第49話 平和な月曜日



 月曜日の昼。


 親と妹が出かけて、今日も我が家には私1人。


 今日の私は大胆なことに、ファーの姿のままリビングのソファーに寝転んで、ユーザーインターフェースを開いていた。

 まだ取得していない、いろいろなスキルを確認するためだ。

 リビングのソファーは大きくて弾力もあって、実にリラックスできるのです。

 スカートにシャツの普段着ではいるので、誰か来たら変身すればいいしね。


 スキルについては、特に気になるのが……。


「威圧に支配、かぁ」


 このガワをもらった時にファーエイルさんが口にしていたスキルだ。

 迂闊に使うと経験値稼ぎが難しくなるよ、と言われた。

 逆に言うと使えば戦わなくて済む、安全ということだ。

 ダンジョン撮影の時に便利かも知れない。

 まあ、現状では姿を消せれば十分なんだけどね……。


「でも、威圧だけ取ってみようかなぁ」


 暴れん坊姫様プレイとか、楽しいかも知れない。


 この私を誰だと思っている!

 ででーん!

 的な……。


 ただ、SPポイントは貴重だ。


 まだたっぷりあるとはいえ、あれもこれもと取っていてはなくなる。

 なくなったらまた稼げばいいんだろうけど……。

 現在のレベルは60。

 さすがに必要経験値も増えた。

 経験値については、いつの間にか増えて、61レベルが間近になっていた。

 ヒュドラ戦や回復魔法の連打で地味に稼いだようだ。

 ただ、やはり簡単にレベルアップはできなくなっている。

 ポイントの割り振りは慎重に行いたいところだ。


 次の取得の候補にしているのは採集スキル。

 特に、草木系。

 なんといっても異世界でお金を稼ぐのなら、薬草採集からが定番だろう。

 かなり地味だけど……。

 私には実に合っている気がする。


「ただ、アレかぁ……。私には合っていても、ファーには合わないかぁ」


 私はまさに庶民の子だけど、ファーは違う。

 いかにも高貴だ。

 夜の衣をまといて、星と月のように世を照らす……。

 そんな外見をしている。

 そもそも、大魔王とか、そんな存在だったというし。


 まったく、うん。


 すごいガワをもらってしまったものだ。


「そういえば……」


 私は今、異世界で地道に稼ぐことを考えていたのだけど……。

 アイテムBOXにはお金の袋があった。

 リアナたちを助けた時に、お父さんの侯爵様からお礼としていただいたものだ。


 取り出して、テーブルに置いて、袋を開けてみた。


「おお……」


 中には金貨が入っていた。

 眼の眩む輝きだ。


 早速、インターネットで金貨の値段を調べてみる。

 なんと1枚……。

 40万円から20万円で買い取りされている。


 私はテーブルに金貨を並べてみた。


 袋の中には30枚入っていた。


「ということは……。ひとつ20万円で売れるとすると……。20かける30で……。600万円くらいにはなるわけか……。なるほど」


 ただし売れればなので、糠喜びはしなかったけど。

 それに異世界のものは、迂闊には流さない方がいいだろうしね……。

 時田さんに相談すれば買い取ってくれるだろうけど……。

 最初、私は、その密やかなる取引の申し出に「ふふふ!ははは!」と勝利の高笑いをしていた気もするけど……。

 冷静に考えれば、彼を信用しすぎるのもどうかとは思うのだ。

 ウルミアとフレインは彼に狂気を感じると言っていたし。

 私が羽崎彼方であることが万が一にもバレたら大変だし。

 そもそも男性と一対一で取引なんて私には荷が重いです。


「このお金については異世界で使えばいいか」


 私は金貨をアイテムBOXにしまった。


「リアナに会ったら、向こうでのお金稼ぎの方とか聞いてみよう」


 リアナは同年代なので、時田さんと比べれば話しやすい。

 お嬢様だけど、よく町に出ているそうなので、いろいろ知っているだろう。

 まあ、うん。

 それでも逃げたのが私ですが……。


「よし。明日、リアナのところに行ってみよう」


 今日は月曜日。事件のあった昨日からは1日経っている。

 明日なら2日になるけど、リアナは、まだ北の城郭都市にいるのだろうか。

 それとも水都への帰路だろうか。

 身元を示す短剣と書類もあるし、まずは北の都市で聞いてみよう。


 明日の行動を決めたところで、私はスキルに目を戻した。


 生産スキルをいろいろと見てみる。

 私の生産スキルは、鍛冶、彫金、錬金、木工、革細工、裁縫、調理……。

 MMORPG仕様になっていてわかりやすい。

 それぞれ『Ⅹ』まで上げることができて、ランクごとに生産できるアイテムがずらりとリスト化されていた。

 楽に1000種類はある。

 しかも染色したり付与強化もできて、そのバリエーションまで考えると、まさに可能性は無限大だ。

 ただ当たり前のことだけど、生産には素材が必要だった。

 素材をセットして、コマンドを実行して、完成。

 という流れなのだ。

 なので今、ここでスキルだけ『Ⅹ』にしたところで、何も作れないわけだ。

 なにしろ私は素材を持っていない。

 悲しいね!

 ただ作れるものについては、以前は木彫りのクマしか考えつかなくてあきらめた気もするけど、メニューを辿れば生成品のリストもあった。

 素材さえあれば、選択して実行ボタンを押すだけで作ることはできそうだ。


「ならば……」


 私はスキルリストを、生産から収集に変えた。

 こちらもMMORPGの世界だ。

 採掘、採集、釣り。

 これについては、すべてマックスまで上げてしまおうかと考えた。

 まずは素材だよね。

 スキルさえあれば取れるのだろうし。


 とはいえ、採掘にはツルハシ、採集にはオノやカマ、釣りには竿と餌が、それぞれに必要だと出ている。


「うーむ。どれもなかなか大変そうだねえ……」


 ホームセンターに行けば道具自体は買えると思うけれど。

 私は頑張れるのだろうか。

 そう。

 この私が、だ。


「無理かー」


 あっはっはー。

 嫌になってツルハシを投げ捨てる未来が見えました、ハッキリと!


「はぁ。どうして私はこうなのか」


 ごめんね、ヒロ。

 駄目な姉で。


 でも、うん。


 昨日の夜、ヒロとは少しだけ仲良くなれた。

 だからお姉ちゃん、頑張るよ!

 明日リアナに会って、何か楽に稼げる方法を教えてもらおう!

 話はそれからだ!


 というわけで気を取り直して、今度は武器系統のスキルに目を向けた。

 こちらもMMORPG仕様で多彩だ。

 剣類だけでも短剣、片手剣、両手剣、刺突剣、曲剣、刀と並んでいる。


 武器については、何か一種類くらいは取ってきたいところだ。

 私は強い。

 ミノタウルスですら素手で余裕だったけど……。

 素手で相手を貫くのは、もうやめておきたい。


「んー。どうしようかぁ。やっぱり片手剣かなぁ」


 それが無難な気がする。

 異世界でならどの町にでも売っていそうだし、取り扱いも容易いだろうし。


「でもなぁ……。せっかくの私なんだし、やっぱり個性はほしいよねえ……」


 筋力もあるわけだし、大きい武器の方がいい気もする。


「よっと」


 私はソファーから飛び跳ねて、身をくるりと一回転させて――。

 床に、片手どころか指1本で逆立ちした。

 そう。

 ファーになった私は、そんな超人技も軽々とこなすのだ。


「よし、決めた! ポールウェポンにしよう! ついでに『威圧』も取ろう!」


 ポールウェポンは、2メートル以上もある柄の先に、斧と槍を合わせた大きな刃を取り付けた大型武器の総称だ。

 三国志の武将がゲームや物語の中でよく使っている戈のことでもある。


 身の丈よりも大きな武器を構えて、威圧!

 カッコいい気がする!

 覇王っぽくて!


 私はソファーに座り直して、ポールウェポンと威圧のスキルを『Ⅴ』まで上げた。

 『フライ』を始めとした各種魔法と同じで、ランクは最大値の半分までというのが我ながらせせこましいのですが……。

 正直、強すぎても持て余すので、これくらいで十分だと思う。

 威力は調整できるのだけど、意識しないと最大ランクでの発動となるし。

 ランク『Ⅹ』の威圧とか、恐ろしいことになりすぎる気がするし、そこまで必要な事態なら逃げた方がいい。


 他にも興味を引くものは多くあった。

 特に闇系のスキルや魔法には、影渡り、闇渡り、呪縛、魅惑、毒化、幻惑、麻痺、混乱、人格操作、記憶操作、閉鎖空間生成……等。

 便利そうなものが並んでいた。

 種族を変更して死霊や魔族にしてしまうような魔法まで存在していた。

 国ひとつ滅ぼせそうな広域殲滅魔法もあった。

 ただ、そのあたりを覚えると本気で闇に染まりそうなので……。

 しかも私のことだから最初は躊躇すると思うけど、慣れればポンポン気楽に使ってしまいそうな気がするので……。

 魅力的だったけど、頑張ってやめいおいた。

 と言いたいところだけど、闇魔法『パラライズ』は取得しておいた。

 麻痺の魔法だ。

 スリープ・クラウドが範囲魔法なのに対して、パラライズは個別指定でかけることができるので使い分けできそうだし。

 なにより殺さなくて済むので平和だしねっ!


 あと『魔眼』のスキルを取得した。

 使うと視線の合っている対象に、任意の弱体効果をかけることができる。

 視線の合っている対象のみというのが便利そうだ。

 こちらも『Ⅴ』まで上げて、魅惑、麻痺、昏倒、呪縛、喪失までの弱体効果を選択できるようになった。

 先日、ウルミアがうちに来た勧誘の人の記憶を消してくれた魔眼の力は、ランクⅤ『喪失』のようだ。

 つまり、ウルミアは少なくともランク『Ⅴ』の領域には達している。

 幼く見えるけど、やはり魔王ということだろう。

 そして、はい……。

 結局、そういう系のスキルも手に入れてしまった私なのでした。


 私はいったい、何を目指しているんだろうね……。


 そうは思ったけど、現代世界でも異世界でも、結局、トラブルには巻き込まれているので自衛の力は必要だ。


 そんなこんなで自分を作っている内――。

 日は暮れて――。

 私は羽崎彼方に変身して――。

 ヒロが帰宅して、お母さんが帰宅して、お父さんも帰ってきて――。

 夕食の後は、一度は投げ出した異世界の録画データを使って、再び動画制作を頑張った。

 ウルミアとフレインを始めとした異世界人は動画に出さず、方向性を前回とは真逆にして景色だけで再編集してみる。

 深夜には完成した。

 馬車の窓から見た町の景色、ヒュドラに騎乗して見た野山、そしてワイバーンの歓迎を受けつつ空から飛んで入った魔王城の勇姿。

 BGMやテロップや人工ボイスは入れず、生の音だけにした。

 私たちの声は入っちゃっているけど、名前は呼んでいないし、まあ、さすがにそれくらいはいいかな、と。

 とにかく自然な感じを心がけた。


 前回の異世界ダンジョン動画は……。

 冷静になって見直すと、テロップと人工ボイスのノリが寒かった。

 頑張って作りすぎて失敗している気がした。

 あと、強引にカットをしすぎてチグハグになっていた。

 なので、うん。

 削除して、なかったことにしました!


 今回作った自然なものを『私が見てきた異世界の景色』というタイトルで第1話のように出そうと思います。


 動画は寝る前にアップロードした。

 公開は明日の朝。

 なぜ即座の公開にしなかったかというと……。

 朝起きて、確認して、動画の再生数が5とか7だったりしたら……。

 1日のやる気が消えるからです。

 明日は異世界で頑張るつもりなので、やる気は大切にしなければならないのです。

 結果は明日の夜のお楽しみ!

 と、弱気なことをしてしまった私ですが、今度は自信はあります。

 今度こそ、波に乗って収益化まっしぐらなのです。

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