第39話 急行! 救出!


 現場にはすぐに到着した。

 通常の危機感知が反応を始める。

 公園の広場に多数。

 加えて強い反応がひとつ、現場からゆっくりと離れていた。


「アンデッドが沸いているのね。あとファー様、魔術師が1人逃げていくみたいだけど」

「魔術師?」

「ええ。こっちね」


 ウルミアが強い反応の出ている方を指差す。


 魔術師なんて、ドラゴンと同じで現代世界にはいない。

 私はそう言おうとしたけど……。

 実際、眼下の公園からは、アンデッド特有の負の気配を感じていた。

 それに弱い魔力も。


 と、迷っている場合ではなかった!


「ウルミア、フレイン、そっちのことはお願いしていい? なんかこう、うまいこと処理してほしいんだけど殺さずに」

「わかったわ! 任せて!」

「りょ」


 とりあえず殺さなければ、あとはなんでもいいよね!


 2人と分かれて、私は公園に降りた。


 現場は酷い有り様だった。


 爆発でもあったのか、石畳がめくれて散らばっている。


 そんな中――。


 血まみれで今にも倒れそうなイケメン男子が、ふらふらになりながらも体に魔力を込めて1人きりでアンデッドの群れと戦っていた。

 アンデッドは、腐乱した死体のような者たち。

 ゾンビやグールと呼ばれる類だ。


 ヒロたちは、魔法障壁で守られていた。


 状況はジリ貧だった。


 障壁は残念ながら、アンデッドの攻撃を受けて今にも破れそうだし――。

 それを防ごうとするイケメン男子も、とっくに限界の様子だ。


 あ。


 ついにイケメン男子の肩にアンデッドが食らいついた。

 イケメン男子は、それを振りほどけない。

 アンデッドたちがイケメン男子に覆いかぶさっていく――。


 合わせて、魔法障壁も弾けて――。

 ヒロたちは無防備となり、そちらにもアンデッドの群れが襲いかかって――。


 もちろん、させない。


 ――スキル『危機対応:滅』。


 意識するだけで、それは自動的に発動してくれた。


 私は敵を殲滅した。

 手刀で――。

 ほんの瞬きする程度の時間で――。

 すべての敵を斬り裂いて、塵のようにこの世界から消し去った。

 まさに、滅した。

 私は、うん。

 はい。

 特に何もしていないのですが。

 自動的に、です。


 あまりにもあっさりと綺麗になった現場を見て私は思った。

 わかってはいたけど、私ってば最強だ……。

 特に私が見ているだけの時には……。


 私がぼんやりしていると――。

 最後の力を振り絞ってだろう、イケメン青年が血に濡れた顔を上げた。

 彼の目に焦点はない。

 光もない。

 すでに前は見えていないだろう。


「よく頑張ったね。ヒロのことを守ってくれて、ありがとう」


 私はまず、その彼に『ヒール』の魔法をかけてあげた。

 白い光に包まれて彼の傷は癒やされる。

 同時に表情も和らいで――。

 彼は深い眠りについた。

 死んだわけでないのは、呼吸があるのでわかる。

 汚れも落ちて、服も元に戻った。


 次にヒロたちに『ヒール』の魔法をかけた。

 パラディンのヤツは蹴飛ばしてやろうかと思ったけど、状況がわからないし、死なれるとヒロの迷惑になるのでかけておいた。

 もっとも、『ヒール』しなくてもヒロたちに目立つ外傷はなかったけど。

 イケメン青年が命懸けで死守してくれたようだ。


 そのイケメン青年は……。


 よく見ると、どこかで見たことのあるような相手だった。


 少し考えて思い出す。


 え。


 そして驚いた。


 だって、明らかに魔法を使っていた彼は、今をトキメク有名インフルエンサーの石木セリオ本人に間違いないと思えたからだ。


 どうして、そんな超有名人がここにいるのか。

 どうして魔法を使っていたのか。


 すべてが謎だった。


 ただ、ここでのんびりと時間を過ごすつもりはなかった。


 騒動になる前に撤退しないと。


 ヒロはどうしよう……。

 あとクルミちゃんもいるし……。


 私はこのまま、2人を連れて帰るか迷った。

 ただ、うん。

 連れて帰るのは不自然だ。

 危機反応は消えた。

 なので、もう脅威はないとするなら……。

 このまま一緒にいたメンバーで、一緒に目覚めてもらう方が自然だろうけど……。


 迷っていると、先にウルミアとフレインが戻ってきた。

 フレインの肩には、敵対者と思しき気絶したスーツ姿の男性がいた。


「おかえりー。ありがとねー。怪我はない?」


 私は2人に声をかけた。


「平気よっ! ファー様、やっぱりこいつ魔術師だったわよ。麻痺系の拘束魔術を使ってきたから間違いないわ」

「あと私たちを見て大笑いをした」

「失礼よね、ホントに」

「……それって、どういうこと?」

「不明」

「そっかぁ……」


 残念ながら言葉が通じないのだったね。

 コスプレみたいな2人の衣装がツボだったのだろうか……。


「で、ファー様。ここに転がっているニンゲン共はどうするの? こいつと一緒に焼き捨てるなら私がやっちゃうけど」

「ここにいるのは助けたヒトたち。味方だよ」

「……そっかー。ファー様はニンゲンにも味方がいるのね」


 ウルミアが残念そうな顔をする。


「それはそうだよー。私、こっちの世界で暮らしているし。特にこの子、ヒロは私の妹だからよく覚えておいてね」

「ファー様の妹って、すごいわね……。ただのニンゲンにしか見えないけど……」

「たしカニ」


 倒れたヒロのことを見ながら話していると――。


「う、うう……」


 ヒロが小さな声を上げて、指先を動かした。

 意識が戻ろうとしているようだ。


「ヒロ! 大丈夫!? 痛いところはある!?」


 反射的に私はしゃがんで語りかけた。


「あの……。私を助けて……?」


 ヒロが目を開ける。

 その目には、ちゃんと光があって、私は安心した。


「もちろんだよ。当然だよね。間に合ってよかった」

「ありがとう……ございます……」


 私は驚いた。

 いくら意識朦朧としているとはいえ、ヒロが私に丁寧な言葉を使うなんて!

 ただ、ヒロの次の言葉で現実に気づいた。


「天使様……。ファーさん……」


 あああ、そうだったー!

 今の私はお姉ちゃんではなくて、謎の銀髪美少女だったぁぁぁ!


 見れば、パラディンたちも目覚めようとしている!


 このままではいけない!


「じゃ、じゃあ私はこれで! ごめん、2人とも! とりあえずここから離れるよ! 肩の男の人はそのまま連行でお願い!」

「りょ」


 私は逃げることを選んだ。

 ウルミアとフレインを連れて空の上に戻る。




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