第27話 恐怖の来訪者
「2人とも、静かに……!」
私は2人を抱き寄せて、小さな声で言った。
「ファー様、どうしたの……?」
「敵?」
「うん。敵」
昼間からうちに来るなんて、町内の人間ではない。
車の音はしなかったし、宅配でもないだろう。
と、なれば……。
宗教の勧誘かセールス!
どちらも、家に1人でいる私なんかを見れば、まさにカモネギとばかりにしつこく襲いかかってくるに違いない。
私にとっては、まさにそいつこそが敵だ。
ピンポーン。
ピンポーン。
チャイムはしつこく鳴らされた。
「ねえ、ファー様。この音は、呼び鈴なの?」
「うん。そう」
「挑発されているの? そんなヤツ、転がした方がよくない?」
「然り。ファー様に不敬」
ウルミアの言葉にファーがうなずく。
「ハッ! ファー様がここまで警戒する相手……。まさか相手も神なの!?」
「それはないけどね。確実にただの人間だよ」
そもそも私も神じゃないけど。
「そうなんだ……。なら、やっぱり転がすべきよね。――フレイン」
「承知」
ウルミアの声にうなずき、フレインが中腰で窓際に移動する。
「転がしちゃダメだからね……!?」
承知してくれたのか、フレインがグッと親指を立てる。
フレインは静かに窓を開けるとベランダに出て、これまた音もなく飛び降りて、10秒もしない内にベランダに戻ってきた。
肩に、ポロシャツ姿の男性を乗せて……。
「この男が犯人。ファー様の命に従って、気絶だけさせた」
部屋に戻ってきたフレインが、その男性を床に寝かせる。
男性は意識を失くしていた。
「ねえ、ファー様、こいつはどうするの?」
「どうすると言われても……。そもそも、どこの誰なんだろうね、これ……」
大学生くらいの普通の青年に見えるけど……。
「わかった。聞いてみるわ。――フレイン、起こして」
「承知」
フレインが容赦なく男性の肩を打つ。
「ぐはっ」
男性は強引に目覚めさせられたようだ……。
私はなんとなく見ていた。
いや、うん。
だって、どうすればいいのかわからないよね、実際……。
目を覚ました男性の半身を強引に起こして、ウルミアが男性の顔を見つめる。
「ひ。あ」
男性は一瞬、驚いた顔をしたけど、すぐに意識が混濁としたのか、半ば眠っているようなぼんやりとした表情になる。
ウルミアが何かをしたのだろう。
「はい、完了。じゃあ、聞くわね。貴方は、どこの誰でどうしてここに来たの?」
だけど男性からの返事はなかった。
理由はすぐに推測された。
「ファー様、こっちの世界の言葉で聞いてみて?」
私はウルミアに言われて聞いてみた。
すると返事が来た。
「僕は……。岡中春彦です……。『明日の幸せを考える会』の会員です……。ここには、幸運のアドバイスのために来ました……」
「ねえ、ファー様。こいつは何だって?」
ウルミアとフレインには、男性の言葉は理解できなかったようだ。
つまり、異世界と現代日本の言語は異なる。
私は異世界でも日本語で話して、普通に会話できていたけど、どうやらそれは私だけの特別な仕様みたいだ。
「ん。あー。えっとね、このヒト、宗教のヒトみたい。勧誘に来たのかな」
確実にカルト系だよね……。
幸運のアドバイスとか……。
最悪だ……。
「でも私、そういうのには興味ないし、関わりたくないからさ……。このヒトは、ちょっと遠くに捨ててくるよ。2人は待っててね」
「はーい。なら私たちは散歩でも」
「外に出るのは禁止! 部屋の中にいること!」
「えー」
「いいね?」
「は、はい……」
睨みつけると、ウルミアは素直にうなずいてくれた。
「あ、でも、その前に。ねえ、ウルミア。この人の記憶の操作とかはできる? うちに来た記憶を消しちゃうとか」
「そんなの余裕よ! 任せて!」
できるんだ。
頼んでおいてなんだけど、さすがは魔王。
ウルミアはすぐにやってくれた。
魔力を帯びた深く輝く瞳で、男性の目をじーっと見つめる。
やがて男性は再び倒れた。
「はい。おしまい。これで、この1週間くらいの記憶は綺麗に消えたはずよ」
「ありがとー」
1週間はやり過ぎな気もするけど、まあ、うん、いいや。
それならうちに来た痕跡すら残らないだろうし。
私は男性を肩に担ぐと、空いたままの窓から『フライ』の魔法で空に浮かんだ。
さらに『インビジブル』で姿を消す。
「問題は、どこに捨てるかだねえ……。山の中とかだと、さすがに問題だよねえ……。もっと自然に寝ているような場所……」
悩んだ末、町外れにある大きな公園のベンチにした。
ベンチに座って、寝ていてもらおう。
「ふう」
私は無事に作業をおえた。
これでよし!
その後は寄り道せず、急いで帰宅した。
すると私の椅子に座った和風姿の少女フレインが、勝手にPCを起動させて勝手にマウスを操作していた。
ウルミアは横から興味深げにモニターを見ている。
「えっと……。何してるの……?」
「おかえり、ファー様! ちょっとこの情報端末をいじらせてもらっていたのよ! 文字が読めなくてわけはわからないけど、やっぱりここの文明は進んでいるのね! これが高度な技術によって動いていることはわかるわ!」
「よく、いきなりで操作できたね……」
「ふふーん。フレインは刀剣士であると同時に魔学者でもあるのよ。まさに、この魔王ウルミアの右腕なわけよ!」
「テレテレ」
と無表情に言いつつ、フレインがブラウザで新しい画面を広げる。
「あ」
思わず私は声を上げた。
それは後でじっくり見ようとブックマークしておいた……。
『マッスル! マッスル! まっすぅぅぅる!』
あああああ!
海パンお兄さんの筋肉ダンスが始まってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「こ、これは……!」
ずっと無表情だったフレインが、ついに驚愕に目を見開く。
「本当にすごい技術ね」
対してウルミアは平然としていたけど。
私は横からマウスを奪うと――。
そっとブラウザを閉じて、PCの電源も落とした。
「さあ、急ごう。戻るよ」
強引に2人を抱き寄せて、魔法『テレポート』発動!
ヒュン!
私たちは北の城郭都市ヨードルの上空に戻った!
眼下では……。
今まさに、決着がつこうとしていた。
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