第58話 サイモンの家探し
そんな旅を続けて四日目の朝を迎えた。
この街を出発すると、次はモーリーの街に着くという。
(ようやくここまで来たのね)
前世のように飛行機なり、新幹線なり、自動車があれば、出発したその日には着くような距離なのに…。
それでも風の魔石のおかげで半分に短縮出来たのだから、喜ぶべきだろう。
「キャサリン嬢、そろそろ出発しよう」
アラスター王太子に手を取られ、馬車へと乗り込む。
ゆっくりとした速度で街を抜けると、モーリーまで風の魔石で速度を上げた。
小一時間もすると前方にモーリーの街の門が見えてきた。
貴族用の門を通って街に入る際、ウォーレンが騎士に問いかけた。
「この街にサイモンという男性が住んでいませんか?」
「は? サイモン? …いや、ちょっとわかりません」
「…そうですか…」
手紙には住所は書かれていなかった。
これで宰相に『立ち寄ってくれ』とはよく言えたものだ。
「さて、どうしますか?」
とりあえず街の中に入って行く馬車の中でウォーレンに問われてアラスター王太子は考え込んでいる。
街行く人一人一人を捕まえて、ウォーレンの行方を尋ねるのは現実的ではない。
「こんな片田舎に引っ越したと言う事はあまり人付き合いはしていないと思うんだ。だから街の中心ではなく、あまり家が少ない所に住んでいると思う。それに手紙には『イザベルの好きだった花を植えて』とあるから、庭に花を植えている家を探せばいいんじゃないか?」
確かに手紙にはそう書いてあったけれど、前王妃様の好きだった花って何かしら?
「エイダ、母上の好きだった花って何だ? 母上が庭に色んな花を植えさせていたのは覚えているが、どれが一番好きだったのかはわからないんだ」
アラスター王太子が少し悔しそうな顔でエイダに尋ねている。
男の子なんて花にはあまり興味を示さない子が多いから、アラスター王太子が知らないのも無理はないと思うわ。
「イザベル様が一番お好きだったのはかすみ草です。ふわふわとした小さな可愛らしい花がお好きでした」
エイダに言われて私は王宮の庭を思い返した。
確かに色々な色のかすみ草が植えられていたけれど、他の花もそれなりに植えられていたから、かすみ草が一番好きだとは思わなかった。
「かすみ草か。今でも咲いている花なのか?」
王宮には普通に咲いていたけれど、花の咲く時期って限られているのかしら?
「王宮の庭は一年中花が咲くように魔術師達が調節していますからね。サイモンもおそらく一年中咲くようにしていると思いますよ」
「そうか。ならばこの街の郊外で一年中かすみ草が咲いている家を探せばいいのだな」
あっさり言うけれど、本当にそんな条件で見つかるのかしら?
闇雲に探しても時間の無駄なので、とりあえずウォーレンは冒険者ギルドに情報収集に行った。
しばらく場所の中で待機していると、ウォーレンが息せき切って戻ってきた。
「お待たせいたしました。冒険者ギルドに問い合わせた所、一件だけ該当する家があるそうです」
ウォーレンの指示通りに馬車が進んでいくと、王宮の庭のように色とりどりのかすみ草が植えられた家が見えてきた。
門は固く閉ざされていて、誰も寄せ付けないような雰囲気が漂っている。
「とりあえず行ってみよう」
五人で馬車を降り、ウォーレンが門に手をかけた。
キィ、という音を立てて門が開く。
かすみ草が植えられている中を家の玄関に向かって足を進める。
扉の横にある呼び鈴をウォーレンが押すと「誰だ?」という声が家の中から聞こえた。
こちらが返事をするより先に扉が開いて、白い顎鬚を蓄えた老人が顔を出した。
しかし、その老人はアラスター王太子の顔を見るなりピシャリと鼻先で扉を閉めた。
カチャリと鍵のかかる音が聞こえる。
どうやら前途多難のようだ。
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