第2話シスコン王子

「ロザリアは可愛いな。それに比べてブレイクと言ったら無能そのものだ。あんな奴追放したほうが良い。そう思うだろ、ロザリア?」


 ローランドはそう言いながら私の頭を撫でる。一応、中身はぴちぴちのJKだからやめてほしい。不快極まりない。

 それよりも気になる発言があった。ブレイクを追放すると言うのだ。


 早すぎる。私が転生したのは原作開始直前だ。もうローランドはブレイクを追放しようとしている。

 それだけはやめさせたいが、ブレイクを有能と認めさせる材料がない。時間をかけてブレイクをパーティーにとって必要な人材と認めさせようと考えていたが、もうそんなところまで来ていたなんて。


「お兄様、お待ちください。ブレイクを追放するのは時期尚早ではありませんこと? 彼の隠れた才能が眠っているかもしれませんわ。それに可哀想ですではありませんこと? 彼にも生活がありますのよ。この可愛い妹ロザリアに免じて少し待ってくださいませんか?」


 今のところ、情に訴えかけるしかできない。ブレイクが補助魔法や結界魔法を使えると言っても信じてもらえない可能性が高い。

 それに何故私がそんなことを知っているという話にもなる。

 今は一縷の望みにかけるしかない。


「おお、やっぱりロザリアは可愛いな。ロザリアの可愛さに免じて少しだけ待ってやろう。だが、少しの間だ。ブレイクが有能と証明されなければ彼を追放する」


 ほ……猶予期間が出来た。それでも状況は予断を許さない。追放が少し先に伸びただけだ。

 完全にローランドが追放を思い直してくれるまでは安心できない。


「ローランド様、ブレイクなどさっさと追放してはいかがです? あんな役立たず早く追放してしまうのです。そして私たちで楽しく旅をするのですわ」


 またもブレイク追放派が現れた。金髪縦ロールの髪に高飛車な性格。

 公爵令嬢でローランドの婚約者イザベル・ラングリーだ。


 原作では類まれなる魔力で魔族を打ち破っていた。でも、実はその魔力はブレイクの補助魔法のおかげだった。

 ブレイクの結界魔法で切れて魔族がダークウッド王国に攻め込んだ時には、彼女の魔法は通用しなかった。


 そこで自分の無力さに気付かされるが、いまさら遅いってやつだ。


「イザベル、ブレイクのパーティー追放については少し様子を見ることにした。無能なあいつと一緒にいるのは辛いだろうが、耐えてくれ」


「あら、そうなのですか? どうしてでしょう?」


「可愛いロザリアの頼みだ。僕がロザリアの頼みを断れないのは知っているだろ?」


「まあ、相変わらずローランド様はロザリア様に甘いのですわね。ロザリア様、どうしてブレイクを庇うのでしょう? 貴方はブレイクの追放に賛成だったではありませんか?」


 そうだった。原作でロザリアはブレイクに心無い言葉を投げかけ追放に賛成していた。早くも悪役転生の洗礼を受けている。

 ローランドに溺愛されて育ったロザリアは彼の言うことを全て正しいと思って育ってしまった。

 なんてことなの。よくよく考えてみればロザリアも追放パーティーの一員なのだったわ。

 それでもイザベルの意見には賛同できない。


「私は考え方が変わりましたの。ブレイクには隠れた才能が秘めている可能性がありますのよ、イザベル様。それにパーティーを追放されたらブレイクの生活はどうなるのでしょう? 彼にも生活がありますのよ」


「私にはそうは思えませんわ。あの方は典型的な無能です。ローランド様が温情で荷物持ちをさせて上げているのに、それすらまともにできない始末。そんな者が落ちぶれたとしたしても私は知りませんわ。勝手に飢え死にでもなさい」


 う~わ、貴族の嫌なとこ見た。パンがないなら飢え死にすればいいじゃないときたか。

 国民の生活を考えるのも、王族や貴族といった高貴な身分の者の責務。

 それを見捨てるなんて信じられない。


「ロザリアは優しいな。あのような荷物持ちもまともにできないような男の肩を持つなんて。流石僕の妹だ。僕もイザベラと同意見だが、ロザリアの優しさに免じてブレイクの追放は待ってくれないか、イザベル?」


「私にはまったくわからないお話でございますけれど、ローランド様のご意思は堅いのでしょう? ロザリア様の言うことなら何でも聞いてしまうローランド様ですものね。私の意志は変わりませんが、ここはローランド様に免じて少しだけ待ちましょう」


 なんて上から目線の人たちなんだろう。自分たちがブレイクに守られているなんて知らずに。

 でも私のするべきことは二人と口論することではない。


 ダークウッド王国の滅亡を阻止することだ。そのためにブレイクの国外追放を阻止する。

 そのためならキモいシスコン馬鹿王子に頭を下げることが出来る。


「お兄様、必ずやブレイクの有能さを証明してみせますわ」


「そんなものないと思うけどな」


「私もないと思いますわ」


 この二人は自分たちの発言が破滅に向っているとも知らずにいい気なもんだ。でも、負けるわけにはいかない。国民と私の命がかかっているのだから。

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