第46話 家族の食卓
「ごめん、お父さん、お母さん。まだ買ってもらって半年なのに、スマートフォンが壊れて動かなくなっちゃったの」
「ははは。気にしなくていいよ、ヒロは無事だったんだから」
「そうね。本当に無事でよかったわ」
夜。今夜の食卓は、家族揃ってのものだった。
私はもちろん魔法で変身して、羽崎彼方として椅子に座っています。
ヒロも病院から帰ってきていた。
ヒロたちのことは時田さんがそうすると言っていた通り、不運にも何かの災害に巻き込まれたということになっていた。
検査の結果も問題なしで、ヒロの顔色はよかった。
夕食のメニューは、なんと焼き肉だった。
ホットプレートでそれぞれに焼いて、パクパクするのです。
「あの、それで、なんだけど……。スマホがないと生活できないし、できれば……」
「ああ、いいよ。今月はボーナスも出るし、新しいのを買いに行こう」
「ありがとう、お父さん!」
ヒロがぱぁぁっと表情を輝かせる。
基本的にクールなヒロがそんな顔を見せるのは珍しい。
スマホは、よほど生活の基軸なのだろう。
私もPCなしでは生きていけないし、ヒロの気持ちはよくわかります。
うんうん。
私が理解した様子でうなずいていると――。
「何よ、バカナタ。私にかこつけて、またオネダリするつもり?」
「こら、ヒロ。お姉ちゃんをバカなんて言っちゃいけません」
お母さんがヒロを叱ってくれる。
「だって、ついこの間、動画用のマイクを買ってもらったばかりでしょ。どうせ成果も出ていないのに――」
ん? どうしたんだろう。
悪態の途中なのに、急にヒロの勢いが消えた。
「……まあ、いいけど。動画を作るのは、悪いことじゃないわよね」
あれ? 何故か肯定して食事に戻りましたよ。
ヒロがホットプレートに牛肉の切り落としを乗せて、箸で押し付けて焼く。
「それでカタナは何がほしいんだい?」
お父さんが優しく聞いてくれる。
「ううん。私は今は、ほしいものはないよ、ありがとう」
なにしろ今の私にはお金がある。
おすしを食べて服を買っても、まだ3万円も残っているのだった。
3万円……。
それはまさに無限の可能性だ。
新しいPCを組み立てることはできないし、新しいグラフィックボードを買うだけでもギリギリの金額ではあるけど……。
それでも、いろいろなものは買えるのだ。
しかも……。
しかも、ですよ……。
異世界のアイテムは、時田さんが密かに買い取ってくれるという。
魔石1個で10万円なのだ。
うん。
はい。
正直、今の私の力を持ってすれば、100万円くらいパッと稼げちゃう気がする。
くくくくくくく。
ふふふふふふ。
私、人生に買ってしまったのかも知れないね……。
ファー、ありがとう!
今は私だけど!
「1人でいきなり笑うのは不気味だと思うけど」
「あ、うん。ごめんなさい」
ヒロに冷静に注意されて、私は現実に戻った。
まあ、ただ。
異世界の品を迂闊にこちらの世界に持ってくるのは、リスクが高い。
どんなトラブルになるかわからない。
いくらお金になるからと言っても自重すべきだろう。
本当にほしいものができた時だけにしよう……。
やはり私には動画だ。
収益化を成し遂げて報酬をもらうのだ。
インターネットの世界で生きていくのが私には一番だと思う。
頑張ろう。
おー。
というわけで、食事の後――。
シャワーを浴びってサッパリとしたところで――。
今夜はゲーム配信をすることにした。
いつもの日課だ。
ただ、何かにチャレンジするほどの気力はないので、いつものオンラインRPGで、いつものようにダラダラ遊ぶだけだけど。
私はPCを起動させようとして――。
モニターに映る羽崎彼方の顔を見て、ふと思った。
変身魔法を解く。
するとたちまち、私は銀髪で金眼の、すんごい美少女さんになった。
今の私の本当の姿だ。
正直、ファーでいる方がリラックスできる。
彼方の姿でいると、変身魔法の継続で微妙に減っていくMPの感覚に、なんとなくの違和感を体が覚えるのだ。
ちなみにMPについては、減るには減るのだけど……。
減った分以上に自動回復するので、結果的には減っていないですが。
「どうしようかなー」
今夜は、ファーの姿で配信しようかな。
カメラはつけていないので、姿が映ることはないし。
それにぶっちゃけ、ファーの声の方が綺麗だ。
ファーの声で楽しくしゃべれば、私の下手プレイでも人気が出るかも知れない!
「よし。やってみよう」
何事も、まずは試してみるべし。
だよね。
私はファーの姿まま、マイクをセットして、ゲームを起動させた。
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