シスコン王子の妹に転生した~彼のせいで国が滅びそうなので全力で阻止します~

新条優里

第1話お兄様、国が滅びますわよ

『ブレイク、君をパーティーから追放する』


「いや、そうはならんやろ!」


 私は帰宅しながらラノベを読んでいる。内容に対して一人ツッコみを入れていた。


 タイトルは『お荷物と蔑まれた荷物持ち、実は最強の補助魔法使い~荷物持ちがお荷物とは洒落が効いている。でも、俺は実はお荷物ではないんだ。それに俺は補助魔法だけでなく結界魔法も使えるんだ。俺を追放したら国が滅びるぞ。俺が最強と気付いていまさら戻って来いと言われても遅すぎる。俺にはこれからスローライフとハーレム展開が待っている。だからお前らがざまぁされようと知ったこっちゃない。勝手に破滅してくれ、俺は幸せになる』である。


 タイトルなっが! ギネス級になっが! 内容はタイトルを見てわかる通り追放ものだ。

 役に立たない荷物持ちと言われた青年が冒険者パーティーから追放されるも、実は隠し持った才能で無双するという内容である。


 そうはならんやろってツッコみたくなるが、ページをめくる手が止まらない。現在私は歩きながらラノベを読んでいるのだ。

 歩きながらラノベ読んでいるJKなんておらんやろって、セルフツッコみを心の中でいれている。

 良い子の皆は危ないから真似しないでほしい。


「危ない!」


 周囲から誰かの叫び声が聞こえた。気付いたら私は赤信号で車道に飛び出していた。

 走行している車を避けることなんて出来ずに、私の体は宙に投げ出されていた。


「大丈夫ですか!? しっかりしてください!」


 運転手さんが飛び出てきて私の心配をしている。


「大丈夫……そうじゃないですけど……気にしないで下さい……私が悪いんです……」


 赤信号で前方を確認せずに進んだ私が100%悪い。私はもう助からないけど、運転手さんのせいにならないで欲しいことを願うばかりだ。

 意識が遠のきそうになっている。このまま意識がなくなったら私死んでしまうのかな……ラノベの続き読みたかったな……。


 私が死ぬ前に思ったことは、あんなに馬鹿にしていたはずの追放ものラノベの続きが読みたいということだった。





「ロザリアは可愛いな」


 ん? 気付いたら私は金髪色白の男に頭を撫でられていた。どう考えても目の前の男は日本人ではない。

 顔の彫が深いし、ラノベで貴族が着ているような服を着ている。知らない男性に頭を撫でられていることに不快感を覚える。


 私が目の前に抱いている印象はシスコン男だ。私がこの男の妹であるのかはまだわからない。

 それでも頭の中にこの男がシスコンであるという印象が過ぎるのである。既視感がある光景だ。


 そうだ、『お荷物と蔑まれた荷物持ち、実は最強の補助魔法使い~荷物持ちがお荷物とは洒落が効いている。でも、俺は実はお荷物ではないんだ。それに俺は補助魔法だけでなく結界魔法も使えるんだ。俺を追放したら国が滅びるぞ。俺が最強と気付いていまさら戻って来いと言われても遅すぎる。俺にはこれからスローライフとハーレム展開が待っている。だからお前らがざまぁされようと知ったこっちゃない。勝手に破滅してくれ、俺は幸せになる』の世界だ。長いのでお荷物追放とでも略そう。


 ということは、目の前の男はローランドか。ローランド・セオフィラス・ダークウッド。

 ダークウッド王国の第一王子である。

 お荷物追放の原作主人公ブレイクを追放するパーティーリーダーだ。


 ローランドは私のことをロザリアと呼んでいた。ロザリア・セシリア・ダークウッド。ダークウッド王国の第三王女である。

 ローランドがお荷物追放で溺愛する妹だ。


 私はロザリアに転生したの? 私は自分の顔を触ってみる。以前と感触が違う気がする。

 日本人の鼻の高さではないような気がする。


 ん? だとするとまずくない? お荷物追放では原作主人公であるブレイクをパーティーリーダーであるローランドが追放したことにより、ダークウッド王国は滅びることになる。


 ブレイクはパーティーメンバーに黙って補助魔法をかけていただけでなく、国全体を守るほどの結界魔法の使い手だった。

 彼が結界魔法を展開し続けることでダークウッド王国には強力な魔物が侵入してこなくなり、平和な世の中になっていた。


 国全体を守る結界魔法を常時展開しているって、どれだけの魔力量だよ! って以前はツッコんでいたが、今はそんな悠長なことは言ってられない。

 ブレイクのおかげでダークウッド王国の国民は平和な暮らしを送っているのだ。影の英雄がいるということを知らずに。


 ダークウッド王国には冒険者ギルドや冒険者という存在はあるが、お使い程度のクエストしかなく、本格的なクエストがしたければ国外に出るしかなかった。


 ダークウッド王国は平和で冒険者パーティーを結成する必要性はないように思えるが、ローランドは冒険者パーティーを結成した。

 その理由は、国外にいる魔族を殲滅するためと、魔族の本拠地に攻め込んで滅ぼすためだ。


 その影の英雄であるブレイクを追放したのが、ローランドだ。ローランドはブレイクが補助魔法や結界魔法を使っていることを知らずにブレイクを追放してしまう。


 荷物持ちしか出来ない無能と蔑み、国外に追放してしまうのだ。

 そのせいでダークウッド王国に強力な魔物が入り込み、国が滅亡してしまうのである。


 国外追放されたブレイクは他国で難関クエストを成功させ、モテモテ、ウハウハなハーレム展開が待っている。

 追放パーティーメンバーは死んだり、行方不明になったり散々な目に合う。


 何しとんねん、ローランド! 明らかに戦犯だろ! 確かにブレイクが勝手に補助魔法や結界魔法を使っていたというのもある。

 でも、自分たちの能力が急に上がったらブレイクのおかげかわからないにしても、何らかの外的な要因が働いたと考えるのが普通だろ!


 その要因を突き止めろよ! それが仲間だとしたら絶対に繋ぎ留めろよ! 追放なんかしてる場合か!


 かくしてダークウッド王国は滅びましたとさ、めでたしめでたし、って全然めでたくないわ!

 シスコンムーブかましてる場合ちゃうぞ!

 そんな現実認めるわけにはいかない。シスコンクソ馬鹿王子のせいで国が滅びる未来なんて認められない。


 たった一人のおバカのせいで国民の生命が脅かされるなんて絶対に認められない! もちろん、その国民の一人には私も入っている。


 国民を守るためには私が生きのびなければ。そのためにブレイクを絶対に追放させない。彼の有能さを追放パーティーに認めさせるんだ。


 全ては破滅回避のために!

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