。

 都市から街道にかけて、多くの行き来する馬車や人の姿を見ることができた。


 さて、まずは都市の中に入らねば、だけど……。


 私には、リアナのお父さんからもらった身分証明書と侯爵家の短剣があるので、都市の正門から普通に入ることはできるはずだ。

 普通に入れば、門番の人にリアナの所在をたずねることができる。

 リアナのところには私が来たという連絡が行くかも知れない。

 そうなれば話は早い。


 と思いつつも……。


 私は迷った末……。


 姿を消して、密かに町へと入った。

 いや、うん。

 仕方ないよね無職でニートな私なんですから!

 門番の人と会話なんて怖いですよ!


「ふう」


 ともかく私は、ついに自分の足で異世界の町に降り立った。

 場所は賑わう広場。

 まわりにはたくさんの屋台が出ていて賑やかだ。

 早速、物陰で透明化を解除して、売っているものを見て回ることにした。

 ただ、なんだか物々しい。

 剣や斧で武装した人たちの姿が多かった。

 装備がバラバラだから、兵士ではなく、冒険者だろうか。

 冒険者という職業があることは、すでに確認済みだ。

 まだ戦いがあるのだろうか。

 私は気になって、暇そうにしている古着屋のお姉さんに聞いてみた。


「ああ、それはね、この間のヒュドラが山や森でも暴れたせいでね。山や森にいた魔物が逃げて散らばってあちこちに出るようになっちゃってね。危険だから一斉討伐しようってことになって近辺の町から冒険者が呼ばれたのさ」

「なるほど、そういうことなんですね」


 先日のワイバーンみたいな子がたくさんいるのか。


「君は違うのかい? この町じゃ見たことのない顔――というか髪だけど」

「あはは。私はただの観光で」

「へえ、観光かい。それならお土産に服はどう? 中古だけど」


 見せてもらうと、良いものが何点もあった。

 店に並んでいるのは、お姉さんが最近まで行商で使っていたという服にローブにマント、旅をするための衣装だった。

 地味で丈夫そうで、状態も良かった。

 サイズ的にも着れそうだった。

 ローブにはフードが付いていて、顔と髪を隠せそうで特に素晴らしかった。


「でも、まだ十分に使えそうだし、売っちゃっていいんですか?」

「ああ。私はこれだからね」


 お姉さんが着ていたゆったりしたワンピースを引っ張ると――。

 膨らんだお腹が見えた。


「そうなんですね。おめでとうございます」

「ありがとね。お金も必要になるし、買ってくれると助かるよ。女冒険者に売れるかと思ったけどなかなか売れなくてね」


 結局、売っているものは全部買った。

 金貨で支払おうとしたら、大金すぎてお釣りが出せないと悲鳴を上げられたからだ。

 お姉さんは正直な人で……。

 金貨なら、屋台ごと売れると言われたけど……。

 お釣りの分は、出産のご祝儀としておいた。

 なにしろ金貨は、まだ29枚もある。


 私は大いに感謝されつつお姉さんの屋台から離れて――。

 物陰で早速、着替えた。

 着替えは、ユーザーインターフェースの装備欄経由なので服を脱ぐ必要もない。

 装備を入れ替えれば、一瞬のことだった。


 かくして私は――。


 地味な旅人の格好をすることに成功したのでした。

 フードもかぶって、髪も隠した。

 変装については『ポリモーフ・セルフ』の魔法でもできるけど、着替えて物理的に隠した方が安全性は高いだろう。

 なにしろ私はちょっとしたことで平常心を乱して、魔法を簡単に解いてしまうしね。

 ともかく、これで目立たず、町を散策して、何か美味しいものが食べられる。


 そう思った時だった。

 私のスキル、危機感知が反応を示しめた。

 反応のあった方に目を向けると――。


 危機感知の反応が出ている、ガラの悪い男が3人いて――。

 その男たちと一緒に、私と同じようにフードをかぶったローブ姿の同年代の女の子が平然とした様子で歩いていた。

 ちらりと見えたその子の横顔は私の記憶にあるものだった。


「それで、まずはどこに行くのかしら」


 女の子が男たちに言った。


「まずは打ち合わせさ。人のいない静かな場所で、な」

「どうして人のいない静かな場所なの?」

「それは決まっているだろ。人に聞かれたり見られたりしないためさ」

「どうして?」

「人より儲けるためさ」

「なるほど、そうなのね。わかったわ」


 明らかにカンペキにどう見ても怪しさ爆発なのに、女の子は納得していた。

 女の子はリアナだった。

 私が会いに来た相手だ。


 ガラの悪い男たちは、いかにもチンピラだ。


 リアナの護衛には見えない。


 どうして1人で、そんな男たちと一緒にいるのだろうか……。


「私、これが初めてのパーティーなの。剣と回復魔術には自信があるけど、わからないことばかりだからよろしくお願いするわね」

「ああ。任せとけって」

「安心しろ。俺らは超ベテランだからな」

「俺らにすべてを委ねれば、ちゃんと大儲けして、面白可笑しく生きられるさ」


 ぐへへへへ。

 という男たちの笑い声が聞こえてくるようだった。

 うん、はい。

 私のような無職の引きこもりでも、ついていかないよそんな連中には!

 ともかく放ってはおけない。

 私は仕方なく後をつけることにした。




 ☆


 ついに50話まで来ました! お話の方は、どうでしょうか……。

 ご意見、ご感想、よかったらお聞かせくださいっ!

 ブックマークや評価もよろしくお願いします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る