もらったガワは伝説の大魔王でした 底辺配信者の私、自由に異世界転移すらできるようになったので、異世界動画を撮りまくって目指すはチャンネル収益化! え、大魔王? なりませんからね興味ないです!
第22話 閑話・ふたつの夜 異世界編、リアナ・アステールは伝言を受けて
第22話 閑話・ふたつの夜 異世界編、リアナ・アステールは伝言を受けて
「まず、安心するといい。私は貴女の命には興味がない。素直に答えるのなら、私はこのまま静かに退く。わかった?」
問われて、私は必死にうなずこうとした。
ほとんど顎は動かなかったけど。
だけど通じたようだ。
「あ」
急に体が動くようになって私はよろめいた。
おっとっと……。
と、足がもつれて、よりにもよってフレインに正面から支えられてしまった。
フレインの手が私の肩に触れる。
フレインの手は青白い肌色と違って温かい――熱いくらいだった。
アンデッドのものではないように思えた。
「ご、ごめんなさいっ!」
私は、あわてて離れた。
フレインは気にした様子もなく、冷淡な表情のままたずねる。
「問う。先日、ミノタウロスのダンジョンで魔人の襲撃があった際、助けられた貴族令嬢というのは貴女のことで間違いない?」
「は、はい……。それは私だけど……」
「問う。かの御方は本物?」
「わかりません。カノー・オ・カターとは、誰でしょうか……」
「5点」
「ありがとうございます」
点数をもらったのでお礼を言うと、フレインは無表情のままうなずいた。
よかったのかな……。
緊張のあまり変なことを言ってしまった気がするけど……。
すぐに気づいたけど、かの御方よね。
「ダンジョンで貴女を助けたという銀色の髪の少女には、何を言われた?」
「何をと言われても……。あ、そうだ。無害な無職だと……」
「どういう意味?」
「わかりません……」
「謎?」
「はい」
「あとは、チュートリアルだと言っていました」
「どういう意味?」
「わかりません……」
「謎?」
「はい」
同じやりとりを繰り返して……。
夜のバルコニーには沈黙が流れた。
「あ、意味としては、仕事のないことと、初心者用の指導だと思いますけど……」
「それはわかる」
「すみません」
「わからないのは、かの御方がそれを使った意味」
「ですよねー」
あはは。
私は笑った。
「他は?」
すると、じーっと見られた。
「あとは……。散歩していたと言っていました……」
「散歩?」
「はい」
「なるほど。わかった」
何をだろう。
私は不思議に思ったけど、さすがに質問することは控えた。
だって、相手は魔族。
ニンゲンなんてゴミクズのように殺す敵だ。
刺激しない方がいい。
「魔族への伝言は?」
「いえ、何も……」
「その彼女が手刀でアンタンタラスを貫いて殺した。それは真実?」
「はい……。そうです……」
「ざまあ」
と、フレインは言った。
無表情なので、その真意はわからないけど……。
ただ、うん。
魔族ではあるけど、かなりお茶目な人なのかも知れない……。
とは思った……。
ただ、そんなフレインの次の言葉は苛烈なものだった。
「結論が出た。その彼女はかの御方ではない。理由は簡単。かの御方であれば、わざわざ手刀で貫く必要はない。おそらくそれは『大帝国』時代の短刀。姿は幻影の魔術によるのもの。すべてはまやかし。小賢しい罠。故に私は計画を継続する。明日の昼、この町の北門にヒュドラを進める。そちらは全力で迎え撃つといい」
そこまで淡々と語られて――。
沈黙が訪れ――。
私はハッと思った。
止めないと!
攻撃なんてされたら、この町が大変なことになる!
だけど、私が何かを言おうとした時――。
フレインの瞳が深く輝きを増して、私の体を痺れさせた。
「私のことは秘密。わかった?」
フレインが言う。
私は恐怖に圧されて必死にうなずこうとした――。
体が痺れて思うようにはいかなかったけど。
ただ、わかってはもらえたようだ。
「素直なのはいいこと。契約は成立」
そう言ってもらえた。
私が次に動けるようになった時――。
もう部屋にフレインの姿はなかった。
魔族とは本当に、神出鬼没の存在であるらしい。
私は部屋の中に戻って、すぐに廊下に出た。
屋敷を歩いて、見つけた使用人に男爵たる叔父への急用を伝える。
叔父とザルタスとはすぐに合流できた。
私は迷いながらも伝えた。
視えた、と。
明日の昼、町の北門にヒュドラが来る。
防衛の準備を、と。
叔父とザルタスは、私のその言葉を信じてくれた。
襲撃はきっと、本当にある。
フレインが嘘をついているようには思えなかった。
でも私は嘘つきだ。
フレインのことを叔父とザルタスに伝えることもできなかった。
何度も伝えようとしたけど――。
その度に、深く輝く瞳を思い出して口は動かなくなった。
私は、呪縛されたのだろう。
一気に時間は過ぎた。
ヒュドラ迎撃の作戦は籠城に決まった。
町に接近されるリスクは大きいけど、人的被害を考えればそれが最良との結論だった。
外には打って出ず、外壁の上から魔術と矢の嵐で一気に倒すのだ。
外には罠を仕掛ける。
北に住む住民は南へと避難。
叔父とザルタスは町に出ていき、私はお屋敷で待機となった。
眠りなさいと言われたけど、眠れなかった。
気づけば朝だった。
私はバルコニーから町の方に目を向ける。
と言っても見えるのは、お屋敷の庭しかないんだけど。
「ねえ、パンネラ」
私は、いつものように私のそばにいてくれるメイドに声をかけた。
「はい。お嬢様」
パンネラはいつものように答えてくれる。
「実はね――。ううん。なんでもない……」
「お嬢様」
「うん。なぁに?」
「やはりお嬢様には、本当に力があるのだと思います。自信をお持ち下さい」
「はぁぁぁぁ……。やめてぇぇぇ……」
私はうなだれて、手すりにもたれた。
言いたいけど、言えない。
言えたとしても、パンネロを巻き込んでいい話ではない。
私はあきらめの心境で、とにかく無事にヒュドラが退治されることを祈った。
祈りつつ、ファーにもお願いして――。
ううん、駄目よね……。
私はファーに頼る気持ちを頑張って抑えた。
私はこの地方を治める侯爵家の娘。
こんな時だからこそ背を伸ばすのが領主家の人間としての矜持だ。
剣は、微妙かも知れないけど……。
魔術なら人並みに使える。
幼い頃から魔術についての英才教育は受けてきた。
「私も頑張らないとだね……」
ファーに恥ずかしくないように、自分にやれることはやろう。
私は恐れつつも、頑張って覚悟を口にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます