第9話 ドッペルゲンガー2
ドッペルゲンガー1の続きです。
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ある日の事です。
私が他社で打合せをしている最中でした。
携帯電話(当時はスマホではない)に妻からの着信です。先方に断って電話に出ると
「あれ・・・。また出かけたの?」
という妙な問いかけ。
「いや。今日は朝から打合せって知らせたよね。」
「え・・・。うん。分った。」
なぜか煮え切らない返事に疑問を感じながら打合せを続けました。
その後数時間して、自宅に帰って電話の件を妻に聞いてみました。
「うん。実はね・・・」
そこからの妻の話した内容はこうです。
夕方近く、テレビを見ながら炬燵で転寝をしていたそうです。
すると「ガチャッ、ガラガラ・・・」と鍵を開けてドアを開く音が聞こえたそうです。そのままスタスタと足音が妻の頭近くまで来ました。
「良く寝てるねえ。」
その声は私の声で、仕事から帰って来たと思ったそうです。
なので眠い目をこすりながら「おかえり~」と返事をして二階に上がっていく私の背中を見たそうです。
その後コーヒーを入れて二階に上がって行ったら、二階には誰も居ません。
そこでどういう事か判らず、私に電話したそうです。
私は「遂にここまで来たか」といった思いでした。
今住んで居る家は前にドッペルゲンガーが出現した実家ではありません。
妻には事前にドッペルゲンガーの事は話してありましたので「凄い不思議」と言った感想でそれ程怖がっている感じでもありませんでした。
この時、私も私自身が出会った訳でもないので、慣れがあったのだと思います。
只、家が変わっても出るって事はこの家の場所や家族を知っているってことなんだな、だんだんと俺に近づいている気がするな、と漠然と思っただけでした。
・・・・・
それから更に数年後。
子供が二人増えて四人家族になっています。
その日はいつもの様に客先での打合せ。
夜、自宅に戻ると灯が点いています。
いつもの様に玄関のカギを開けて入ります。
うん・・・?
何かが違うのです。
物凄く、静か・・・。
リビングやキッチンの電気も、ドアのすりガラス越しに点いているのが解ります。
小さい子供が二人も居ると家の中は賑やかです。テレビでは子供向けの番組やDVDを流していたり、玩具のぶつかる音や走り回る音・・・。
それらが一切聞こえません。無音なのです。
妻の車は駐車場に有りました。ですので家に居る筈です。
靴を脱いでそのままリビングのドアを開けます。
誰も居ません。そして何も聞こえません。
隣りのキッチンへ向かいます。
そしてキッチンのドアを開けた瞬間・・・
急に風が吹いた様に、大音量で様々な音が私の耳に飛び込んできました。
テレビの音、子供の叫ぶ声。
私は茫然と立ち尽くし、そしてドアを開けた私を三人が見ます。
「パパ、仕事?」
「また出かけるの?」
また?
「ええ? 今帰って来たのにまた行くんだ?」
今帰って来た?
私は皆に聞いてみました。すると
私は数分前に帰宅し、ここで「ただいま」とか話しながら二階に上がって行った。
その時の服装は今着ているスーツそのまま。
そしてまたスーツだからどこかへ行くのかと思ったそうだ。
私は何やら寒気がしました。
皆の話から、先に帰った私(ドッペルゲンガー)には違和感は無かった様です。子供さえも疑わない程に。とても普通・・・。
そして私はキッチンに来るまでに何も聞こえなかった事が気になりました。
リビングやキッチンの壁やドアにそれ程の遮音性はありません。
ドアを閉めても隣の物音は聞こえます。
私が寒気を覚えたのは
もしかしたら、
ドッペルゲンガーと私が、入れ替わろうとしているのではないか
そう思ったからです。
もし、あの時、キッチンのドアを開けなかったら、開けても誰も居なかったら、私は別の空間に取り残されていたかも知れない・・・。
あの静寂な世界は、この世界とは別次元のそっくりな空間で、そこには家族も誰も居ない空間なのかも知れない・・・と、そう思ったのです。
あれからまた何年も過ぎました。
あれ以来ドッペルゲンガーは現れません。
ドッペルゲンガーは諦めたのでしょうか?
それとも、既に私は入れ替わってしまったのでしょうか?
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