第6話 とある施設での話
病院や医療関係の施設では日常茶飯事に人が死にますよね。
この話は私が当時勤めていた施設での話です。
その施設は認知症の方向けで、勤務は三交代制。勤務交代時には引き継ぎと申し送りを行います。
これらは以降の勤務者が見られる様にノートに記載していました。
施設は基本日帰りですが泊まられる利用者の方も居ますので、当然夜勤もあります。
ですが宿泊者は少人数でしたので夜勤者は一人だけです。
夜勤者は掃除と昼間に使うタオルや利用者の衣類の洗濯をこなしながら、定期的に施設内を巡回します。巡回は基本一時間に一回。
徘徊者が居ないか、体調不全になっている者が居ないかを利用者を起こさない様に注意しながら巡回を進めます。
途中、尿意を催してブザーを鳴らされる利用者のトイレ介助をしながら朝食の時刻まで夜勤者は勤務を続けます。
そんな中、深夜に呼吸が止まっているおばあちゃんを発見。
すぐさま救急車を呼び、本部に連絡。到着するまで心臓マッサージ。
残念ながらお亡くなりになりました。
不思議な事はここから起こります。
そのおばあちゃんは体格が良く女性としては大柄な方です。ですが自分で歩く事が出来た方でした。利用者は認知症の方ばかりですが軽度の方が多かったので他の利用者を覚えている方も多くいました。
・・・・・
次の日の夜。
何処かの部屋からブザーが鳴らされます。
夜勤者は直ぐにその部屋へと向かいました。各部屋のドアは中の様子が外から分かるように少し開けてあります。
「○○さん。どうかされましたか?」
「今、誰かが部屋を覗いておった!」
「え? 誰がです?」
「あの大きい婆さんだ!」
前の日の夜に亡くなった方の事は利用者には知らせていません。どの方が亡くなっても利用者の方にそれを知らせる事は無いのです。
「あ・・・そうですか。注意しておきますね。」
そう言って利用者の方を宥めて寝てもらいます。
そして別の部屋からもブザーが・・・。
この日だけで三件。同様の訴えが有りました。
その日から数日間。申し送りのノートには同様の訴えがあった事が記録されます。
もっともそれが亡くなったおばあちゃんであったかどうかは解りません。私は見ていないので・・・。
*****
短いのでもう一遍
同じ施設で深夜にトイレ掃除をしていた時です。
トイレ掃除は床は勿論、便器も綺麗に拭き掃除します。
その時も便座を雑巾で拭いていました。
タタタタタ・・・
誰かが廊下を走っています。
この施設の利用者で走れる方はほとんど居ません。大抵は車椅子。又は歩行器を使います。
この足音は××さんかな!?
歩幅が小さく忙しない足音。元気だけど認知症のおばあちゃん。
私はトイレの入り口からヒョイっと廊下に顔を出して見てみました。が、誰もいません。
夜勤中は居室も食堂も全て電気を消しています。
それでも非常口のランプや足元灯で見渡す事ができます。
「おかしいな? どこかの部屋に入ったかな。」
独り言を言いながらとりあえず軽く巡回します。ごく稀に徘徊する方もいらっしゃいますので。
施設内の用具室、お風呂場などの危険な場所は施錠されています。
「居ないね。」
勘違いかと再びトイレ掃除に戻りました。
すると再び
タタタタ・・・
今度は直ぐにトイレから顔を出しました。
すると足元灯に照らされて走る足が見えます。
「やっぱり居た。」
私は直ぐにトイレを出て追いかけます・・・
「あれ?」
が、トイレを出た時には誰も居ません。
仕方なく音源と思われる××さんの居室に見に行きます。
しかし、誰もいません。
ここから全ての居室を見て回りました。しかし見つかりません。
これはまずい事になった!
脱走!? 行方不明!?
警察案件じゃん!
もう一度全ての居室を確認しました。
窓やドアは全て施錠してあります。
でも、ここでふと思ったのです。
「あれ? 今日って××さん泊りだったっけ?」
名簿を確認します。
すると、今日の宿泊名簿に名前がありません。
「じゃあ・・・誰?」
名簿上の宿泊者は歩行困難な方ばかり・・・。
申し送りには足音の事は書きませんでした。
翌日、電話にて××さんは別の施設に移る事が決まったそうです。
理由は解りません。
ちなみに、この施設は現在閉鎖されています。
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この様な施設に勤めていると何かがピッタリハマる様な感覚を覚える事があります。
例えばこれも実際にあった事で、
「何々さんが何月何日に入所予定です。」
では受け入れ準備しましょう。居室空けなきゃ。
「本日〇時頃、○○病院からそちらに搬送します。」
はい。承知しました。
まもなく来るらしいよ。
・・・しかし、いつまでたっても来ないね。問い合わせてみよう。
「本日〇時、お亡くなりになりました。」
「・・・」
出発直前まではお元気だったそうです。
何が遇ったんでしょうかね。
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