第44話 おすしのお祭り!



 日曜日の午後2時過ぎ。

 それなりに空いていた回転寿司のお店に私たちは入った。

 回転寿司のお店は素晴らしい。

 テーブルごしに仕切られているので、安心して私たちも楽しむことはできた。

 私も、はい。

 なんかもう再び彼方になるのも今更なので、銀髪金眼な異邦の美少女としてウルミアとフレインと行動を共にしています。

 眼が何色だろうが頭に角があろうが、別に通報されたりしないしね。

 普通にお店にも入れました。


「ふーん。タブレットかぁ。触ると動くのね。絵がついているのはいいわね。言葉がわからなくても何が来るのかはわかるし」


 注文用のタブレットに触りながらウルミアは言った。

 ウルミアとフレインは、かなり頭がいい。

 一度教えただけで、もうタブレットの操作は大丈夫なようだ。


「好きのを頼んでいいよー。ただ、注文数には気をつけてねー」

「任せて。数字の形は理解できたから。ポンポンっと。ファー様、確認をお願い。玉子のにぎりを10注文したけど、合っている?」

「合ってるけど、10皿も食べるの? 20個くるよ?」

「そうなの?」

「うん。1皿で2個だし」

「ま、平気よっ! だって玉子はサイコーだし! 私は玉子の海に溺れるわ!」


 まあ、いいか。

 私は注文を確定してあげた。


「じゃあ、次はフレインどうぞ。好きなのを選んでくれていいよ」


 フレインにタブレットを渡した。 

 フレインは、スムーズに画面を動かしていく。


「たくさんありすぎて迷う……」

「かっぱ巻きにしとく?」

「ううん。せっかくだから、私は新しいものを選ぶ」

「あ、ならこれなんてどう?」


 私は張ってあったポスターを指さした。

 初夏のカニ祭り。

 とそこには書かれている。


 そう。


 今、このお店では、季節外れな気もするけどカニが推されているのだ。


「それは何?」

「カニ」

「カニ? それはこれ?」


 フレインが手をチョキチョキさせて質問してくる。


「そのカニだよー」


 私も手をチョキチョキして答えた。


「なんと」


 フレインの平坦な表情が、ぴくんと動いた。

 衝撃を受けたようだ。


「そっちの世界では、カニは食べないの?」

「食べない。そもそも肉がない」

「なるほど」

「こっちの世界のカニは肉アリ? 見る限り、ふわふわそう」


 ポスターに目を向けてフレインは言った。

 私はカニについてを説明してあげた。

 フレインとウルミアが知っているカニとは、川に住む小さなカニと火山地帯に住む凶悪な魔物のカニのことだった。

 海の深い場所に住む、爪や足にたっぷり肉をつけたカニは知らなかった。

 凶悪な魔物がいるので、外洋で漁をする習慣はないようだ。


「へえ、でも……。そんなカニが海の底にはいるのねえ……」

「驚きの事実」

「あはは。そっちにもいるかはわからないけどねー」

「ファー様、私はカニを所望する」

「はーい。注文するねー。せっかくだし、私もカニにしようかなー」


 贅沢にも全種類のカニ寿司を注文した。

 今日は豪遊なのだ。


 しばらくすると、玉子10皿が続々とレールに乗って届いた。


「ファー様、来たわっ! これって私のよね!」

「うん。そだねー」

「どうしようどうしよう! こんなの早すぎて食べきれないわ!」

「あはは。まずはテーブルに置くんだよー。流れたままで食べなくていいからー」

「……それはそうよね」


 ウルミアの前に、ずらりと玉子が並んだ。

 なかなかに壮観だ。


「先に食べていいよー」

「ううん。2人のもすぐに来るわよね。一緒でいいわ」


 やがてカニ寿司一式も来た。

 なんか、うん。

 玉子とカニでテーブルが一杯になりました。


「これがカニ……」


 フレインが、それはもう興味深そうにカニ寿司を見つめた。


「なんか、血に濡れた雪みたいね」


 ウルミアが言う。


「例えるなら、もう少し可愛いのにしようねー」


 グロく見えちゃうから!


 ちなみに私も、カニのおすしを贅沢に食べるのなんて生まれて始めてだ。


「じゃあ、揃ったところで食べようか」


 気を取り直して私は笑った。


「ファー様、せっかくだし、最初に何かお言葉を頂戴」

「うん。ほしいところ」

「えー。そう言われてもなぁ……」


 困りつつも、結局、請われて言うことになった。


「今日は私は楽しかったね。では!」


 短いけど素直な感想です。


 3人で一緒におすしをつまんで、パクリ。

 うまー!

 カニ肉が口の中でとろけるように広がるうううううう!


 私たちは思う存分におすしを楽しんだ。


 あ、そうそう。


 時田さんとは、回転寿司屋に来る前に駅で別れた。

 駅までは、フレインが飛んで担いで連れて行った。

 私が魔法でみんなの姿を消したので、騒ぎになることなく無事に送迎はおわった。


 連絡先は交換した。


 時田さんは、なんと警察組織の人だった。

 しかも偉いらしい。

 もしも何かあれば遠慮なく相談してほしいと言われた。

 いや、うん。

 ちゃんとオハナシしてよかったよ……。

 乱暴に処理していたら、大変なことになっていたよね、きっと……。


 ヒロたちのことについては、時田さんが確認を取って教えてくれた。

 ヒロたちは警察を呼んで、念の為に入院したそうだ。

 問題なければ日帰りできるらしい。

 よかった。


 今回の事件については、世間から魔術師の存在を隠すためにも、このままなかったことにさせてほしいと言われて私は了承した。

 私たちのことについても、絶対に人には言わないと約束してもらえたしねっ!

 その代わり……。

 後日、異世界の情報を、いくらか提供することにはなったけど。

 それくらいは、まあ、やむなしだろう。

 そもそも異世界転移は私以外には不可能なようだし、問題にはならないよね。

 きっと。


 そんなわけで。


 無事、円満におわってくれたのでした!


 故に思う存分、私はカニのおすしを堪能することができたのでした!


 ちなみにウルミアは、見事に玉子10皿を食べきったばかりか、カニまで堪能した。

 小さな体なのに大食さんでした。

 フレインもカニを食べた後、他のおすしもたくさん食べた。


 最終的には……。


 私、4皿。

 ウルミア、40皿。

 フレイン、41皿。


 いや、うん。


 その前にパック寿司を食べているのだから、私が普通だと思います。


 最後、ウルミアとフレインは大食い勝負をしていた。

 とっくにお腹いっぱいなのに無理して食べようとするから適度な制限時間を設けさせていただいたところ、フレインが競り勝った。

 相手が主人と言えど勝負は真剣なようだ。


 ちなみに支払いは余裕だった。


 10万円は神です!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る