第40話 どうしよう
「ファー様、さっさとこのニンゲンを処分して、おすしを食べにいきましょ!」
「賛成」
ウルミアとフレインは、スーツの男性に興味はないようだった。
まあ、それはそうか。
なにしろ異世界のことだしね。
「この人、どこに置いてくればいいと思う?」
「ねえ、ファー様」
「うん。なぁに?」
「ファー様が殺すなっていうから連れてきたけど、私はこのニンゲンはさっさと殺しておいた方がいいと思うわ」
「どうして?」
「だって、狂気を感じるもの。このニンゲンがどこの誰かは知らないけど、生かしておけば将来の禍根になると思うわ」
「うーん。ねえ、それなら記憶を消すのは?」
前みたいに。
「できるけど、魔術師相手だと後日に巻き戻される可能性があるわ」
「このニンゲンは見たところ一般の魔術師程度の実力は有している。油断すれば一矢報いられる可能性のある相手。殺すのが安全」
「んー。でもなぁ……」
できれば変身して話を聞きたいところだけど、一般の魔術師であっても魔法を見破る可能性はあるとのことだった。
私は臆病な子なので身バレのリスクは背負いたくない。
しかも相手が狂人と言われれば尚更だ。
今なら見られたのは、ウルミアとフレインだけ。
私は知らぬ存ぜぬを決め込めば、いいだけなのかも知れないけど……。
ただ、うん……。
ヒロたちとは関わってしまった様子だ。
捨て置けない。
「あああああああああっ!」
どうしたらいいのかわからないよー!
私には無理な判断ですー!
と、わめいてみたけど、わめいたところで事態は解決しない。
「はぁ……」
私はうなだれた。
どうしてこんなことになっているのか。
わけがわからないです。
「ちなみにこんな武器を使われた」
「そうそう! それがあったわね!」
フレインが懐から取り出すのは、なんと拳銃だった。
「撃たれたの?」
「撃たれたけど、弾丸は斬り捨てた」
「そっかぁ。よかったぁ」
「魔力をまったく感じなかったから、まさかトリガーひとつで高速に玉が射出されるなんて思わなくて驚いたわ」
「ファー様から科学の話を聞いていなければ食らっていたかも知れない」
「食らっていたら大変だったの?」
「キチンと物理障壁を張っておけば跳ね返せる」
「そうね! 楽勝ね!」
「そっかぁ」
さすがは異世界の強者。
「でも、魔術師相手には、基本的に魔法障壁しか張らない。食らっていたら、それなりに痛みは感じていたかも知れない」
「そうねそうね! 痛かったと思うわ!」
それでもまあ、痛かった程度のようだ。
ウルミアとフレインは竜人。物理攻撃への耐性は素でも強いらしい。
「ただ、そうだとしても、この世界と戦う危険性は理解した。アレの集中砲火を受ければ、どうなるかわからない」
「そうねそうね!」
「まあ、うん。そうだねー。この世界って物理攻撃の火力は凄まじいから、正面から激突するのはやめた方がいいかも。攻めるなら精神面だね。適当な人間を狂気に落として暴れさせれば、それだけで混乱は確実だし」
私が知る限り、現代世界に精神攻撃への防御手段はない。
魔術師がいるのなら実はあるのかも知れないけど、少なくとも世間一般に存在していないことだけは確実だ。
あと、ゴーストの類にも、ほとんど無力だろう。
攻めるなら絶対にその方面だ。
「なるほど。戦争になったらそう攻める」
「戦争はよそうね!?」
「万が一の話」
「ならいいけど……」
まあ、そもそも、異世界と現実世界はつながっていない。
なのであくまでも仮定の話か。
今はそれより、フレインが肩に担いだ男をどうするかだ。
「よし」
私は決めた。
「ウルミア、フレイン。おすし、食べよ」
「やったー!」
「りょ」
「なら、このニンゲンはさっさと適当に捨てて――」
「ううん。その人も一緒に」
私は笑顔で言った。
「へ?」
ウルミアには変な顔をされたけど……。
「だってさ、始末なんてできないし、記憶を消しても戻る可能性があるなら、もうちゃんと話してみるしかないよね」
「いいの? それ?」
「へーきへーき。ファーとして話すからさ」
うん。
そう。
普段の生活は羽崎彼方として送るのだ。
ファーならば、少しくらい顔が広まっても問題はないはずだ。
そもそも姿自体は、すでに動画で何百万再生も見られているわけだし、ここはもう開き直って大胆に動いてしまおう。
「ファー様がいいならいいけど……。でも、このままお店に入るの?」
「さすがにそれは無理だよねえ」
加えて、よく考えてみると、今日は日曜日。
しかもお昼の時間だ。
回転寿司のお店なんて、どこも行列ができている気がする。
うーん。
む。むむ。それならば!
私は名案を閃いた!
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