第15話 取り逃げの子
こんにちは、ファーです。
私は今、遂に念願の異世界の地上に来ています。
がたがた……。
ごとごと……。
馬に引かれた護送車に入れられて、ですが……。
はい。
惨めです……。
でも、護送車には小さな窓がついていて、そこから外の景色を見ることはできた。
ダンジョンのあった森を抜けた先には丘陵が続いていた。
生まれて初めて目にする――。
どこまでも広がる、雄大な異世界の大地だ。
状況は惨めではあるけど、ワクワクした気持ちも高まるというものだった。
「ねえ、キミさ。さっきから熱心に外を見ているけど、楽しいの?」
「それなりには、ね」
「キミ、ファーっていうんだよね? ファーって呼んでいい?」
うしろから声をかけてくるのは、取り逃げの子だ。
彼女も同じ護送車に放り込まれていた。
猫っぽい獣耳と尻尾を持った獣人の女の子であるその子は、両方の手首をロープで縛られて、板張りの床に座っていた。
「うん……。いいけど……」
ちなみに私は、素直に恭順したからか、何の拘束も受けていない。
ドレス姿のまま、普通に護送車に乗せられていた。
「でも私、大丈夫?」
念の為に私は聞いてみた。
「何が?」
「ほら、見た目とか……」
銀髪の金眼って、かなり不吉なようだし……。
すると笑い飛ばされた。
「そーゆーのは、町の中の連中が言ってればいいだけのこと。外のアタシらには関係ないよ。気にするわけないでしょ」
「そっかぁ……。ならいいけど……」
取り逃げの子の表情や声に嘘を言っている様子はない。
本当にそう言ってくれているようだ。
「アタシはシータ。そのままシータでいいよ。ねえ、ファーは見たことがない顔だし、着ている服は綺麗だし、町の中から来たの?」
「町っていうと、これから行くところ?」
「うん。麗しの水都メーゼ。……って、そのポカンとした様子だと違うか」
「そうだねえ。ちがうかも」
「かもって……。じゃあ、ファーはどこから来たの?」
「んー。遠いところかなぁ」
「どうやって?」
「魔法?」
「まーほーですかー」
「あはは」
今はギャグだよね。とりあえず笑ってみた。
「じゃあ、ファーはダンジョンでは何をしていたの?」
「探索?」
「だからどうして聞き返すっ!」
「いや、うん。ね」
だって、何もかもが答えにくいのです。
「こっそりと入り込んだんだよね? だから捕まったんだよね?」
「まあ、ね……。そうみたいだねえ……」
「お宝は手に入った?」
シータが好奇心旺盛に、大きな目をキラキラさせて聞いてくる。
「こんなものなら取れたけど、これってどうかな?」
せっかくなので聞いてみた。
アイテムBOXから取り出して見せたのは、ミノタウルスを倒してゲットした土属性の魔力を含んだ大きめの魔石だ。
「おー。魔石だね。しかもでっかい。やっぱり宝箱?」
シータが興奮した声を上げる。
がたがた……。
ごとごと……。
街道を進む馬車はけっこう揺れて、大きな音も出ているので、まあ、うん、壁越しの御者には聞こえていないだろうけど。
「いいなー。アタシも実は宝箱が一番の目的だったんだけど、全然なくてさー。やっぱり地下の深いところで見つけた?」
「えっと、うん、まあ……。ねえ、シータ。これってどれくらいの価値なのかな?」
「町の中で余裕で暮らせるくらいなんじゃない?」
「すごいんだ?」
「そりゃすごいよ。ていうか、それ、どこから出したの? ポンと出てきたよね?」
「あー、うん。えっと……。服の下からね? ささっとね?」
「そうなんだぁ。上手いこと隠したもんだねえ」
幸いにもシータは納得してくれた。
ただ魔石は、アイテムBOXに戻しづらくなってしまった。
しばらくは太ももの上に置いておいて、後でシータの目が離れたら、こっそりとアイテムBOXに収納しよう。
「ねえ、私からも聞いていい?」
「うん。いいよー」
「シータは大丈夫なの? このまま連行されちゃって」
「多分、鉱山送りかなー。魔術で鑑定されると、ごまかせないしねー。アタシ、けっこういろいろ取り逃げてきたからさー」
「初めてじゃないんだ?」
「まあねー。頑張って生きてきたってわけなの」
「鉱山送りって、大丈夫なの……?」
「さあー。それなりには生きて行けるんじゃないのー。町はあるって話だからさー。できればここにいたかったけど。アタシ、メーゼ湖のキラキラが本当に好きなんだよね。どんな時でもキラキラを見れば元気になれるくらいに」
「綺麗なんだ?」
「ファーは本当にこのあたりの人間じゃなさそうだね。湖の綺麗さを知らないなんて」
「う、うん……。そうかも。ごめんね」
「謝らなくてもいいよね?」
「あはは」
それはそうか。
と、笑っている場合ではなかった。
「鉱山送りって何とかならないの? 家族に助けてもらうとか……」
「親はいないし、兄キは去年怪我で死んじゃったよ。アタシは1人で生きているの。そもそも町の外生まれの町の外育ちだよ」
シータはぶっきらぼうに言った。
私は、うん……。
ここで早くも、何をどう言っていいのかわからなくなった。
私――ファーの外見と同じくらいの年齢なのに。
それで1人で生きるって……。
家族がいないって……。
私には想像できなかった。
そんな私の様子を見てだろう。
シータは笑って言葉を続けた。
「ま、それでも楽しくはやってたけどね。儲かった日にはソーセージとか食ってさ」
「そっかぁ」
私は情けないことに、それしか言えなかった。
その時だった。
スキル『危機感知』に反応が出た。
方向は上。
数は1。
それは、急降下してくるような凄まじい勢いで迫ってきて――。
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