第2話 何か居る

私の実家にはかなり立派な仏壇があります。

祖父によるとそれは明治期に購入した物という事でした。

子供の頃はお盆の時期になると仏壇にお供えをし灯籠を灯したりして迎えたものです。夜の墓参りには提灯に蝋燭をともして墓地に向かい、そのお墓の前で花火をするのが毎年の行事でした。


その祖父も祖母も数年前に無くなって、今ではお盆に特別な事は何もしていません。


私も学生になり暇な夏休みは友人と夜更かしをして過ごす様になりました。


・・・・・


八月十三日


深夜までゲームをしていた私は風呂に入ろうとリビングを出ます。


我が家は元は農家ですので少し作りが大きいです。

仏間は十畳ほどあり、仏間の正面にはドアがあってキッチンへと向かう廊下になっています。

また、リビングはキッチンの隣にあり、お風呂場はキッチンの反対側にありました。リビングの前には広い廊下がお風呂場まで繋がっています。つまり、家の中にT字型の廊下の交差点が有る状態です。


私は風呂に入る為、リビングを出て廊下を風呂場に向かいます。勝手知ったる我が家ですので灯は点けていませんでした。

そして交差点に差し掛かった時でした。


ドン!


「え!?」

何かが肩にぶつかりました。

私は直ぐに廊下の灯を点けます。

その廊下は広く、幅は二メートル程あります。中央付近を歩いていたので壁に当たる事はないハズです。

そして廊下には何も置いていません。肩に当たる様な出っ張りもありません。


その時は不思議に思いましたが、特に何をするでもなく風呂に入りました。


・・・・・


八月十四日


この日も私は夜遅くまで友人と酒を飲み、帰宅したのは深夜でした。

リビングで一息ついた後、風呂に入ろうと廊下を歩いて行きます。そして昨日と同じ交差点。


ドカッ!

「うわあ!」

正面から誰かに肩を強く押されました。その強さは体がよろける程です。

慌てて灯を点けますが、昨日と同じで何もありません。当然、誰も居ません。


なんだか少し怖くなりましたが、原因が解らないので特に何もしませんでした。


・・・・・


八月十五日


この日は一日自宅で過ごしました。

深夜までテレビを見て過ごし、さて風呂に入るかとリビングを出ます。


昨日の事もあるので少し警戒して歩きます。

が、それは突然でした。


ドカン!!

私は前から強く押された様な、もしかすると背後から引き倒されたのか・・・。

その場に転倒しました。


直ぐに起き上がって灯を点けますが、当然何もありません。

私は怖くなって大声を上げます。


「おい! 何か居るぞ!!」


私の声で両親が起きて来ました。両親は仏間の隣で寝ています。


「何を騒いでおるん!?」

「ここで、何かに突き飛ばされた!」

「はあ?」


当然何も居ません。廊下の灯と、仏間へと続く暗闇。


「・・・寝ぼけとる?」

「違うよ!」

「・・・それならお盆だから爺さんが帰って来たのかも知れんな。」

「あんた、明日墓参りに行っといで。」

「・・・」


ああ。そうか。お盆だったな。


翌日の昼間。私は墓参りに行きました。

特に何かを持っていったりもしません。ただ行っただけ。

でも、それでも良かったのか。

それ以来、つき飛ばされるような事は起こって居ません。

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