第33話 日曜日(羽崎ヒロ視点)
考えてみると、男の人と休日に遊ぶなんて生まれて初めてのことだった。
正確には、遊び……。
か、どうかはわからないけど……。
いずれにせよ、初めてではあった。
私、羽崎ヒロは、これまでずっと真面目に生きてきたのだ。
まあ、うん。
先日は学校を抜け出したりもしちゃったけど。
最近の私は、少し真面目ではなくなっている。
パラディンさんたちとの集合場所は、駅前の広場だった。
噴水の前。
人通りの多い場所だ。
私が到着すると、すでに友達のクルミが来ていた。
「おはよう、クルミ。早いわね」
「おはよー、ヒロー。えへへ。楽しみすぎて1時間も早く来ちゃったよ」
「はや」
かくいう私も30分前に来た。
早すぎるかなと思ったけど、上には上がいたようだ。
「ヒロ、今日は気合入ってるね」
「そう。普通だけど」
「ヒロはパラディン、大好きだもんねー。わかるわかるー」
そういうクルミもめかしこんでいる。
ふわふわの格好をしていた。
ただ、クルミの場合は、いつもそんな感じなので、特別というわけではない。
なので茶化すことはしなかった。
「そういうのじゃないよ。普通だって」
私は普段は、かなりシンプルなので、茶化されても仕方ないけど。
実際、今日は頑張った。
「ちなみにヒロ、私はパラディン狙いとかはないから安心してもいいよ。私は、近くで見えればそれで満足な子だから」
「はいはい」
私は相手にしない素振りをした。
「またそんな冷めた顔をして。今日は積極的にいきなよ。チャンスなんだから」
「だから、何のよ」
「イケメンだもんね、パラディンは。女癖は悪いし、チャラポラだし、普段は強気なクセにいざとなるとチキンで頼りにならないけど」
「そこまで酷くはないと思うけどね。少なくとも自分はある人だし」
「ごめんごめん。冗談だよー」
あははー、と、クルミは柔らかく笑う。
私はため息をついた。
本当にそういうのではない、と言いたいところだけど……。
そういうのでは、少しはあるのかも知れない。
「あーでも、楽しみだねー。天使様会議。と言っても私たちに言えることってないよね? ヒロは何かある?」
「ないわね、確かに」
「だよねえ。すぐに帰れって言われそうだね」
「お昼は奢ってくれるそうだし、それはそれでいいんじゃない」
「またそんな冷めたこと言ってー。でも実際、あのヒトって、どこの誰だったんだろうね。そもそも人間だったのかな。本当に天使だと思う?」
「さあ」
そう言われてもわからない。
ファー。
少なくとも、同じ名前だからといって、うちの姉でないことだけは確かだけど。
「うちの学校でも、すごい話題になってたよ。トラックを手で止めるとか」
「よねえ」
うちの学校でもそれは同じだった。
パラディンさんの動画に、バッチリ映っていたしね。
しかも近所の事件として。
そんなこんなで――。
しばらくクルミとおしゃべりしつつ待っていると――。
「よっ!」
陽気に手を振りつつ、一見すると金髪のチャラ男、いや、うん、実際にもそのままなのかも知れないけど――。
パラディン北川さんとそのアシスタントの人がやってきた。
意外にも集合時間10分前だった。
「ヒロとクルミだよな。顔はちゃんと覚えてるぜー! 今日はよろしくなっ!」
やってきたパラディンさんが、私たちの肩に手を乗せる。
さすがはパラディンさん。
当然のように、いきなり馴れ馴れしい。
挨拶の後、アシスタントの人から、今日の簡単な説明を受けた。
顔は出さないこと。
プライベートな情報も隠すこと。
ただ、声と姿は出てしまうので、そこは了承いただきたいこと。
あと協力のお礼として1万円もらえるらしかった。
「ええっ! お礼なんてもえるんですかぁ!」
クルミは素直に喜んだけど――。
「いえ。お金は結構です。私たちは動画のためじゃなくて、パラディンさんと先日のお話がしたくて来ただけですので」
私の方で、冷静に断らせてもらった。
クルミは頬を膨らませたけど、お金なんてもらわない方がいい。
「それで今日は、まずどこに行くのでしょうか?」
私はたずねた。
するとパラディンさんは頭をかいて、あたりを見回しつつ言った。
「んー。ちょっと待っててなぁ。実は今日、もうひとり来ることになっててさ。でもまだ近くにもいねぇみたいなんだよなぁ」
「へえ。誰なんですか? もしかして別の配信者さんですか?」
クルミが好奇心旺盛にたずねる。
「ふふー。超有名なインフルエンサーだぜー」
「へえ! 誰なんだろう!」
「それは来てからのお楽しみってヤツだ。動画に興味を持ったみたいでな、どうしても今日の会議に混ぜてほしいって言われたんだけどよ。と、来たか!」
パラディンさんの視線の先には――。
駅の中から出てきたばかりの、スラリと背の高い男の人がいた。
男の人もすぐにこちらに気づいたようだ。
「ねえ! あれってまさかっ!」
すぐにクルミはそれが誰なのか理解した様子で、私の腕をつかんで興奮する。
「みたいね」
私にもわかった。
近づいてくるのは、まさに絵に描いたような、漫画の世界から抜け出してきたかのように異次元感のある美男子だった。
陽射しに輝く髪。
爽やかさを具現化したような笑顔。
長身で細身なのに、不思議と頑強さも感じる風格のある歩き姿。
そんな人間は、そうそういないだろう。
「やあ、待たせてしまったみたいですね。申し訳ない」
「安心しろ。まだ時間前だ」
パラディンさんが笑って答える。
「皆さん、初めまして。モデルの石木セリオと申します。今日は無理を言って参加させていただきありがとうございます。よろしくお願いします」
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