2
おそるおそる振り返ると、ルード、そしてバルドルさんが不自然に私から視線を逸らしている。ナハトだけが新鮮な驚きの表情を見せてくれていた。
……うわぁ。
「……知ってたんですか?」
「……ごめん……」
「……いつから……?」
「…………最初から…………」
頭を抱える。そりゃ、従業員の身元確認くらいするよね。そうだよね!
ナハトは「アリー姉ちゃん貴族だったの!?」と驚いてくれたので、まだ救われた。その後の「平民にしか見えない」は素直に喜んでいいのかどうかわからないけど。その後「庶民的って意味で」っていうフォロー入れてくれたけど。
デールさんは
「と、いうわけなので……アリー嬢の久しぶりの里帰りと決め込んでくれたまえ。ついでに
――それからあれよあれよと、私とルードは用意された馬車に詰め込まれ、ものすごいスピードで揺さぶられること、半日。
私は国境沿いの捜索隊のキャンプで、父であるゴルドー・フィエステ辺境伯からからもみくちゃにされていた。
「アリエッタ!!心配したんだぞ!すまなかった……私達からも
予想はしてたけどかなり心配してくれていたらしい。……なんだかセリフがおかしい気はしなくもないけど。主に不敬的な意味で。
「……わたしこそ、ごめんね。ちゃんと話してなくて」
心配をかけたくないと学園ではうまくやっていると言い続けていたのは私だ。結果的に家族には余計に心配をかけることになってしまった。
しばらく私を撫でくりまわし気が済んだのか、お父様はごほんと咳払いをし、ルードに深々と頭を下げる。
「ルード殿……でよろしいかな」
「はい」
「娘が大変お世話になりました。貴殿に匿っていただけなければ、世間知らずのじゃじゃ馬が一体どうなっていたか……。心より、御礼申し上げたい……ですが」
お父様は突然、頭を上げ、眼光鋭くルードを睨みつける。
「それとこれとは別です!娘はもうどこにも嫁にやりません!!」
「辺境伯!?」「お父様!?」
「今回の婚約破棄で懲り懲りだ!アリエッタはもう結婚なんてしなくてよろしい!ずっと実家にいなさい!」
……めちゃくちゃだ。久しぶりの再会だったけど、そういえばお父様はこんな感じだった。ルードは、お父様の勢いに目を白黒させている。……なんかごめん。
「……ところで!エドガー殿下の捜索状況はどうなの?」
「……芳しくないな。念の為、女神像の周りには兵を配備しているからそこに迷い込んだということはなさそうではあるが」
お父様は打って変わって真剣な口調で山を見上げる。行方不明以来、十ほどの小隊が山に入って捜索しているそうだが、未だ第二王子の発見を知らせる合図は上がっていないということだ。
私達が来た直後、キャンプ地が非常にピリピリしたムードになっていたのも無理はない。デールさんの考え通り、私とお父様の再開で場は和んだものの……問題は何も解決していない。
「……時間がありません。我々も山へ入ります」
「案内は私に任せてください。子供の頃、よく山歩きしました。山頂までは行ったことないけど道はわかります」
「……危険だ。君はここにいて」
「嫌です。一緒に行きます」
ルードは譲らない私に困った顔をし、助けを求めるようにお父様へと視線を移す。
「……必要あらば戦う、それがフィエステ家の女です。もし少しでも娘がお役に立つのなら、連れて行ってください。……アリエッタ、この山の話は以前話したろう。道すがらルード殿にお伝えしなさい」
「ありがとう。お父様」
お父様ならそう言うと思っていた。笑顔をお父様、そしてルードに向けると、複雑そうな顔をしていた。それを華麗に無視して山道の入口へと向かう。
そうして私達は、人喰い女神の住まう山へと足を踏み入れたのだった。
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