第13話 どこでも〇ア

 翌朝、目を開けるとすぐに自分の手を確認した。


 猫の手ではなく見慣れた自分の指にホッと安堵の息を吐く。


 ムクリと身体を起こすと、部屋の隅に控えていたエイダがこちらに近寄ってくる。


「おはようございます、キャサリン様。お召し替えをお手伝いいたします」


 いつの間に準備したのか、エイダの手には真新しいワンピースを携えている。


 着替えを終えて部屋で朝食を摂った後、部屋の外からウォーレンが声をかけてきた。


「キャサリン様、おはようございます。準備が整いましたら出発いたしますが、よろしいですか?」


 コクリと頷くとエイダが扉越しにウォーレンに伝えてくれた。


 出発の準備を終えて廊下に出るとアラスター王太子とウォーレンがそこで待っていた。


「キャサリン嬢、おはよう。早速出発しよう」


 アラスター王太子にエスコートされ、馬車に乗り込むと、昨日と同じ席順で腰を下ろす。


 街の外に出た途端、昨日と同じように馬車がスピードを上げる。


 この速さだと国境までどのくらいかかるのかしら?


 国境を抜けたとしてもそこからコールリッジ王国の王宮まで、また数日を費やすんでしょうね。


 けれど私の考えとは裏腹に、お昼休憩を挟んでしばらく経つと、何故か国境門に着いていた。


(本当にここが国境門なの? 何処か他の街に入るんじゃないの?)


 そう思いながら門をくぐったが、確かにエヴァンズ王国の騎士とコールリッジ王国の騎士が、それぞれの国側に立っていた。


 コールリッジ王国の馬車に乗っているせいか、特に身元を検められる事もなく通された。


 エヴァンズ王国の騎士には何も言われなかったが、流石にコールリッジ王国の騎士には無言で通される事はなかった。


「お帰りなさいませ、アラスター様。ところでそちらの女性はどなたですか?」


 コールリッジ王国の騎士の一人が、馬車の中を覗き込んで私を目にしてアラスター王太子に尋ねている。


「少々訳ありでね。彼女がいた事は口外しないように」


「かしこまりました」 


(そんなに簡単に通しちゃって大丈夫なの?) 


 そう思ったけれど、こんなところで外に放り出されても困るので黙っておいた。


 どうせ行く所なんてないんだから、ここは黙って通してもらうべきよね。


 国境門を抜けると、またすぐにスピードをあげるのかと思っていたが、そのまま普通に進んで行く。


 コールリッジ王国の王宮もほぼ国の中心地にあると聞いているけれど、どうしてスピードをあげないのかしら?


 その内に馬車は白い大きな門の前で止まった。


(今、国境門を過ぎたばかりなのに、どうしてまた門があるの? 誰かのお屋敷に行くのかしら?) 


 そんな疑問を頭に浮かべていると、アラスター王太子が笑顔で口を開いた。


「キャサリン嬢、ちょっと面白い物をお目にかけよう」


 そう言うと馬車の扉を開けて下に降り立った。


「さあ、こちらへ」


 アラスター王太子に言われるまま彼の手を取って馬車から降りた。


 白い門の全体が見えたが、門と言うよりは扉と言ったほうがいい物だった。


 二本の柱に大きな扉が二枚付いているだけの物だ。


 普通の門ならば、柱から柵が続いているはずなのに何も無い。


 ただ、空き地に柱と門だけが立っている状態だ。


(何これ?)


 不思議そうに扉を見つめる私の手を取って、アラスター王太子はその門の柱の方へと連れて行く。


 その柱から向こう側を覗くと、そこには何も無い空間が広がっている。


(扉だけが立っているって、まるで『どこでも○ア』みたいだわ) 


「アラスター王太子、これは一体何なのですか?」 


 するとアラスター王太子はいたずらっぽく笑うとまた馬車の方へと戻って行く。


「まあ、見ててご覧」


 アラスター王太子は扉の取っ手を掴むと「王宮へ」と呟いた。


 するとアラスター王太子の握った取っ手がフラッシュのようにピカッと光った。


 アラスター王太子が手を離すと扉が音もなく開いていく。


 すると、何も無い空き地のはずが、目の前に王宮が現れた。


(やっぱり『どこでも○ア』だわ)


「これは王宮と国境門を繫ぐ扉なんだ。万が一、他国が攻めてきた時、すぐに駆けつけられるようにね。もっともこの扉を開けられるのは、この扉に魔力を登録した者だけだけどね」 


 私とアラスター王太子は再び馬車に乗り込むと、そのままその扉をくぐって行った。

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