第15話 げに恐ろしきは女なり
ブリジットはパクストン公爵家の長女に生まれた。
パクストン公爵は国王と同級生で財務大臣を務めている。
国王と同時期に結婚したのも、国王に生まれる子供に合わせて後継者を作るためだった。
しかし、パクストン公爵にブリジットが生まれたのに国王にはなかなか子供が出来なかった。
最初の一~二年は周りも見守っていたが、三年を過ぎた辺りから少々雲行きが怪しくなった。
『第二夫人を娶られては』という声が上がり始めたが、国王は頑として聞き入れなかった。
国王は王妃と愛し合って結ばれたため、他の女性を受け入れる事が出来なかったのだ。
パクストン公爵にも『陛下に第二夫人を娶るように説得しろ』と言われるようになる。
そこでパクストン公爵は国王に取引を持ちかけた。
「周りの声は私が何とか食い止めます。その代わり、将来私のお願いを聞いてください」
国王はパクストン公爵の申し出を聞き入れる事を渋ったが、結局は受け入れざるを得なかった。
そしてブリジットが十二歳を迎える頃、ようやくアラスター王太子が生まれた。
だが、無理な出産がたたって王妃は体調を崩し、アラスター王太子が五歳になる頃にこの世を去った。
王妃が亡くなって一年後、パクストン公爵は国王にブリジットを娶るようにと詰め寄った。
最初は渋っていた国王だったが、『パクストン公爵の願いを聞く』と約束した以上、断る事が出来なかった。
ブリジットに王妃教育を施した後、ようやく国王はブリジットを王妃として迎えたのだった。
ブリジットが国王に嫁いで、パクストン公爵はようやく自分の願いが叶ってホッとしていた。
本来ならば、アラスター王太子と結婚させたかったのだが、十二歳も歳が離れていてはどうにもならなかった。
王太子の方が年上ならば何の問題もないが、流石に女性が年上なのはいただけない。
パクストン公爵はブリジットが国王に嫁いだ夜、妻と共に祝杯を上げていた。
「我が家から王妃を輩出出来て良かったな。息子達もこれからアラスター王太子の側近となれるように頑張ってもらおう。いがとなればブリジットにゴリ押しさせても良いしな」
上機嫌に笑うパクストン公爵に夫人は薄く笑みを浮かべる。
(本来ならば私が王妃の座に座るはずだったのに…。あの女から奪ってやっただけでも良しとしなくてはね)
パクストン公爵は知らなかったが、前王妃がなかなか妊娠しなかったのには理由があった。
パクストン公爵夫人も以前、王妃候補に挙がっていたが、国王が恋中であった王妃との婚姻を望んだため、ご破算になったのだ。
(私の方が王妃に相応しいのに…)
パクストン公爵夫人は王妃の侍女に『健康に良いお茶』と称して、王妃に定期的に堕胎薬を飲ませていた。
なかなか妊娠しない王妃に貴族からの批判が集まるのを影でほくそ笑んでいた。
(いい気味だわ。さっさと陛下に見限られればいいのよ)
十年近く王妃に堕胎薬を飲ませていたが、製造が禁止されて手に入らなくなり、飲ませるのを止めた。
それでもすぐには妊娠せずに、二年後にようやくアラスター王太子が生まれたのだった。
王妃は産後の肥立ちが悪く、臥せっているという話だったが、もしかしたら長期間堕胎薬を飲ませられていた弊害が出たのかもしれない。
王妃が亡くなってパクストン公爵夫人はようやく溜飲を下げた。
だが、まさか夫のパクストン公爵がブリジットを国王に嫁がせるとは思いもよらなかった。
自分の娘とはいえ、自分以外の女性が王妃になるなんて無性に腹立たしかったが、認めないわけにはいかなかった。
(ブリジットは私と顔が似ているから、ともすれば私が陛下の隣にいるように見えるわね)
(そのうち、夜会でブリジットに陛下との密会をお膳立てしてもらってもいいわよね。夫だって他にも愛人が居るんだし…)
あれこれと考えを巡らせながら、パクストン公爵夫人はグラスのお酒を飲み干した。
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