第三話
今後についての説明会の内容は着々と進んでいた。
踏み台に乗って、時に黒板に様々な内容を書き記しながら、今後の亮達の授業・訓練内容について話が進む。
話は進む。とても分かり易い。
だがしかし、説明を受ける5人が共通してどうしても気になっていた所があった。
今回の説明会担当。
そして本人曰く明日からの教官であるという。
いや、これはマジか?と。
自分達より幼く小さい、美玖・ルーシェの姿を見ながら。
能力者とは覚醒の折に外見が変化するパターンもある。
例えば猫山 美愛もそうだ。猫耳を生やして生を受けるなんて事はまずない。
それは覚醒の折に稀に備わるスキルの影響があったりとする訳だが、目の前の幼女も実はそれが当てはまるパターンなのでは。
(いや、そもそも幼女の外見で実は幼女じゃないとかもあるか)
失礼と思いながらも亮はそんな事を考えながら改めて美玖・ルーシェの姿を上から下まで見遣る。
まあ、姿はどこからどう見ても小学高学年くらいの背格好である。
結構真剣に見ていたせいか右側から妙な圧を感じる。
別に変な意味で見てる訳じゃないんだから落ち着いてくれ幼馴染よ。
「はい!質問いいですか!」
「いいぞ。聞いてやる」
最後に学生寮の説明に入り、それも終わった所で説明会は終わりを迎えようとしていた。
そのタイミングで元気よく手を上げる藤原に揚々と応える美玖。
「ありがとうございます!美玖先生の年齢を伺ってもよろしいですか!」
思わず裕を見てしまう残りの学生達。
直球だにゃぁ、と亮の隣で美愛が小さく呟いていた。
「11歳だ!紛う事なき実年齢なので変な勘繰りはしないように。以上!」
外見相応だった。実年齢11歳だった。ガチの年下だった。
聞いた本人である裕も「えぇええぇ」と声にならない声を出して驚いている様子だった。
「何だね?君達も見た所、やはり吾輩が何故こんな事になっているのかが気になる口かな?」
「なら最初に言っておく」と美玖は教卓の上に乗った。
「普通に立つと姿が教卓で隠れるからか」などと本人の真剣な様子と裏腹に考えてしまうのは不遜だろうか。
だが、そんな腑抜けた事を考えていた亮達を察した様に美玖はその雰囲気を変えた。
仁王立ちし、教卓の上から見下ろす。ある意味どこか滑稽で、可愛らしい光景であるかもしれないのに―――その威圧感が全てを相殺する。
「能力者とは才能・実力・実績がまずものを言う。律儀に子供だ、大人だと分別を持って動かならいといけない程に、我々には余裕がないものと知るがいい」
その背後に真っ赤な炎が立ち上っているように錯覚する。
その言葉には実感がこもった確かな説得力があった。
(そうか。俺も浮かれていたのかもしれない、能力者になれる事に)
若くから活躍する話なんて、よく聞くじゃないか。
何を今さら区別する、差別するか。子供だからと甘く見られるなんて、それはこれから能力者となる俺達にだって当てはまる話の筈なのだから。
「だが、それでももし吾輩を年下だからと舐めた口をきこうものなら初日から地獄を見てもらう事になるので……以降の授業・訓練では真面目に取り組むように。以上」
美玖は5人全員を見渡した。
人数が少ない為に、その一人一人をしっかりと己の目に焼き付けるように、ゆっくりと。
誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
この緊張感の中で表情を強張らせ、冷や汗を垂らしていない者など一人もいなかった。
そうして、短いのか長いのかという感覚も麻痺してしまいそうな沈黙が続いた後。
「さて。説明は終わりだ。明日は9:00より授業を開始。まずは座学からとなるので場所は講習室だ」
教卓からピョンと、美玖は飛び降りた。
亮達の表情を見て彼女も満足したのだろう、先程までの威圧感は消えている。
得意げに笑みを浮かべたその様子はまさに年相応の可愛らしいものだった。
「学生寮での手続きもあるので、すぐに行動するように。それが終われば今日は解散である。明日に備えて今日の疲れを癒すといいぞ」
「では、また明日である」とそう言って美玖は颯爽と会議室から退室したのだった。
後に残るのは、先輩能力者の威圧を前にへたってしまった若者達のみである。
皆、緊張から解放されたように、脱力した身体を椅子や机に寄り掛からせていた。
「……いや、何なのにゃあの子。私よりちっちゃいのに、ちっちゃくなかったと言うかぁ…」
机にうつ伏せとなったまま美愛が何を言いたいのか分からない言葉を漏らす。
いや、言いたい事は分かるのだ。見てくれが明らかに幼い女の子が来る。
教師兼教官であるという立場上そうじゃないと分かっていたつもりでも、どこか無意識に考えてしまっていた所がある。
こんな小さい子がいて大丈夫なんだろうか、と。
実際には年齢11歳の年下であった訳だが、そんな上からの考えがそもそもの間違いであった。
年の関係なく美玖・ルーシェとは既に一線で活躍している能力者の一人である。
そんな相手をこちらの物差しで測っていい筈がなかったのだ。
「ちっちゃいのに、ちっちゃくない。言い得て妙だな」
亮は思わず呟いた。
あの教卓の上に立つ姿は明らかにそれ以上の大きな物に見えていたのだから。
あれが能力者。
自分達の目指す姿なのだろうと、亮は内心で己の感情を熱くさせていた。
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