第35話 静かな公園(羽崎ヒロ視点)
喫茶店を出て、私たちは再びの移動を始めた。
目的地は、となりの市の公園。
パラディンさんもセリオさんも自動車で来たとのことで、まずは駅裏の立体駐車場へ行くことになった。
「……ヒロ、すごいことになっちゃったね。まさかセリ様まで来るなんて」
私の腕を取って、パラディンさんたちからわざと少し遅れて、クルミが興奮を抑えた声で囁きかけてくる。
「そうね」
確かに驚いたけど。
「連絡先もらっちゃったけど、あとでお礼のコメントとか入れた方がいいのかな」
「いらないと思うわよ」
連絡先といっても、ただのメッセージアプリだし。
「なんで? 仲良くなれるかもだよ?」
「クルミは、見ているだけで満足派なんだよね?」
「それはそうだけどぉ……。世の中には例外というものもあるよね? お金持ちとか」
「お金なんだ、顔や性格じゃなくて」
「もちろん全部だよね?」
なんて現金な、現金だけに。
と思ったけど、ただのダジャレなので口には出さなかった。
「ヒロだってそうだよね?」
「私は本当にそういうのじゃないから。ただ、生き方を尊敬しているだけで」
「ホントにー?」
しつこく聞かれて、私は顔を逸らした。
すると、
「ほらー」
と笑われたので……。
「ほら、遅れてるよ」
私は距離の離れてきたパラディンさんたちのところに向かった。
「あー。もー」
クルミも追いかけてきて、恋バナは終了!
駅についた。
駅の二階から線路を越えて、裏口へ。
私とクルミは、パラディンさんたちが車を持ってくるというので、裏口のロータリーでしばらく待つことになった。
「さっきの話だけど、ヒロはパラディンさんだよね?」
すかさず恋バナが復活した。
「そういうのとは違うけどね」
「どういうのでもいいからー」
「まあ、そうね……」
「だよね。知ってた」
「なら言わなくてもいいでしょ」
「確認確認♪ 大事だよね」
なんてことをとりとめもなく話していると、赤いスポーツカーと黒い高級セダンが私たちの前に止まった。
「すっご……」
思わずクルミが息を呑んだのは理解できる。
私たちは車のことなんて知らないけど、それでも一目見て、どちらも何千万円もしそうな車だと思った。
スポーツカーからセリオさんが、セダンからパラディンさんたちが降りてくる。
「よっ! お待たせ!」
「すごいですね! カッコいい!」
「だろー」
「赤いスポーツカー! 本当に素敵ですねっ!」
「て、そっちかよ!」
パラディンさんとクルミのそんな軽快なやり取りを聞きつつ……。
私は思った。
配信で成功するのって、すごいのね……。
パラディンさんもセリオさんも、まだ20代の前半なのに……。
うちの引きこもりの姉も、いつかは配信で成功して、こんな超高級車を乗り回すような身分になるのだろうか。
そうなれば、いいとは思うけど……。
でも、うん。
悲しいけど、まったく想像できない。
本当にお姉ちゃんは、将来、どうするつもりなんだろう。
心配になる。
「ヒロー! 私、セリ様に乗せてもらうから、ヒロはパラディンさんねー!」
「え。あ」
気づいたらそうなっていた。
クルミがセリオさんにエスコートされて楽しそうにスポーツカーに乗った。
「こっちも行くぞー。ヒロ、乗れ」
私はパラディンさんに呼ばれて、
「はい」
言われるまま、セダンの助手席に座らせてもらった。
うわぁ。
座って、驚いた。
なんかもう、座っただけで高級だ。
お父さんの軽自動車とは別次元の座り心地だった。
「あの……。よろしくお願いします……」
「おうよ」
車が発進する。
道中は緊張しまくってしまって……。
真っ白になっている内……。
よくも悪くも、無事に公園に到着してしまった。
クルミともすぐに合流した。
クルミは、短い時間とはいえ、いろいろおしゃべりできたのだろう。
ホクホクの笑顔だった。
公園は、新緑公園というところだった。
となりの市だけど来たことはない。
市の外れ、山の麓にある、静かで広々とした公園だった。
公園の中に入ると……。
広くて静か過ぎて、不気味ですらあった。
今日は日曜で天気もいいのに、しかも誰もいないし。
無人だった。
天気……。
そう、空は晴れていた。
はずだった……。
なのにふと気づくと、いつの間にか曇っていた。
世界が白く濁っている。
霧……?
ではないけど、肌に湿り気のまとわりつく、なんとなくピリピリするような……。
雷でも鳴るのだろうか……。不穏な気配も感じる。
空を見上げると、もう真っ白だし……。
「なんか、いきなり天気が変わったな」
パラディンさんが言う。
「そうですね。でも、ここは山の麓ですし、よくあることでしょう」
セリオさんが言った。
「そーゆーもんか。わははは」
パラディンさんは笑い飛ばしてしまったけど……。
クルミは気にする様子もなく、セリオさんに話しかけていたけど……。
アシスタントの人は、淡々と動画を撮っているけど……。
私は不安を拭いきれなかった。
帰った方がいいんじゃないかな、という気がする。
だけど、結局……。
それを口にすることはできなかった。
だって、せっかくの機会だし。
パラディンさんと一緒にいるのは楽しいし……。
なにより、ファーさんのことを知っているという人物が気になる。
いったい、ファーさんとは何者なのか。
どこの誰なのか。
もしかして、本当に天使なのか。
私はそれを、知りたいと思う。
そうして……。
世界がどんどん閉ざされていくような錯覚に襲われながら――。
私たちは公園の歩道を歩いて――。
「ここだな」
パラディンさんが足を止めて、ついに約束の場所に到着した。
時刻は、午前10時30分。
石畳の広場だった。
そこには、1人の人間が立っていた。
黒いローブを身につけて、フードを深くかぶって顔の見えない――。
なんというか――。
まるで魔法使いのような格好の――。
いかにも怪しい人物だった。
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