第7話 ドッペルゲンガー 1

これは良くあるドッペルゲンガーの話です。

ただし、私は見た事はありません。なぜなら現れるのは私ですから。


初めて出たのは・・・

こう書くと分かるように一度ではありません。


初めて出たのは二十歳くらいの時でしょうか。

時刻は夜の七時ごろ。お化けが出るにしては早い時間です。


私は友達と遊んでから自宅に帰りました。

いつもの様に自宅の庭に車を止めて玄関に入ります。

玄関を開けて靴を脱いでリビングへ。


すると私を見た両親が驚愕して後ずさりしました。

「うわ!」「ひい!」

「え? どうしたの?」

「・・・お、お、おま、い、いま帰ったのか?」

「うん。今帰ったよ。」

「ちが、違う! いま、今、お前が帰って来たんだ!」

「はあ?」


私には何の事かさっぱり分かりません。


両親の話では、ほんの一分前。私が帰って来たというのです。

それも同じように玄関から入って来て、そしてリビングの前を通り過ぎます。

リビングのドアは開いていたので姿はハッキリ見えたそうです。

そのまま二階に上がろうとする私に母が「晩御飯どうするの?」と聞くと「食べるよ」と答えて上がって行ったそうです。


そして、その直後に私が帰って来たと・・・。


「おい。お前、まだ二階に居るぞ。見て来い。」


父親が真剣な表情で言います。

私は半分冗談だと思っていましたので「分った」と返事をして二階への階段を上がりました。


この辺から妙に体が緊張します。


私の部屋のドアは閉まっています。

いつもは何も気にせず開けるドアですが、この時は物凄い緊張で開ける事が出来ません。


この扉のすぐ向こうに自分が居る?


もし開けて本当に居たらどうする?


それとも別の誰か?


ドアの前で緊張する事、多分、ほんの一分も経っていないと思います。

冷や汗ばかりが妙に出ます。

でもドアを開けなければ何も分かりません。

私は意を決してドアに手を掛けました。そして


「うわああああ!」


ガチャ!

バン!


絶叫と同時にドアを思いっきり開きました。

そして直ぐに電気を灯し室内を見ます。


・・・何も居ません。


押し入れも見ましたが何も居ません。


何か気配が無いかとそのまま数十秒くらい、じっと動かずにそこに留まりました。


・・・・・


数年後。


この頃は既に私は社会人です。

その日は新規のお客様との「初めての」打ち合わせです。そう。私にとっては・・・。


会議室に通されて先方の方達と名刺交換を行っている時でした。

私を見た先方の担当者数人が


「あれ!? やっぱり昨日あったよね。なんだよ。昨日言ってくれれば良かったのに!」


私には何のことかさっぱりわかりません。


同僚も「なに? 昨日会ったの?」と聞いてきます。


その方の話では、私は昨日、居酒屋でその担当者達に話し掛けたらしく、その時に自己紹介された名前が私の名前だったそうです。そして服装も顔も体つきも全く同じ。


前日、私は居酒屋には行っていません。


その日の打合せはお互いに妙な雰囲気で行われましたが、無事に終了する事が出来ました。

打合せでも、あれは誰だったのだろうかと暫く噂になりました。


実は別の会社でも良く似た事が有りました。


その時も「新規」のお客様です。

ただ、違うのは初めから「指名」だった事。


この日もその会社に赴き、挨拶をしている時でした。


「始めまして。私は・・・」

「ははは。何? 初めましてって。何回も会ってるじゃん。もしかして初めて会社で会ったから初めましてなの?」

「・・・ははは。」


間違いなく、私は初対面です。なにせその会社に行くのも初めてですから。

ですが先方の方は何度もあっている様子。ああ、このパターンかと話を合わせて乗り切る事が出来ました。


・・・・・


社内では「勝手に営業してくれる人が居る」と噂されてました。


でも営業だけではなかったらどうなんでしょう・・・?

もっと身近に出てたら・・・?

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