第12話 旅の宿
カクッと首が揺れたのを感じてハッと顔を上げた所で、居眠りをしていた事に気付いた。
向かいに座るアラスター王太子を見ると、彼も腕を組んで頭を俯かせている。
ウォーレンだけは起きていたが、私の隣に座るエイダもコクリと舟を漕いでいる。
お腹が満たされた事で少しばかり眠ってしまったらしい。
エイダも目を覚ましたようで、居住まいを正している。
その内にアラスター王太子も目を覚ますと「うーん」と伸びをした。
「おはようって言っていいのかな? キャサリン嬢の寝顔が可愛くてずっと見ていたかったんだけれど、エイダに『目を瞑れ』と言われて瞑ったら、そのまま寝ちゃったよ」
アラスター王太子に言われて私は真っ青になる。
人前で無防備な寝顔を晒してしまうなんて、淑女としてあるまじき行為だわ。
「申し訳ございません。ご不快な物をお見せしてしまいました」
「気にしなくて良いよ。ウォーレンにも目を瞑れと言ったんだけれど、『護衛としてそれは出来ません』と言うから『外を向いておけ』と言ったんだけれど、ちゃんと外を向いていたよね?」
最後の方はウォーレンに問いかけていたが、彼は外を向いたままこちらを見ようとしない。
どのくらい寝ていたのかわからないけれど、ウォーレンはずっと外を向いたままだったのかしら?
「ウォーレン、キャサリン様が目を覚まされたので、こちらを向いても大丈夫ですよ」
「わかりました、母上」
え? 母上?
ウォーレンとエイダって母子なの?
言われてみれば、どことなく似ているような気がするわ。
つい、二人を見比べていると、アラスター王太子が笑いながら教えてくれた。
「エイダは元々母上の侍女でね。母上の結婚・出産に合わせてウォーレンを産んでから僕の乳母になったんだ」
コールリッジ王国の王妃様の侍女だったと言う事は、ある程度の身分の貴族だという事よね。
私なんかのお世話をしてもらって大丈夫なのかしら?
「王宮に戻りましたらすぐにキャサリン様の侍女を探さなければなりませんね。お二人のお子様の乳母も出来るような方が見つかるかしら?」
いやいや、待って!
まだアラスター王太子のプロポーズを受け入れるなんて返事をしていませんよ。
「エイダ、それは流石に気が早すぎるよ。まずはキャサリン嬢の呪いを解く方が先だからね」
「何をおっしゃいますか。乳母になる方には先に子供を産んでもらわなければなりませんからね。一日でも早いほうがよろしいに決まってます」
そりゃ、乳母を任せるならば独身女性よりも子供がいる人の方が良いに決まっている。
今はまだ部外者の私が口を挟んでいいものかわからないので、黙って二人の話を聞くに留めた。
その内に日が傾いてきて、空が赤く染まりだした。
「次の街で宿を取ろう。先触れを送ってくれ」
アラスター王太子の合図で馬に乗っていた騎士が一人、スピードを上げて走っていった。
この馬車もかなりのスピードなのに、それよりも速く走るなんて、一体どんな馬なんだろう?
空の色が徐々に暗く塗り替わる頃、馬車がスピードを緩めていった。
先触れがあったおかげで、街に入る門もスムーズに通された。
先触れを告げに行った騎士と合流して、今夜泊まるホテルへと向かう。
高位貴族が使うホテルにアラスター王太子とウォーレン、私とエイダ、とそれぞれ部屋に案内される。
部屋に入るなり、ベッドに倒れ込みたかったが、エイダがいるので我慢した。
部屋で食事とお風呂を済ませて、エイダが使用人用の部屋に下がるとようやく一息つけた。
ベッドにバタンと倒れ込み大の字になる。
今日一日の出来事が目まぐるしく頭の中を駆け回っている。
朝起きたら猫になっていて、公爵家を追い出され、籍も抜かれ、アラスター王太子に拾われて、プロポーズされ、コールリッジ王国に向かっている。
明日、目が覚めたら全て夢だったらどんなにいいだろう。
明日の朝は人間のまま迎えたいわね。
私は布団に潜り込むとゆっくりと目を閉じた。
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