身近な実話短編集
@kakogawa_1900
第1話 呼ぶ声
高校の部活帰りの事です。
高校時代は部活にハマっていましたのでいつも校門が閉まるまで活動していました。
「たまには早く帰れ。」との顧問の先生によりこの日は久しぶりに太陽が出ている時間帯に学校を出ました。
私の通う学校と自宅までは五キロ程の距離があり、この為通学は自転車です。
夕方、いつもの道を自転車で走っていると
「おい」
と私を呼び止める声がしました。それは唐突で、大人の男の声だったと思います。その声は叫ぶでもなく、呟くでもなく、普通に道で出会ったから声を掛けたと言った感じでした。
ですが、聞こえた声の方角が違います。
その声は交差点の信号機の上から聞こえたのです。
私は自転車から声の方を振り向いて見上げますが、当然信号機の上には人は居ません。
その時は気のせいかと私はそのまま通り過ぎました。
後にして思えば、これが始まりでした。
・・・・・
別の日。
この日も部活で遅くなり帰る頃には周囲は真っ暗でした。
私の自宅はかなりの田舎で、主要道から外れると田畑が多くなり街灯もまばらになります。
隣りの集落を抜けると周りは全て田んぼです。
自宅までは後五百メートル位でしょうか。
この辺は田園地帯で街灯がありません。
細い道を自転車のか細いライトだけが照らします。
そんな時です。
「お~い・・・」
「(かなり遠くで誰かが呼んでいるな)」
それは叫ぶような音質でしたが距離が有るので小さく聞こえてきます。
こんな暗闇の田んぼ道でお互いが判るんだろうか?
などと大して気にせず自転車を走らせます。すると・・・。
「おーい!」
「(へ!? 急に近くなった!?)」
そうです。先ほどの声が左側数百メートルは有ろうかという距離感だったのに、急に五十メートル位先に近くなったのです。それも数秒の間に。
私はドキッとして思わず自転車を止めました。正面は真っ暗闇です。でも二回目の声はこの道のすぐ左側で聞こえました。
「(誰か、居る?)」
懐中電灯の明かりも無く、暗闇の田んぼの中に人が居るでしょうか?
私は目を凝らしますが暗闇で何も見えません。
すると
「おい!」
左の耳元。
「うわあああ!!」
耳元で誰かが私を呼んだんです。私は恐怖で叫びながら夢中で自転車を走らせて家に逃げ帰りました。
思い返しても私の隣には何も居なかったはずです。足で草を擦る音も足音も何も聞こえませんでした。
・・・・・
それから数カ月が経ちました。
私は以前の事はすっかり忘れてこの日も自転車で帰宅途中でした。
いつもの様に部活で遅くなり、暗闇を自転車で田んぼ道を進みます。
すると・・・
「おーい・・・おーい・・・」
その声は私を呼んでいる気がしました。かなり遠くから・・・
「(誰かが私を呼んでるのか? ん!? これって前にもなかったか!?)」
私は以前の恐怖が蘇って急いで自転車を加速させました。
「おーい・・・」
前回と同じく、急に声の位置が近いです。でも今度は私は止まりません。誰かの悪戯だったらこれで振り切れるハズ!
ところが
「おい!」
キイーーー・・・。
私は急停止!
声は、真正面、顔を合わせる距離でした。当然、周囲にはだれも居ません。
私は恐怖で目を瞑って自転車を漕いで家に帰りました。よくドブに落ちなかったものだと後で自分に関心しました。
・・・・・
そして季節は秋。
暫くは警戒していましたが、その後は声が聞こえる事はありませんでした。
過去の事もすっかり忘れて以前と同じ道を、暗闇の中を自転車で帰ります。
前回と同じ場所に差し掛かった時です。
「おーい・・・」
またいつぞやの様に遠くから誰かが呼んでいます。
「げ! やべっ!」
私は直ぐに自転車を加速させました。全速力です!
このまま家まで逃げ切るつもりでした。
しかし今度はいつもと様子が違いました。
「おおおおおおおおおおお」
声は途切れることなく近づいて来るのです。しかも音量を上げながら。
周囲は全て田んぼです。人が走っては来られません。もし走ったとしたら稲をザアザアと擦る音と足音が聞こえるはずです。
「おおおおおおおおおおおお」
声は急速に接近します。人の速度とは思えません。
私は思わず声の方を見てしまいました。
「おい!!」
正面から、大声で聞こえました。
気がついたら家に帰ってました。
どうやって帰ったかは良く分かりません。
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