第25話 魔王2人
とりあえず、さすがにそろそろ話を聞きたい。
私はジルという子を離してあげた。
で……。
和風姿の少女フレイン、紫色の髪の女性ジル、赤色の髪の少女ウルミア。
その3人と空の高い場所で対峙することになった。
「ハンッ! このジル様ともあろう者が少しだけ油断してしまったわね! でも、そのオカゲで確信できたわ! おまえが伝説の主サマなら、とっくに私は死んでいる! だけど私は元気! つまり、おまえはニセモノォォォォ!」
ジルという子が乱暴な様子で叫んだ。
ただ、うん。
なぜかその目は閉じているけど。
「そうよそうよ!」
ウルミアが横から相づちを打つ。
「それに、伝説の主サマは、星の光のように輝いて直視なんてできない御方! すなわちおまえはどう考えてもニセモノォォォォ!」
「そうよそうよ!」
「つまり、砕け散れェェェ!」
「そうよそうよ!」
「ウルミアも何か言ってやりなァァァ!」
「そうよそうよ!」
話を振られたのに、つい勢いでなのかウルミアは相づちを繰り返した。
「ウルミア様、カワイイ」
そんなドジな子に、フレインが優しい眼差しを向ける。
「そうよそうよ!」
どうやらウルミアという子は勢いだけらしい。
私は思った。
コントかな?
「ともかく! アンの言葉を疑うわけじゃなかったけど、疑ってよかったわ! 伝説の主サマを語るニセモノめ! 主サマに代わって、成敗してやるゥゥゥゥ!」
「そうよそうよ!」
ウルミアが同意する中、ジルがビシッと指を向けてくる。
相変わらずジルの目は閉じていたけど。
「ねえ、どうして目は閉じたままなの?」
魔眼とかだろうか。
「この子は今、寝ているのよ。この子はね、寝ている時だけ体内の魔力が活性化して大人の姿で凶暴になるの」
ウルミアが教えてくれた。
「へー。そうなんだー。ところで、私はファー。君たちは?」
「ふふんっ! 聞いて驚きなさい! そして絶望するといいわ! この私こそ、天下の10座魔王の1人! ウルミア様よ!」
「こっちの子は?」
「同じ10座魔王が1人、ジルゼイダ様」
たずねると、フレインが教えてくれた。
「へー。すごいねー」
全然すごくは見えないけど、私は社交辞令として関心した。
とはいえ、残念ながら……。
この子たちからは、敵対反応が出ている。
しかもヒュドラをけしかけて、人間の町を破壊しようとしている張本人たちだ。
眼下では、首1本になったヒュドラと騎士たちとの死闘が続いていた。
リアナの姿もある。
この子たちを下に行かせるわけにはいかないだろう。
「最初の蹴りはただの挨拶! 今度は本気で行くゥゥゥゥゥ!」
ジルの手から、ジルの体よりも大きな剣が生まれた。
黒い刃の不気味な剣だった。
「ナイトメア・ソードォォォ! この剣で殺された者の魂は、浄化されることなく永遠の悪夢に囚われ続けるのよォォォォ! 天罰を食らわせてやるわァァァァ!」
大剣をかざして突っ込んでくるジルに、スキル『危機対応:手加減』が発動した。
私は刃をかわしつつジルの頭をつかむと――。
「マァァァァ!? 子供扱ィィィィ!?」
そのまま、驚愕するジルを、町からは反対方向になる遠くの山に放り投げた。
「あああ! ジルー! おのれ、よくもおおお! ヘルズ・ハンド!」
今度は手に黒炎をまとわせてウルミアが攻撃してきた。
同時にフレインも刀を振るってくる。
私は2人の頭をつかむと、同じ山へと放り投げた。
どうやら状況に応じて手加減も苛烈になるようだ。
「いやああああ!」
ウルミアの悲鳴が響いて――。
やがて消えた。
意味がわからないまま、とはいえこのままでは帰れないので……。
私も仕方なく3人の後を追って山へと飛んだ。
3人は山の中で仲良く倒れていた。
「どうしよう……」
私は正直、途方に暮れた。
「帰ろっかな」
うん。
戦闘不能にすれば十分だろう。
外壁で戦う人たちにとっての仇敵なのはわかるけど……。
他人のために彼女たちを殺す気にはならない。
私はユーザーインターフェースから『テレポート』を発動しようとした。
その時だった。
「やああああ!」
いきなりウルミアがつかみかかってきた。
私は自動的に反応。
手加減して、ウルミアの小さな体を片手で脇の下に抱えた。
「ふふ。油断したわね! さあ、ジル! ニセモノの片腕は私が封じたわ! 今こそ貴女のナイトメア・ソードでぶった斬って――」
「ふああああ……。今の衝撃で目が覚めちゃったのぉ。ジルは寝るのお」
目を開けたジルは、身を起こしたと思ったら……。
自分から地面に寝そべった。
気のせいか、ううん、気のせいではなく……。
ジルの姿は、先ほどまでの凶暴で妖艶な大人ではなく、ウルミアと同じ小学生くらいの女の子になっていた。
なるほど。目覚めると縮むようだ。
「ちょおおおお! フレイン! フレイン! 斬ってぇぇぇ!」
「承知」
抜刀、そして刃がきらめく。
私も動いた。
刃の下をかいくぐって、フレインの腹に拳を突き入れた。
それはいつものように自動的な反応だったけど――。
私は動転して、ついうっかり転移魔法実行のボタンを押してしまった。
そして気づけば……。
もたれかかってきたフレインを正面から支えつつ、脇の下には異世界の自称・魔王な赤色髪の女の子を片手で抱えて――。
よりにもよって、自分の部屋に戻ってしまった。
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