家出執行法とヒナンジョ。

@maruesu_

第1話 施行、そしてヒナンジョ。

時は西暦20☓☓年。家出少女たちが汚い大人たちの手によって死んでしまったり、犯罪の片棒を担がされることが急激に増加。政府は打開策として家出執行法を可決、施行。




その聞いたことも見たこともない名前をニュースで見ていた俺は首を傾げていた。


ニュースの内容を簡単に言えば、家出は一人ではさせず、家出執行人と呼ばれる政府の人間が家出関連のすべてのことを少女の代わりに行い、そのことに家族たちに納得して貰う術として謝礼という多額のお金を払う。


そのかわり、家出執行後のその先のことには一切関与させない、というものだった。




結局は家出少女を謝礼という汚い金で買っているかのようなものだった。


こんなことが許されていいんだろうか…。税金対策、マネーロンダリング。考えているだけで反吐が出そうだ。結局あんたら政府の人間だって汚い大人たちじゃないか…。




そう思うだけで何もできない自分…。傍観者ってやつだな。野次馬に似てるかもしれない。


「はぁ…。寝るか…。」時刻は朝の9時過ぎ。この時間からが俺の就寝時間。そう…ニートってやつ。高校卒業してすぐに定職についたが、なにやっても続かず今では親の脛をかじりまくっている。




社会不適合者、人間のクズ。親から毎日電話で早く働きなさい!って言われている人生。


いっそ人生を終わりにしたほうが世の中のためかもしれない…。


なんて思いながら寝ようとした時…。ピンポーン、ピンポーン、と呼び鈴が鳴った。




普段、来客なんて全く無いし、友達や彼女もいない。なのに、呼び鈴が鳴り止む気配がない。誰だろう…と考えながらドアを開けた。


そこには、見たことも会ったこともないスーツ姿の謎の男が立っていた。 


「あ、あの、どちら様ですか…?」謎の男は少し間を空けてこう言い放った。「家出少女たちを救いませんか?」と。


はぁ?と拍子抜けしたような声を出し、宗教かと思った俺は、「あ、間に合ってます…。」と話を終わらせ扉を閉めようとした。しかし、謎の男が扉に手をかけてきてさらにこう言い放った。




「ヒナンジョ。の管理人をやってくれないか?」と。ヒナンジョ。ってなんだ?と思った俺は謎の男の話を少し聞いてみることにした。


男の名はカンザキ。政府の人間で家出執行人をやっているらしい…。




そもそも政府の人間なんかがなぜ俺の家に?


ヒナンジョ。ってなんなんだ?疑問だらけで頭の整理がつかなかった。


一つ一つ聞いてみることにした。まず男が言うヒナンジョ。正式名称は避難女。


男の言ってることを要約すると避難女。は家出執行人によって保護?された家出人を表書きは更生させ、ゆくゆくは家族のもとに返す、という施設だという。


家出執行の際、家族たちにもその表書きは伝えられているという。




でも実際のところは家出人が更生しようがしまいが家族のところに返すことはないという。「なぜだ?」と俺は思わず聞いた。それに対し男は「詳しいことは言えないが家出は繰り返される、終わりはないから」と言い放った。




正直、意味がわからなかった。家出するやつの気持ちなんて、政府の人間の気持ちなんてわかりたくもなかった。


でも男は揺るがない信念のようなものをもって家出執行人をやっているようだった。




でも、そもそも仕事をしてもいないニートで親の脛かじりの俺なんかに管理人なんて務まるはずがない。俺は断ろうとした。だが、その気配を察知したのか俺の断ろうとした気持ちが大きく揺らぐようなことを言ってきたのだ。




「もし、管理人をやってくれるのであれば、それ以降の生活全般のことは保証する。なんなら抱えている借金もすべてこちら側でもつ」?!なぜ俺が借金を抱えていることを知っている?ブラフか?にしては堂々としすぎているような…。




借金。ギャンブルで作った借金は500万ほど。ニートで脛かじりの俺になんか払えるわけがない金額だった。それを管理人さえやればすべて払ってくれるなんて願ってもないチャンス。




借金のことを知られているということはある程度俺のことを調べているといっても過言ではないかもしれない。焦りのようなものから判断を誤っていたのかもしれないが、俺は管理人の話を受けることにした。




「管理人、やります。ですが、最後に一つだけ……。なぜ俺なんですか?」そう聞いた俺に男はニヤッと笑い、こう言い放った。


「それはあなたが1番わかっているのでは?」


俺が1番わかっている…?考えてもその時は答えがでなかった。


こうして避難女。の管理人を引き受けることにした俺は男の案内で施設を見学することになった。施設というからには老人ホームのようなものを想像していたのだが、ついた場所にあったのは…。




そこはまるで学校のような建物だった。男が言うには学校みたいな外観ではあるが、中は住みやすいように作り変えている、ということだった。




男の案内で施設の中へと入った俺は男からこの施設で管理人としてやってほしいことや規則のようなものを教えられた。簡単に言えば、明日から施設に入ってくる高校生くらいの少女たちの面倒をみること、規則を守らせるように指導すること、施設入所時に必ず面接のような聞き取り調査を行うこと。




細々とはしていたものの、大体こんな感じの仕事内容だった。1番肝心なことかもしれないが、給与について聞くと手取りでサラリーマンくらいだった。ただ今のところ管理人は俺しかいないため、施設内の管理人室に住んでほしい、と言われそこだけが苦だった。


まぁ生活全般は保証されているし、大丈夫だろう。




新入社員が必ず通る道のような研修は一切なかった。管理人として色々頑張ってほしい、あとは慣れろ、みたいな感じで。




こんな感じのようなことだった。施設案内や説明が終わると男は俺に施設内の鍵がたくさんついたキーケースのようなものを渡してきた。そして、「あとは頼んだ」の一言だけ残し、去っていった。




明日から家出少女たちとの新しい生活が始まる。ワクワクなのかドキドキなのかよくわからない感情で管理人室で眠ることにした。


このときの俺にはまさか初日からあんな大問題が起ころうとしているなんて知る由もなかった…。



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