第57話 旅の宿 その2

 やがて日が傾いて行き、空は赤く染められて行った。


「次の街で今日の宿を取る事にしよう。ロナルド、馬車を普通に走らせてくれ」


 アラスター王太子の指示に従い、ロナルドは風の魔石を片付けた。


 ガタガタと走る馬車の前方に次の街並みが見えてくる。


 ここまででどのくらい進んだのかわからない私に、アラスター王太子が教えてくれる。


「これで大体三分の一進んできました。あと二泊すればモーリーに着く予定です」


 普通に馬車を走らせると一週間はかかるらしいから、半分の日程で済むようだ。


 宿泊を決めた街は比較的大きな街はだった。


 もっともそれなりに大きな街でないと、貴族相手のホテルやレストランなんて設備は取れないだろう。


 馬車は当然のごとく、大きな構えのホテルの前で停まった。


 御者によって開けられた扉からウォーレンが先に降り立ち、エイダとロナルドが続いた。


 アラスター王太子がその後に降りると私に手を差し出してくれる。


「ありがとうございます」 


 アラスター王太子に手を引かれて馬車を降り、ホテルの中へと入って行った。


 ホテルの中は落ち着いた雰囲気で旅の疲れを癒すにはもってこいの場所だった。


「いらっしゃいませ、アラスター様。本日は当ホテルをご利用いただきありがとうございます」


 ホテルの支配人にで迎えられ、すぐに部屋へと案内される。


 私とエイダで一部屋、後の三人で一部屋に割り当てる。


「男三人で一部屋か。むさ苦しいが仕方がない」


 アラスター王太子が嘆いているが、流石に一人一部屋という訳にはいかないのは分かりきった話だ。


 一度部屋に入ってから、近くのレストランで食事をする事にした。


 エイダと共に案内された部屋は、少し可愛らしい雰囲気が漂っている。


「キャサリン様、せっかくですから着替えて行きましょう」 


 何もそこまで、と思っただけれど、結局エイダに押し切られるように着替えさせられた。


 着替え終わった頃に扉がノックされてアラスター王太子が顔を見せる。


「準備はできた? 食事に出かけよう」


 見ればアラスター王太子も先程とは服装が違っている。


 しかも私の服に似せたようなデザインで、ともすればペアルックと言っても過言ではない。


 あらかじめ、エイダとウォーレンで取り決めていたのだろう。


 昼食をとった時は『またこの後も馬車に揺られるのか』と、げんなりした気分になったが、今度は部屋で休めるので気が楽だ。


 そう考えているのは他の人も同じようで、皆比較的明るい笑顔で食事をすませている。


「キャサリン嬢、大丈夫ですか? 疲れていませんか?」


 アラスター王太子に体調を問われ、ニコリと微笑み返す。


「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 私はただ馬車に揺られているだけだもの。


 私よりも馬を操る御者の体調が心配だ。


 風の魔石のおかげで早く着くとは行っても、停まった先々で馬の世話もしなくては鳴らないだから大変さは桁上りだ。


 食事を終えて部屋に戻ると、私はソファーにもたれかかった。


 本当はベッドにダイブしたいんだけれど、エイダに目くじらをたてられそうだ。


 お風呂を終えて寝巻きに着替えると、ようやくベッドに横になれた。


(馬車に乗っているだけとはいえ、結構疲れるわね。この状態があと二日は続くのね…) 


 今までこんな長旅をした事がないので、これほど疲れるものだとは思っていなかった。


(私の呪いを解くためだから我慢しなくちゃ)


 ベッドに横になった私は比較的早く眠りについた。

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