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「……まず現在、アリエッタの故郷でもあるフィエステ領が何者かに攻められているのはご存知でしょう。城壁の外、デルシュタイン側から。……これではまるで我が国からの侵略のようだが勿論違います。……我々はこれがエールリヒ公爵の仕業であると告発しに来ました」
「……なんだって?」
「馬鹿な。なぜ私がそんなことを」
目を丸くする王太子と、否定に泡を飛ばす公爵を手で制し、ルードは続けた。
「動機の前に。我々がそう判断するに至った経緯をご説明しましょう。まず、フィエステ領を攻撃している者たちは普通の人間ではありません。複数の人体を継ぎ接ぎして作り上げた異形の……死体の群れです」
「継ぎ接ぎ……死体?そんな、おぞましいこと……可能なのですか?」
王太子の問に、ルードは頷く。
「ええ。あるものを使えば。そして、我々は先日似たような存在と遭遇しています。デルシュタインのイリーネ男爵領で」
「デルシュタインで見つかったのなら、まさに貴国の仕業であろう!」
「いいえ!何度も言いますが、我が国は関与していません!……話は遡ります。二年前、そのイリーネ領で一人の少女が死亡したことになっています。彼女の名前はフィミラ・イリーネ。領主の第三子でした。……ヘデラ」
ルードに促され、ヘデラが眼鏡を外す。彼女の顔をまじまじと見て、王太子は眉をひそめる。
「……ヒルデ……?」
「……ええ。エールリヒ公爵家のご令嬢に瓜二つでしょう。彼女はフィミラの姉です。姉妹はよく似ている。――ヒルデについて調べましたが、彼女の名が初めて公の記録に残っているのは二年前、学園へ入学するタイミングです。妙なことに、それ以前の記録が見つからない。まるで、フィミラの死亡と入れ替わるように彼女はこの国に登場している」
「それは……娘は体が弱く……公の場に出せなかったためで……」
「だから出生届一つ、見つからないと?」
ルードはしどろもどろになる公爵を睨みつけるようにして続けた。
「その頃、貴方は頻繁にイリーネ領に出入りしていますね。偽名を使ったようだが目撃情報が多数ありました。あの地は田舎です。余所者は目立つ。貴方はフィミラの死を偽装して、自分の娘としてカリウスに連れ帰った」
「……阿呆らしい。何のためにそんな」
「動機は後ほど、と言ったはずですが。――さて、ここからはヒルデ
王太子は私の顔を見ると、またもや申し訳無さげに眉を下げた。首を振って応える。
「……時間は少しだけ遡ります。ヒルデがアリエッタを告発する一ヶ月前。デルシュタインで聖女が死にました。ティーナ・タルシア、彼女は『レイディ』と名乗る謎の女にそそのかされ、自身の使役する妖精を大量に集め――全て惨殺されています。……その結果、妖精に呪い殺された」
「謎の……女?まさかまた」
「ええ。レイディの協力者の証言によると、彼女の顔は――フィミラ、つまりヒルデに瓜二つだったそうです。そしてこの時期、ヒルデは学園を数週間病欠している」
「しかし、なんだってそんな」
「レイディは殺した妖精を用いて作った回復薬を大量に持ち去っています。どんな怪我でも治すことができる、まさに魔法の薬だ。誰でも喉から手が出るほどほしいでしょう。――ちなみにこれを使えば、前述の化け物を人工的に作ることが可能です」
ルードが合図するとユルゲンスさんが小さな檻を取り出して、机上に置く。――その中では
「こんな風に、体のパーツを継ぎ接ぎにされた人間の死体が、イリーネ領に大量に廃棄されていました」
困惑しきった顔の王太子は
「さて、動機でしたか?……わかりやすく権力欲、でしょうかね。エドガーとヒルデを結婚させ、奴を傀儡王にするつもりだったのでしょう。既婚で取り入る隙のない、クライド王太子殿下を排除してね」
ルードはここで少し沈黙する。時計の針が進む音が、静かな部屋に大きく響いた。
「おそらく……アリエッタを迫害することによって辺境伯を刺激し、内乱を起こさせる。ドサクサに紛れて王太子を暗殺した後、妖精薬を用いた半不死の兵士を使って鎮圧。その後はフィエステ領地を没収……というシナリオだったのでは?お粗末な計画ではあるが……
公爵は、答えない。
「しかし予想に反して辺境伯は動かなかった。そこで貴方はヒルデにエドガーを連れ出させ失踪事件をでっち上げ、山中でエドガーを始末するよう命じた。デルシュタインに王族失踪の責を押し付け、フィエステ領を攻めさせる。やはりこのドサクサに紛れて……王太子の命を狙った」
「……はは、語るに落ちたな若造!私がそのような計画を立てていたとして、エドガー殿下を殺そうとするわけがないだろう。ヒルデが懇意の殿下が死ねば、私がこの国で力を得ることなど」
「黙れ俗物が!」
――怒りに満ちた声だった。勝ち誇った様子の公爵を黙らせ、ルードは静かに語りだす。
――その時、部屋に一匹の蝿が迷い込んで――うるさくその羽音を響かせた。
「……信じたくはなかったが……。ここに来て、確信しました。フィミラは、禁術である
蝿は飛び回り、ピタリと止まる。
――その場所は国王陛下の、眼球の上だった。
「――ゼストリオ陛下のように」
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